
「机に座ってほしいのに、すぐ立ち歩いてしまう」「全然集中が続かなくて困っている」。
このような悩みを話されるお父さん・お母さんはとても多いです。決して珍しいことではなく、むしろ乳幼児期では自然に見られる姿ともいえます。大切なのは、ただ「座れない」と評価するのではなく、今のお子さんにどんなサインがあるのかを丁寧に見取ることです。
幼児教育の知見をもとに、子どもが机に座れない背景にはいくつか共通する理由があります。身体の発達、環境の影響、心理的な要素、そして日々の生活リズムなど、複数の要因が重なっていることがほとんどです。この記事では、その理由をわかりやすく整理し、家庭でできる工夫を具体的に紹介します。
無理に「座らせる」のではなく、自然と座れる状態を整えることができると、お子さんの育ちを支える大きな力になります。
子どもが机に座れない主な理由
発達段階によるもの
子どもの集中できる時間は、大人の想像よりもずっと短いものです。例えば3歳前後では、一般的に3〜5分程度の集中が自然です。これは“集中力がない”のではなく、脳の発達段階によるものです。
また、体幹がまだ未発達で、長時間同じ姿勢を保つのが難しい時期でもあります。座り続けるには背筋や腹筋の働きが必要ですが、成長途中の体では負担が大きく、自然に立ち上がってしまうことがあります。
「落ち着きがない」のではなく、“動いて学ぶ力が強い時期”。この視点を持つだけでも、お父さん・お母さんの気持ちがぐっと楽になります。
環境要因によるもの
机やいすが身体に合っていない場合、お子さんは座るだけで疲れてしまいます。足がぶらぶらして踏ん張れなかったり、机が高すぎて腕が上がってしまうと、それだけで座り続けるのは難しくなります。
さらに、テレビの音が聞こえたり、おもちゃが視界に入る環境だと、注意が自然にそちらに向いてしまいます。大人でも散らかった部屋では集中しにくいように、子どもにとっても環境づくりはとても重要です。
「遊び空間」と「机に向かう空間」が曖昧だと、気持ちの切り替えがうまくできない子も多くいます。
心理的な要因
「机に座る=やらされること」というイメージが積み重なると、それだけで机から離れたくなります。
たとえば、「ちゃんと座って」「早くやって」といった声かけが続くと、机に向かう行動自体がプレッシャーになってしまうことがあります。
成功体験が少ないお子さんほど、「どうせできない」と感じてしまうこともあり、座る前からやる気が下がってしまいます。
心理的な負担が軽くなるだけで、自然と座れる時間が伸びるケースはとても多いのです。
自然に座れるようになる家庭での工夫
ここからは、家庭で今日から実践できる工夫を紹介します。机に座る力は、トレーニングではなく「環境と関わりの積み重ね」で育っていきます。
家庭環境を整える
まずは机といすの見直しから始めます。足の裏が床につく、または踏み台にしっかり乗るだけで安定感がまったく違います。背中が丸くならず、腕が自然に机に伸ばせる姿勢が整うと、座りやすさが大きく変わります。
環境づくりは「集中できるゾーン」をつくることでもあります。お気に入りの場所、少し静かなスペース、光の反射が気にならない位置など、ちょっとした工夫で落ち着く空間になります。
生活リズムと体の動きを整える
座る前に体を動かすと、体の緊張がほぐれ、落ち着いて机に向かいやすくなります。ジャンプ、ストレッチ、軽いダンスなど、数分で十分です。
また、睡眠・食事・活動のリズムが乱れていると集中しづらくなります。生活リズムは、机に向かう姿勢にも大きく影響します。
楽しさから「座りたい気持ち」を育てる工夫
興味のある活動から始める
机に座る時間を増やす最も効果的な方法は、「楽しい気持ちで机に向かう」経験を積み重ねることです。
お子さんの興味に合わせて、シール貼り、ぬり絵、簡単な工作、パズルなどから始めてみましょう。
大切なのは、「お勉強だから座る」のではなく、
“やりたいから座る” という前向きな行動につなげることです。
できたところをお父さん・お母さんが丁寧に見取り、
「最後までやろうとしたね」「この色の組み合わせすてきだね」と肯定的に伝えることで、
お子さんの自己肯定感が育ちます。それが次の「やってみよう」という気持ちにつながります。
短い時間から始める
集中時間は年齢で大きく違います。
例えば
2〜3歳……2〜5分
4〜5歳……5〜10分
これは一般的な発達傾向であり、決して「短いから心配」というものではありません。
むしろ、最初から長く座らせようとすると、机に向かうこと自体が苦手になってしまいます。
タイマーを使って「3分だけやってみようか」と声をかける方法も効果的です。
