保育

【解説】「環境を通して行う教育」とは何か ― 保育環境づくりの視点

※アフィリエイト広告を利用しています

保育の現場で「環境を通して行う教育」という言葉を聞いたことはあっても、実際にどう実践に落とし込めばよいのか迷うことはありませんか。保育所保育指針や認定こども園教育・保育要領にも示されている大切な視点ですが、「環境=教室の家具の配置」だけだと思ってしまうと、本来の意味が十分に伝わらないこともあります。

園児が安心して過ごせる環境を整えることはもちろん、遊びや生活の中で子どもたちが主体的に関わり、友達や職員と学び合える空間をつくることが求められています。しかし、保育士さんの中には「おもちゃを増やせばいいの?」「安全を優先すると遊びが制限されてしまう」と悩む方も多いでしょう。

この記事では「環境を通して行う教育」の意味をわかりやすく整理し、現場での悩みに寄り添いながら、実際に使える環境づくりの工夫や注意点を解説します。さらに、学びを深めるのに役立つ関連書籍も紹介し、日々の実践に活かせるヒントをお届けします。

「環境を通して行う教育」とは

「環境を通して行う教育」とは、子どもたちが育っていく過程を支えるために、物的環境(空間・教具・遊具など)、人的環境(職員や同僚、保護者さんなど関わる人々)、時間的環境(生活リズムや遊びの流れ)といった要素を整え、学びや育ちを自然に引き出すことを指します。

教育・保育要領では「環境」は単なる背景ではなく、子どもたちの活動を引き出す大切な“教育的な要素”と位置づけられています。つまり、保育者の言葉がけや教材の選び方と同じように、環境そのものが教育的役割を担うのです。

物的環境(空間や教具)

保育室のレイアウトや遊びのコーナーづくりは、園児の主体性を引き出すための大事な仕掛けです。例えば積み木コーナーを窓際に設けると、自然光が入り、子どもたちが作った作品が輝いて見えます。これだけでも「もっとつくりたい」という気持ちを刺激する環境になります。

人的環境(関わる人の存在)

職員や同僚だけでなく、園で出会う保護者さん、異年齢の友達も含まれます。人的環境が安心感を与え、挑戦や失敗を受け止める土台となります。保育士のちょっとした声かけが、子どもの「やってみたい」という意欲を支える大きな力になります。

時間的環境(生活リズム)

一日の流れを見直すことも「環境づくり」に含まれます。遊びにじっくり取り組める時間が保障されているか、給食や午睡の切り替えが急ぎすぎていないか。時間的環境は目に見えにくいものですが、園児の落ち着きや遊びの深まりに直結します。

保育士が抱えやすい現場の悩み

「環境を通して行う教育」という大きなテーマを前に、実際にはさまざまな悩みが出てきます。

園児主体と大人の管理のバランス

安全を優先すると、遊びが制限されてしまうのではないかという不安を抱くことがあります。園児が自由に活動できる場を保障しながら、どう安全を守るかが課題です。

遊びの自由度と安全性のせめぎ合い

すべての活動を事前に決めてしまうと、子どもたちの主体性が育ちにくくなります。一方で自由にしすぎると、事故やトラブルの心配が出てきます。このジレンマは多くの保育士が感じている悩みです。

職員間の連携不足

同僚との間で「どの程度環境を整えるか」という視点が揃わず、環境づくりに統一感がないと、園児にとって落ち着かない環境になることもあります。共通理解をどう作るかは現場の大きな課題です。

環境を通して行う教育の実践ヒント

現場で「環境を通して行う教育」を意識するためには、日々の小さな工夫を積み重ねることが大切です。ここでは、物的環境・人的環境・時間的環境の3つの観点から具体的な取り組みを紹介します。

物的環境を工夫するポイント

子どもたちが自分で選び、考え、試せるように空間を工夫することが第一歩です。

  • コーナー保育の導入
    絵本コーナー、ブロックコーナー、ままごとコーナーなどを分けて配置すると、子どもたちが「今はこれをやってみたい」と選択する姿を見取ることができます。

  • 子どもの視点に合わせた配置
    棚の高さを低くして自分で取り出せるようにするだけで、主体性は大きく変わります。先生が手渡すのではなく「自分で選ぶ」こと自体が学びにつながるのです。

  • 自然素材の活用
    木の実や落ち葉、布切れなどシンプルな素材は、想像力を広げ、表現活動を豊かにします。

人的環境を育む工夫

人的環境は「関わりの質」を高めることがカギです。

  • 保育士の声かけ
    「どうしたらいいかな?」と問いかけるだけで、園児の考える力が育ちます。正解を与えるのではなく、一緒に考える姿勢が環境そのものを教育的にします。

