
「うちの子、勉強が嫌いみたい」「自分から考えるのが苦手かも」——そんな悩みを感じるお父さん・お母さんも多いのではないでしょうか。
近年、日本でも注目されているのが「IB(国際バカロレア)」という教育プログラムです。その中でも**PYP(Primary Years Programme)**は、3歳から12歳を対象にしたカリキュラムで、子どもが自ら考え、探究する姿を育てることを目的としています。
PYPは「何を学ぶか」よりも、「どう学ぶか」を大切にする教育です。
つまり、答えを教え込むのではなく、子どもが自分で考え、発見する過程を支える——その育ちを支えるのがPYPの特徴なのです。
この記事では、幼児教育の知見をもとに、
IB・PYPの基本理念
家庭で実践するヒント
お子さんの変化や効果
をやさしく解説していきます。
IB(国際バカロレア)PYPとは?その理念と特徴をやさしく解説
世界基準の「学びの探究」
国際バカロレア(IB)は、スイスのジュネーブに本部を置く国際教育機関が運営するプログラムです。世界160カ国以上、5,000校を超える学校で導入されており、「国際的に通用する学びの基準」として知られています。
その中でもPYPは、3〜12歳の子どもを対象とした初等教育課程。子どもたちの好奇心を出発点に、「なぜ?」「どうして?」と問いを立てながら、学びを深めていくプログラムです。
教科の枠にとらわれず、探究・言語・アート・社会・理科などを横断的に結びつける学び方が特徴です。
「学習者像(Learner Profile)」がめざす10の姿
PYPでは、「どんな子どもを育てたいのか」という指針として、**10の学習者像(Learner Profile)**が設定されています。
それは、
探究する人(Inquirer)
考える人(Thinker)
思いやりのある人(Caring)
バランスの取れた人(Balanced)
など。
知識だけでなく、心のあり方や人との関わり方までを大切にしています。
これはまさに、知識偏重ではなく「生きる力」を育てる教育です。
「探究(Inquiry)」を中心にした学びの仕組み
PYPでは、子どもたちが「探究者」として学びを進めます。
たとえば「植物はどうして育つの?」というテーマを探究する場合、教科書の知識を覚えるのではなく、実際に観察・実験を通して考えを深めていきます。
先生は“教える人”ではなく、子どもの問いを支え、一緒に考える“ファシリテーター”。
このアプローチは、まさに「学びの主人公は子ども」というPYPの理念を象徴しています。
家庭での子どもへの関わり方にも通じる考え方
PYPの理念は、家庭の子育てにも応用できます。
たとえば、子どもが「なんで空は青いの?」と聞いたとき、
「太陽の光が空気で散らばるから」と答えるのではなく、
「どうしてだと思う?」と返して、一緒に調べる時間をつくる。
この“対話する姿勢”が、探究心を刺激し、学ぶ力を育てる第一歩になります。
日常の小さな疑問も、家庭にとって立派な「PYP的探究」になるのです。
なぜ今、PYPが注目されているのか
世界が求める“考える力”と“つながる力”
AIが当たり前になった時代、単に「知っている」だけでは通用しません。
子どもたちに必要なのは、「自分で考える」「他者と協働する」力です。
PYPはまさにその能力を育てる教育として、世界中で注目を集めています。
日本でも文部科学省が「探究学習」や「非認知能力」の育成を掲げていますが、PYPはそれを国際的な水準で体系化したプログラムと言えるでしょう。
子どもの“主体性”を引き出す教育
PYPでは、子どもが自分でテーマを決めたり、学び方を選んだりする活動も多くあります。
これは、単なる自由保育とは違い、目的を持って行動する力を育てる仕組みです。
家庭でも同じことが言えます。
「何をやりたい?」と聞いて終わりではなく、「どうすればできるかな?」と一緒に考えることで、思考と行動を結びつけるサポートができます。
子どもが「やってみよう」と感じる瞬間を、親がどう見取り、支えるか——そこが大切です。
家庭でできる!PYP的な学びの取り入れ方
「正解を教えない」——問いを投げかける関わり方
PYP教育の中心にあるのは「探究(Inquiry)」です。
子どもは日々の生活の中で、小さな“なぜ?”を見つけています。
「どうして雲は動くの?」「なんで氷は溶けるの?」——そんな質問を受けたとき、すぐに答えを教えるのではなく、「どうしてだと思う?」「一緒に調べてみようか」と問い返してみましょう。