「終わったら一緒に休憩しようね」と伝えると、お子さんは安心してチャレンジできます。
達成感が積み重なる活動を選ぶ
ぐるぐる描き、シール貼り、型はめ、ひも通しなど、
“できた”が目に見える活動 は、お子さんのやる気をぐっと引き出します。
失敗が少なく、「次はこうしてみようかな」という気付きが生まれやすいため、
机に座ることが自然と心地よい時間に変わっていきます。
机に座れないお子さんによくある悩みとその乗り越え方
すぐに立ち歩いてしまう場合
すぐ席を立ってしまうお子さんは「動いて学びたい」気持ちが強いタイプかもしれません。
その場合は、活動の途中に体を動かす時間をあえて作るのもおすすめです。
例:
シールを3枚貼ったらジャンプを5回
パズルを1つ入れたら「ぐるぐるストレッチ」
動くことを否定するのではなく、「動く→また座る」というリズムをつくることで
集中の波が整い始めます。
「やりたくない」と拒否する場合
机での活動が「うまくいかなかった経験」と結びついてしまうことがあります。
その場合は、ハードルの低い活動に切り替え、できた部分をしっかり認めてあげることが大切です。
また、「やらされている」と感じると拒否反応が出やすくなります。
お子さん自身に選択肢を渡すことで、気持ちが前向きになります。
例:
「ぬり絵とパズル、どっちがいい?」
「この色とこの色、どっちを先に使う?」
選ぶ権利があると、机に向かうことが自分ごとになり、主体的な姿勢が育ちます。
じっとしていられない場合
体幹の弱さが原因の場合もあります。
座ることがしんどいと、どれだけ気持ちはあっても長続きしません。
その場合は、
普段の遊びで体をしっかり動かす
バランスを取る遊びを取り入れる(平均台ごっこ・クッション遊び)
姿勢を支える椅子やクッションを使う
など、身体面のサポートが大きく役立ちます。
家庭で役立つアイテムを活用する
机に座る力は日常生活の中で自然に育っていきます。
そのサポートとして、知育玩具や書籍などのアイテムを取り入れるのはとても効果的です。
ここでは、日々の遊びの中で無理なく集中力や座る習慣を育てられるものを紹介します。
手先を使って集中できる知育玩具
手指をたくさん使う遊びは、脳の前頭前野を刺激し、集中する力を育てると言われています。
また、座って遊ぶ経験を自然に積み重ねられる点もポイントです。
例:
形合わせ・型はめのおもちゃ
色分け・分類遊び
コマ落とし・ひも通し
パズル遊び
「できた」がわかりやすく、自信につながりやすいので、机に向かう気持ちが自然と育ちます。
親子で「一緒に考える時間」が作れる遊び
お父さん・お母さんと一緒に考えたり話し合える活動は、机に座って向き合う時間そのものを楽しいものに変えてくれます。
例:
観察力を使うゲーム
ルールを守りながら進めるボードゲーム
話しながらすすめる推理系の遊び
親子でのコミュニケーションが深まり、「机=楽しい時間」というイメージにつながります。
家庭で作れる「机に向かいやすい環境」の整え方
目的に合わせた机と椅子の高さにする
机に座ることが苦手なお子さんの場合、
環境が合っていないだけで集中力が続かないケースもよくあります。
特に大切なのは、椅子の高さ と 机の高さ のバランスです。
理想は以下の状態です。
足裏がしっかり床につく
背もたれに寄りかからなくても座れる
机に軽く肘が置ける高さ
足が宙ぶらりんだと体が安定せず、姿勢を保つだけで疲れてしまいます。
その結果、活動に意識を向けられず立ち歩きにつながることも。
もし椅子が合わない場合は、
足置きを置く
座面にクッションを入れて高さ調節する
など、ご家庭でも簡単に調整できます。
机の上は「必要なものだけ」を置く
机の上に物がたくさんあると、どうしても注意が散ってしまいます。
大人でも同じですが、お子さんは特に周囲からの刺激に敏感です。
机に置くのは、とりかかる活動に必要な道具だけにすることで、
「今はこれをやる時間なんだ」と意識を向けやすくなります。
また、おもちゃが近くに見えているだけでも気が散ってしまうので、
作業スペースからは見えない場所に片づけておくのもポイントです。
静かすぎる・にぎやかすぎる場所を避ける
家庭では、リビングで活動するお子さんが多いと思います。
しかし、テレビの音や家族の会話が常に聞こえている場所だと、
小さなお子さんにとっては刺激が強すぎる場合があります。
逆に、静かすぎる環境は落ち着かないタイプのお子さんもいます。
その場合は
小さめのBGMを流す
生活音がある場所で短時間だけ取り組む
といった工夫で「心地よさ」が生まれます。
"始まり" と "終わり" をわかりやすくする