  • 同僚との協働
    保育士同士が環境への視点を共有し合うことで、一貫性のある保育ができます。「どこまで子どもに任せるか」という線引きをチームで話し合うことが重要です。

  • 保護者さんの巻き込み
    「園での環境づくりが家庭生活にも影響している」という視点を共有すると、家庭と園の連続性が生まれます。

時間的環境を整える工夫

生活の流れそのものを見直すと、子どもたちの育ちが支えられます。

  • 遊びの時間を保障する
    「もう片付け!」と急かさず、余韻を残す時間を確保すると集中が深まります。

  • 切り替えの工夫
    突然「次はこれ!」ではなく、歌や合図を取り入れることで自然に移行できます。

  • 一人ひとりのリズムを尊重
    午睡の時間も「全員一斉」ではなく、個々の状態を見取って調整できる柔軟さが大切です。

実際の事例から学ぶ

園での事例を紹介しながら、「環境を通して行う教育」の実践イメージを具体化します。

共同制作活動

大きな紙にみんなで絵を描くとき、絵の具や筆の配置を工夫するだけで「順番を待つ」「友達に譲る」といった社会性が育ちます。環境がそのまま教育の場になる瞬間です。

ごっこ遊びの展開

ままごとコーナーに本物そっくりの器や食材模型を用意すると、子どもたちは「お客さん役」「店員役」と役割を分けて遊びを広げます。道具や空間が想像力を支える環境となります。

自然の中での遊び

園庭や散歩で拾った落ち葉や石を「宝物」に見立てて遊ぶ姿は、環境が子どもたちの表現活動を引き出している好例です。

保育士にとってのメリット

「環境を通して行う教育」を意識することで、保育士自身にも大きなメリットがあります。

  • 子どもの姿を見取りやすくなる
    環境が整っていると、子どもが自ら関わる姿が増えます。その分、観察や記録に集中できます。

  • 声かけが自然になる
    「これやってごらん」ではなく「見てるよ」「どう思う?」と、子ども主体の関わりがしやすくなります。

  • 職員間の共通言語ができる
    環境づくりを意識すると、同僚同士の話し合いがスムーズになり、園全体での一体感が生まれます。

環境を通して行う教育の注意点とデメリット

「環境を通して行う教育」はとても効果的ですが、気をつけたいポイントや課題もあります。メリットばかりでなく、デメリットを理解しておくことで、現場での実践がより現実的になります。

環境を整えることが目的化しないように

保育室の配置や教材の準備に力を入れすぎると、形ばかりの環境づくりになってしまうことがあります。大切なのは、環境そのものではなく「子どもの姿を見取る視点」です。環境を作ること自体が目的化すると、本来の「育ちを支える」意図が薄れてしまいます。

保育士の負担が大きくなりやすい

物的環境を頻繁に変える、コーナーを常に新しくするなどを目指すと、職員に大きな負担がかかります。特に人手が足りない園では「準備が追いつかない」と感じることも多いでしょう。必要なのは「持続可能な工夫」であり、毎日変えるのではなく「子どもたちの変化を見ながら少しずつ変える」くらいが現実的です。

子どもたちの安全管理

自然素材や本物の道具を使う場合、安全面への配慮が欠かせません。たとえば石や枝も魅力的な教材ですが、誤飲やケガの危険がないように使い方を一緒に確認する必要があります。「安全と挑戦のバランス」をどう取るかは、保育士の腕の見せ所です。

園児一人ひとりの違いに注意

環境を工夫しても、すべての園児が同じように活用できるわけではありません。発達の段階や興味関心の違いによって「環境が合う子」と「まだ難しい子」が出てきます。一律に押しつけず、その子なりの育ちを支える視点が大切です。

現場でよくある悩み

「環境を通して行う教育」を意識している先生方からは、こんな声をよく聞きます。

  • 「コーナーを作ったけれど、遊びがすぐマンネリ化してしまう」

  • 「職員同士で環境づくりの考え方が違い、意見がぶつかる」

  • 「保護者さんから『遊んでばかりで学びはあるの?』と聞かれて説明に困った」

これらはどれも現場ならではのリアルな課題です。しかし、これらの悩みも「環境を通して行う教育」の本質を理解し、工夫を積み重ねることで乗り越えられます。

よくある質問と回答

Q1. 環境を工夫しても、遊びが広がらないときはどうすればいいですか?