このような対話が、PYP的な学びの第一歩になります。
大人が答えを与えるよりも、子どもが自分の考えを言葉にし、試行錯誤する時間が、思考力と好奇心を育ちを支えるのです。
日常を“探究”のきっかけにする方法
PYPの学びは、特別な教材や環境がなくても始められます。
身近な体験を通して「学びの種」を見つけることが大切です。
たとえば、
料理をしながら「なぜパンはふくらむの?」と一緒に考える
公園で虫を見つけたときに「どうやって動いているの?」と観察する
雨上がりの空を見て「虹はどうして出るの?」と調べてみる
こうした「なぜ?」の積み重ねが、子どもにとっての“探究プロジェクト”になります。
家庭での生活そのものが、学びの場に変わるのです。
家庭での「学びの対話」を楽しむコツ
PYPでは、「リフレクション(振り返り)」を大切にしています。
学びの最後に「どうだった?」「次はどうしたい?」と話すことで、子どもは自分の考えを整理し、次の行動へとつなげます。
家庭でも、1日の終わりに「今日どんなことが面白かった?」と聞くだけでOK。
お子さんが考えを言葉にする習慣ができると、学びが深まります。
親御さんが「へえ、そんなふうに感じたんだね」と受け止めてあげることが、安心して表現できる土台になります。
PYP的な学びは、“対話の中で育つ学び”なのです。
「環境は第3の教師」——学びを引き出す家庭づくり
PYPでは、環境もまた“先生”のひとりだと考えます。
子どもが自由に手を伸ばせる場所に、本・ブロック・画用紙・自然素材などを置いておくと、探究のきっかけが生まれます。
たとえば、
リビングの一角に「発見コーナー」をつくる
作った作品を飾って「自分の学びを振り返る」スペースにする
絵本をジャンルごとに並べ、「調べたいこと」をすぐ見つけられるようにする
環境が整うと、子どもは「やってみよう」と自分から動き出します。
家庭が“学びのアトリエ”になるような空間を意識してみましょう。
PYP的アプローチで伸びる子どもの力
好奇心と自己表現力が育つ
PYPの探究型学習では、「自分で考える」「自分のことばで伝える」機会が多くあります。
そのため、子どもは「どうしてだろう」「こうしてみよう」と考えることが自然になります。
たとえば、ある園では「光」をテーマにした探究で、子どもたちが懐中電灯や鏡を使って実験を重ねていました。
「光が壁で跳ね返る!」「影が動いた!」と発見を重ねるうちに、学びの楽しさを実感していくのです。
家庭でも、お子さんの「思いつき」を否定せず、「そう思うんだね」と受け止めることで、自由な発想力が育ちます。
思考力・判断力・表現力のバランスが取れる
PYPは「教科の垣根をこえる」学びです。
たとえば「動物のすみか」をテーマにすれば、理科(生態)だけでなく、地理(気候)、図工(絵で表す)、国語(調べたことを発表する)へと広がります。
このように、学びが相互に結びつくことで、知識を活用する力が育ちます。
家庭でも、「テーマを決めて調べてみる」体験はおすすめです。
「好きな食べ物を作るにはどんな材料が必要?」「動物園の地図を描いてみよう」など、遊びながら考える活動を取り入れてみてください。
失敗を恐れず挑戦する姿勢が身につく
PYPでは、失敗を「新しい発見のチャンス」ととらえます。
教師や親が「うまくいかなかったね。でも、どうしたらいいと思う?」と声をかけることで、子どもは再挑戦する力を育てます。
家庭で「失敗ノート」や「やってみたリスト」をつくるのも良い方法です。
「次はどうする?」と一緒に考えることで、学びの過程を見取り、お子さんの育ちを支える時間になります。
家庭での実践を支えるおすすめの知育玩具・書籍
探究心を刺激する知育玩具の選び方
PYP的な学びを家庭で取り入れるとき、頼もしい味方になるのが知育玩具です。
PYPの基本は「探究」。つまり、子どもが自分で考え、試し、発見することを大切にします。
そのため、答えがひとつに決まらないおもちゃ——自由に発想できる玩具が理想的です。
「こうしなければいけない」というルールが少なく、手を動かしながら試行錯誤できるものを選びましょう。
たとえば、ブロックや構造系玩具は、自分の考えを形にできる“探究のツール”。
お子さんが「どうすれば倒れない?」「これを足したら動く?」と考え始めるとき、それはすでにPYP的な学びの姿です。
親御さんが「面白いね」「その形、どうやって思いついたの?」と声をかけてあげることで、思考を深め、表現する力を育てられます。