机に向かう時間にメリハリをつけると、お子さんの見通しが持ちやすくなり、
座りやすさにつながります。
おすすめはタイマーの活用です。
「5分だけやってみようね」
「音が鳴ったらおしまいね」
こうした声かけは、お子さんに “時間の区切り” を伝え、
気持ちの切り替えを助けてくれます。
終わったら、
「がんばったね」「最後まで座ってみようとしていたね」
と、挑戦の姿を見取って言葉にしてあげることで、達成感が深まります。
親の関わり方で変わる「机に座りやすさ」
「できたところ探し」を意識する
机の活動は、どうしても「できた」「できない」に目がいきがちです。
しかし、机に座る習慣を身につける段階では、結果よりも “過程の成長” を丁寧に見取ることがとても重要です。
例えば
最初の1分は座っていられた
自分で色を選ぼうとしていた
パズルをあと1つで完成できそうだった
このような小さな成長を具体的に言葉にして伝えると、
お子さんは「次もがんばってみよう」と思えるようになります。
「座りなさい」はNGワード
つい口にしてしまいがちな言葉ですが、
強制的に座らせると机の活動そのものが嫌になってしまいます。
代わりに
「これ、やってみる?」
「一緒に選ぼうか」
「終わったらおやつにしようね」
など、前向きな提案に変えることで、
ご両親の声かけが “机に座りたい気持ち” につながるきっかけになります。
親子で一緒に楽しむ姿勢が大切
机に座る時間を「トレーニング」にしてしまうと、お子さんの負担感が大きくなります。
親御さん自身が楽しそうに取り組む姿を見せるだけで、
お子さんは自然とそこに引き寄せられます。
ときには、丁寧にできなくても大丈夫です。
「一緒に遊ぶ時間を楽しむ」
その気持ちが、結果的に机に向かう習慣を育てる一番の土台になります。
机に座る力をゆるやかに育てるアイテムの紹介
※商品名はここでは伏せ、自然な導入にとどめています。
手指を使う活動を支えるアイテム
ひも通し、パズル、分類遊びなどは、机に座って取り組むハードルが低く、
集中時間が伸びやすいアイテムです。
また、手指を使う活動は脳の発達を促し、
「続けたい」という気持ちを引き出してくれるため、
机に向かう時間を自然に増やしたいご家庭にぴったりです。
親子で一緒に楽しめるゲーム
ボードゲームやルールのある遊びは、
順番を待つ力や集中して考える力を育ててくれます。
親子で対話しながら進める遊びは、
ご家庭の中に「自分の考えを伝える時間」を自然に作り、
学びの根っこを育むといわれています。
単なる一時的なブームで終わらず、年齢や発達に応じて遊び方が変化していくものを選びましょう。
1.テンヨー 『脳ブロック』
手のひらサイズから始まる“遊びの旅”。テンヨーの知育ブロックシリーズは、形や色を自分で選びながら創り出す楽しさが詰まっています。小さなお子さんが「やってみたい!」と手を伸ばす瞬間が、集中力や想像力の育ちを後押しします。親御さんも一緒に遊ぶことで、笑顔と達成感を共有できるのも魅力。家庭での遊び時間を、子どもの“育ちを支える”時間に変えてみませんか?
2.カワダ 『ナンスピ』
「遊びながら夢中になれる」その瞬間が、集中力を育てる大切な出発点です。KAWADAのこのボードゲームは、数字カードやライトの順番を記憶してチャレンジする3つのモードを備え、遊びながら集中力・注意力・記憶力を鍛えられます。対象年齢6歳以上、コンパクトなサイズなのでご家庭のリビングでも楽しめ、お子さんと一緒に「できた!」という達成感を分かち合えるのも魅力。家庭時間を、育ちを支える“遊び時間”に変えてみませんか。
3.マテルゲーム ブロックス トライゴン
この知育ボードゲームは、「遊びながら賢くなる」家庭時間を実現します。2〜4人で遊べる仕様で、対象年齢7歳以上。三角形のピースを交互にボードに配置し、最終的に多くのマスを埋められたプレイヤーが勝利というルールで、視覚-空間能力や計画力、集中力を育てる工夫が詰まっています。遊びが終わったら「どこが難しかった?どう変えた?」と話すことで、お子さんの“考える力”を育ちを支える時間にもなります。
4.アルゴ ベーシック (頭のよくなるゲーム)
数学と論理的思考を楽しく伸ばせる一冊です。カードを使って「何が隠れているの?」と推理しながら遊ぶ教材で、遊びの中に集中力や分析力が自然と育まれます。お子さんが「気になる!」「もう一回やってみたい!」という瞬間を増やせるのも魅力。お父さん・お母さんがそばで声をかけながら、「今日の発見はね」と子どもの育ちを支える時間になる一冊です。
発達心理学で培われた知見を参考にする
子どもの「集中力」を育てる聞くトレ 聞く・見る力を改善する特別支援教育 / 上嶋 惠 著