A. 子どもたちの興味に合っていない可能性があります。観察を重ね、「今何に夢中なのか」を見取って環境を少し変えてみましょう。

Q2. 環境を工夫するために予算が限られていて困ります。

A. 高価な教材を買わなくても大丈夫です。自然物や廃材を活用することで、逆に想像力を刺激する豊かな環境がつくれます。

Q3. 保護者さんに「遊びばかりに見える」と言われたとき、どう説明すればよいですか?

A. 「環境を通して行う教育」は遊びの中に学びを見取るものです。「片付けを通じて順番を待つ力が育っています」など、具体的な姿を言葉にして伝えることが大切です。

実践を支えるおすすめ書籍

こうした悩みや疑問に向き合うと、「もっと具体的な事例を知りたい」「実践者の工夫を参考にしたい」と思う先生も多いのではないでしょうか。

実際に、環境づくりの工夫は文章だけでなく写真や図を見て学ぶと理解が深まります。特に、現場で使える事例や記録の仕方が紹介されている書籍は、同僚との共有にも役立ちます。

ここからは、保育士さんにおすすめしたい関連書籍を紹介します。どれも「環境を通して行う教育」を実際に支えるヒントが詰まった一冊です。日常の実践を豊かにし、保護者さんへの説明の根拠としても活用できるでしょう。

『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック 』の活用

保育現場で必携の一冊が 『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック (Gakken保育Books)』 です。要領の内容をわかりやすく整理し、日々の保育や指導計画にどう生かすかを丁寧に解説しています。園児の育ちを支える視点を確認したい新人から、中堅・ベテランの先生まで役立つ実践書です。教育・保育要領を日常の保育に落とし込みたい方にぜひおすすめです。

遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てるで学べる視点

子どもにとって「遊び」は単なる楽しい時間ではなく、主体的に学びを深める大切な営みです。『遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる』は、保育要領の理解を実践につなげたい保育士さんにおすすめの一冊。遊びの価値を理論と事例でわかりやすく解説し、保護者さんへの説明にも役立ちます。

『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例

乳児期の育ちを理解するために役立つ一冊が 『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。月齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通した支援のポイントがわかりやすくまとめられています。授乳・睡眠・食事など日常の生活場面をどう保育に結びつけるかを学べるので、新人の方から経験を重ねた先生まで必携の実践書です。

『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例

就学前の子どもたちを支える先生におすすめの一冊が 『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。年齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通じた支援のヒントがわかりやすくまとめられており、日々の保育実践にすぐ役立ちます。新人の方から経験を重ねた先生まで、子どもたちの育ちを深く理解し保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい一冊です。

これらの書籍は、単に理論を学ぶだけではなく、写真や具体的なエピソードを通して「実際にどう工夫すればいいのか」が伝わってきます。環境構成や活動の工夫を考えるときに大きな助けとなりますので、ぜひ一度手に取ってみてください。

日々の保育で試してみたい工夫

ここまで、「環境を通して行う教育」の基本的な考え方、現場での実践例、注意点を紹介してきました。最後に、先生方が日常に取り入れやすい工夫をまとめます。

  • 子どもたちの興味に合わせて、遊びの場を少しずつ変えてみる

  • 自然物や身近な素材を教材として取り入れ、自由な発想を促す

  • 環境の変化を記録し、園児の反応を同僚と共有して検討する

  • 保護者さんには「遊びの中に見える学び」を具体的な言葉で伝える

  • 安全面と挑戦心のバランスを意識しながら環境を調整する

これらを少しずつ試すことで、子どもたちの「育ちを支える」環境づくりが自然と定着していきます。

まとめ

「環境を通して行う教育」とは、ただ物を並べることではなく、園児一人ひとりの育ちを支える大切な実践です。環境を通して遊びや生活の中にある学びを見取り、同僚や保護者さんと共有することが、より豊かな教育・保育につながります。

悩みや迷いが出てきたときは、今回紹介した書籍を参考にしてみてください。具体的な事例や記録の仕方が、日常の実践に大きなヒントを与えてくれるはずです。

ぜひ、日々の保育に小さな工夫を取り入れて、環境を通した教育を実感していただけたらと思います。

  • この記事を書いた人

ポジティブ園長

田舎の自然の中で、のんびりと9歳の娘と6歳の息子と暮らすパパ。 保育 × 心理学 × 脳科学をヒントに、職員と子どもたちが共に成長できる園づくりをしています。 “答えのない時代”だからこそ、楽しみながら考え、失敗を恐れず挑戦する──そんな姿を大切に、みんなと歩んでいる園長です。

-保育