親子で一緒に考える時間をつくるアイテム
マテルゲーム ブロックスシャッフル ポケモンエディション ボードゲーム HHM20
人気のブロックスがポケモン仕様になった知育ボードゲーム。
カラフルなピースを交互に配置して陣地を広げながら、論理的思考力と空間認識力を楽しく育てます。
キャラクターが登場することで、遊び慣れていないお子さんも夢中になりやすく、親子での対話も自然に生まれます。
「どこに置く?」「次はどうしよう?」と考える時間が、まさにPYP的な探究の一歩です。
アルゴ ベーシック(頭のよくなるゲーム)|学研ステイフル
数字の並びをヒントに、相手のカードを推理する思考型カードゲーム。
ルールはシンプルなのに、論理的思考力・記憶力・集中力を同時に鍛えられます。
PYPの探究学習にも通じる「仮説→検証→考え直し」のプロセスを、遊びながら体験できるのが魅力。
親子で一緒に推理を楽しむ時間は、対話的な学びのきっかけにもなります。
「どうしてそう思ったの?」と問いかけながら、考える過程を共有してみましょう。
セイコー 知育掛け時計 KX617W
「時計を読む力」を学びの出発点にできる知育アイテム。
長針・短針が色分けされ、0〜59分の数字が入っているので、初めて時間を学ぶお子さんにもぴったり。
PYPが重視する“自立した学び”を支え、日常の中で時間の感覚をつかむ力を育てます。
親子で「何時に出発する?」「あと何分?」と会話する時間が、自然な学びの習慣につながります。
コサイン 子ども時計 CW-14
木の温もりを感じるデザインが魅力の知育時計。
長針・短針の色や形が見やすく、インテリアとしても優しい印象です。
PYPが重視する「環境は第3の教師」という考えのもと、子どもの視界に入る環境がそのまま学びを引き出します。
「今何時かな?」と自分で確認する習慣が、“自分で考えて行動する”力を育てます。
PYP的な考えを学べる書籍
『探究プロジェクトの最前線 国際バカロレア(PYP)の理論と実践』
PYPの理論を実際の教育現場にどう活かすかを、具体的なプロジェクト事例を通して紹介する一冊。
「探究とは何か?」「子どもが主体的に学ぶとは?」という問いに、理論と実践の両面から丁寧に答えています。
教育者だけでなく、家庭で探究型の学びを取り入れたい親御さんにも理解しやすく、実践のヒントが豊富。
PYPを“知る”から“一緒に育てる”へとつなげてくれる良書です。
『探究の達人 子どもが夢中になって学ぶ!「探究心」の育て方』
「探究ってどうやって育てればいいの?」という親御さんの疑問に、実践的に答えてくれる一冊です。
著者の神田昌典氏と学修デザイナー協会が提唱する“探究のサイクル”は、PYPの考え方と通じる部分が多く、家庭での学びにも応用できます。
お子さんが「もっと知りたい!」と感じる瞬間をどう支え、どう広げるか。その具体的な関わり方がわかりやすく紹介されています。
親子で“学びの楽しさ”を再発見できる内容です。
『自分の頭で考える子に育つ 学ぶ力の伸ばし方』
「考える力」を育てたいお父さん・お母さんにおすすめの一冊です。
知識を詰め込むのではなく、子ども自身が“なぜだろう”と感じ、考え、行動する力を育む方法を、具体的なエピソードとともに紹介しています。
PYPの探究学習とも重なる「自分で問いを立てる」姿勢を家庭でどう支えるかが、やさしく解説されています。
お子さんが自分の頭で考え、学びを楽しむ姿を見取りたい方にぴったりです。
家庭での学びを深めるために
知育玩具や書籍は、“学びを広げるためのツール”です。
大切なのは、お子さんが「やってみたい」と感じた瞬間をどう支えるか。
親御さんが一緒に驚き、考え、喜ぶことで、学びの時間が特別な体験になります。
たとえば、ブロックスで戦略を考える姿や、時計を見て時間を読もうとする姿を「考える力が育ってるな」と見取ること。
その瞬間を見逃さず、「あなたの考え、いいね」と言葉で伝えるだけで、子どもの自信がぐっと深まります。
PYPの理念とつながる“家庭での学び”
IBのPYPが目指すのは、学びを自分のものとして捉える子どもを育てることです。
「遊び」や「生活」の中に探究の種がたくさんあります。
それを見つけ、考え、形にする過程を支えることが、家庭でできる最も効果的なPYP実践です。
学びは、特別なものではなく「今日の生活の中」にあります。
ご家庭の中に、探究が生まれる空間を少しずつ広げていってください。
よくある質問と注意点
Q1:IBやPYPの考え方は、特別な学校に行かないとできませんか?