日常の子育てにひと工夫を加えたいと感じているお父さん・お母さんへ。この一冊は、発達心理学と現場で培われた知見をやさしく紐解いており、お子さんの「なんでこうするの?」という行動に対して、理解と安心をもたらしてくれます。遊びやコミュニケーションを通じて『集中力・意欲・社会性』を育てる具体的なヒントが満載。家庭での子どもの育ちを支えるための、心強いパートナーとなる一冊です。
よくある質問と回答
Q1.「机に全く座れないのですが、発達の心配をしたほうがいいですか?」
A. 年齢によって集中できる時間には大きな個人差があります。
2〜3歳ごろは2分座れれば十分というお子さんもたくさんいます。
大切なのは、「座れない=できない」と捉えるのではなく、
“今の発達段階ではどうして座りにくいのか” を理解することです。
体幹が育っていない
活動が難しすぎる
達成感が得られていない
興味が広がりやすい環境にいる
など、理由はさまざまです。
心配な場合は、普段の遊びの中で「どんな姿を見取れるか」を意識し、
少しずつ環境や活動の難易度を調整してみてください。
改善が見られない場合は、地域の子育てセンターや専門機関に相談してみると安心です。
Q2.「座れないことを叱ったほうがいいですか?」
A. 叱ることはおすすめできません。
叱られた経験は、「机に座る=怒られる」と結びつき、
ますます座ることを避けるようになってしまいます。
代わりに、
座れた瞬間を認める
できそうな活動に切り替える
座らずにできる活動から始める
など、肯定的なアプローチを積み重ねてみてください。
Q3.「どれくらいの頻度で机の活動をすればいいですか?」
A. 無理のない頻度で構いません。
毎日でなくても、週に2〜3回、短い時間を楽しく経験できれば十分です。
重要なのは、「机の活動=楽しい」というイメージが積み重なること。
続けることよりも “心の余裕” を優先してあげると、お子さんも安心して取り組めます。
Q4.「兄弟がいる場合、どうしても中断が多くなります」
A. 兄弟の存在は大きな刺激になるので、集中が途切れることは自然なことです。
その場合は、
上の子/下の子が別の遊びに集中している時間に取り組む
少し離れた場所に机を置く
親御さんが交互に見る
など、小さな工夫で座りやすさが生まれます。
今日からできる「座りやすさ」を育てる家庭の関わり方
ここでは、家庭ですぐに取り入れられる工夫を
“やってみたいと思える形” で紹介します。
1. まずは1〜2分の短い成功体験をつくる
「短くても、座れた」という手応えは、次の挑戦につながります。
長時間を目指す必要はありません。
今日1分、明日1分半…というゆるやかな伸びで十分です。
2. お子さんの「選ぶ力」を尊重する
選べるだけで主体性がぐっと高まります。
「パズルとぬり絵、どっちからにする?」
「青と赤、今日はどっちを使ってみる?」
こうした小さな選択が、「やってみたい気持ち」を育ててくれます。
3. 活動の“終わり”を明確にする
タイマーを活用し、
「ここまでできたらおしまいね」
という見通しをつくることで、安心して集中できます。
終わったら、できた部分をしっかり言葉にして伝えることで、
次のチャレンジへの原動力になります。
4. 遊びの延長として机の活動を取り入れる
机に座ることを訓練ではなく、
“遊びの一部” に変えてあげるとハードルが下がります。
道具を「宝物袋」に入れて選ぶ
完成した作品を写真に残す
親子で同じ活動に取り組む
一緒に楽しむ空気が、習慣づくりに大きく影響します。
5. できない日も「それでいい」と考える
お子さんは、気分・体調・環境の影響を受けやすいもの。
取り組めない日があっても、
「今日はいったんおやすみにしようか」と柔軟に対応することで、
机に座る時間が負担にならない習慣が続きます。
まとめ ー これから試してみたい工夫
机に座る力は、急に伸びるわけではありません。
毎日の遊びや生活の中で、小さな“できた”が積み重なることで育っていく力 です。
この記事で紹介した工夫をまとめると次のとおりです。
興味のある活動から短時間だけ始める
お子さん自身が選べる環境をつくる
机の高さや周囲の刺激を整える
終わりがわかる仕組みを取り入れる
親子で楽しめる遊びや知育アイテムを活用する
「できたところ探し」を意識する
こうした小さな工夫が積み重なることで、
「机に向かうことが心地よい時間」に変わっていきます。
無理なく続けられそうなものを、今日から一つだけ取り入れてみてください。
ゆっくりとした歩みの中に、お子さんの大きな成長がたくさん見えてくるはずです。