いいえ、そんなことはありません。
PYPの根本は「子どもの主体的な学びを支えること」です。
つまり、どんな家庭でも、どんな園や学校でも、その考え方を取り入れることができます。
たとえば、
子どもの疑問に耳を傾ける
失敗を恐れず試す姿を応援する
結果よりも過程を認める
この3つだけでも、立派なPYP的アプローチです。
家庭の中にある日常を「学びの場」に変えることが、何よりの実践になります。
Q2:探究的な関わり方って、時間がかかりませんか?
たしかに、すぐに答えを出すより時間はかかります。
でも、それは「考える力」を育てるための大切な時間でもあります。
子どもが「自分で気づいた!」と思える瞬間ほど、深く記憶に残るものはありません。
たとえば、親が答えを言うよりも、子どもが試して失敗して、次の方法を考える——その過程が学びです。
焦らず、寄り添いながら、お子さんのペースで進めていくことを意識してみてください。
Q3:間違った方向に進んでいたらどうしたらいい?
大丈夫です。PYPでは「間違いも学びの一部」と考えます。
「どうしてそう思ったの?」「他の考え方もあるかな?」と対話することで、子どもは自分の考えを見直す力を身につけます。
親が訂正するよりも、一緒に考え直す時間を大切にすることが、思考力と柔軟性を育てます。
Q4:家庭で無理なく続けるには?
PYP的な家庭教育は「続けること」が鍵です。
でも、難しく考える必要はありません。
「子どもの“なんで?”を大切にする」ことから始めてみましょう。
日常の中で探究が自然に起きるよう、
リビングに図鑑を置く
絵を飾って話題にする
親も一緒に“調べる役”を楽しむ
そんな小さな工夫で十分です。
大切なのは、子どもの気づきを認め、学びを言葉にする時間を持つこと。
注意点:焦らず「比較しない」子育てを
PYPでは、「他の子と比べる」よりも「自分の成長をふり返る」ことを重視します。
家庭でも、「○○ちゃんはできたのに」と比較する言葉より、
「前よりできるようになったね」「この前とは違う工夫をしたね」といった“成長の見取り”が大切です。
学びには個人差があります。
子どもが自分らしく伸びていく姿を信じて、見守ることが、PYP的な子育ての本質です。
これから試してみたい工夫
PYP的な関わりは、日常の小さな「問い」から始まります。
ここでは、すぐに試せる3つの工夫を紹介します。
①「問いかけ」を変えてみる
つい「これやったの?」「どうしてできないの?」と問い詰めがちですが、
今日から少しだけ言葉を変えてみましょう。
たとえば、
「どう思う?」
「何が一番おもしろかった?」
「次はどうしてみたい?」
こうしたオープンな質問が、子どもの考える力を引き出します。
②「作品」を通して学びをふり返る
お絵かきや工作、積み木などの遊びも、立派な探究の記録です。
作ったあとに「どうやって考えたの?」「一番工夫したところは?」と聞くことで、思考を整理する力が育ちます。
できた作品を写真に残したり、「発見ノート」を作ったりすると、成長を“見える化”できます。
これはまさに、PYPで重視される“リフレクション”の家庭版です。
③「親も学び手になる」姿を見せる
PYPでは「学びは大人も子どもも続くもの」と考えます。
親が「知らないけど、一緒に調べてみよう」と言う姿こそ、最高のモデルです。
親が楽しんで学ぶ姿は、子どもにとって“学ぶって面白い”という最良のメッセージになります。
スマホで調べたり、図鑑を開いたり、図書館へ行ったり——その姿勢が、お子さんの学びの姿勢をつくります。
まとめ:家庭から始める「探究する学び」
PYPの本質は、子どもが主体となって学びを楽しむことにあります。
それは、家庭でも十分に実現できます。
お子さんの「なぜ?」に耳を傾け、
「どうしてだろうね」と一緒に考え、
「できた!」と感じる瞬間を見取る——その繰り返しが、深い学びを育てます。
家庭が“子どもの探究のステージ”になるとき、
学びはテストのためではなく、「自分の世界を広げる旅」になります。
最後に
お父さん・お母さんが今日からできる小さな一歩は、
「子どもの問いを止めない」ことです。
完璧な答えはいりません。
答えを一緒に探す時間そのものが、学びの宝物になります。
お子さんの好奇心を信じて、一緒に探究の旅を楽しんでください。
それが、PYPの理念と同じように——“学びの喜び”を生きる力に変えていく最初の一歩になるはずです。