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【解説】子どもの育ちの評価を「できた・できない」ではなく「姿」で見取る ― 要領に基づく具体的な方法

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保育園やこども園の先生にとって、「子どもの育ちをどう評価するか」は大きなテーマです。日々の保育の中で、「この子はもう文字が書ける」「あの子はまだ一人で靴を履けない」と、どうしても「できた・できない」で見てしまうことがあります。しかし、それだけでは子どもの成長の本質は見えにくいものです。

保育所保育指針や幼稚園教育要領(以下「要領」と表記)では、「子どもの姿を見取ること」が評価の基本的な考え方として示されています。つまり「評価」とは点数をつけたり合否を判断したりするものではなく、子どもの日々の生活や遊びの中で見えてくる姿を丁寧に記録し、保育に活かしていくことなのです。

本記事では、「子どもの育ちの評価を『できた・できない』ではなく『姿』で見取る」ための具体的な方法を、要領の内容に基づきながら、現場で実践できる工夫や事例を交えて紹介します。

「子どもの育ちの評価」とは何か

要領における評価の位置づけ

要領では、評価は「子どもの発達過程を把握し、今後の保育の改善や充実につなげるためのもの」とされています。つまり、誰かと比べて優劣を決めるものではなく、子ども一人ひとりの歩みを理解するための視点なのです。

「できた・できない」ではない理由

たとえば「縄跳びが10回跳べたか」という結果だけを見ても、その子がどのように挑戦し、努力し、楽しんでいたかまでは分かりません。結果だけの判断は、子どもの成長や意欲を過小評価してしまう危険があります。

「姿の記録」としての評価

「姿で見取る」とは、子どもの言葉や行動、表情、取り組む過程そのものを記録することです。これは成績表ではなく、子どもの物語を描くようなものです。

なぜ「姿」で見取ることが大切なのか

一人ひとり異なる発達過程

同じ年齢でも、文字に興味を持つ子もいれば、虫取りに夢中な子もいます。どちらもその子の育ちに大切な経験です。「できることの数」よりも「どう成長しているか」を捉えることが、その子らしさを尊重することにつながります。

小さな成長を見逃さない

ある先生は「給食で苦手な野菜を一口食べた子」を日誌に書き留めました。その後、少しずつ挑戦する姿が増え、最終的には食べられるようになったのです。こうした変化は「姿を見取る」からこそ見えてくるものです。

「姿の記録」が支えるもの

  • 子ども自身:がんばりや工夫を認めてもらうことで自己肯定感が育つ

  • 保護者さん:家庭では見られない成長に気づける

  • 先生自身:子どもの理解が深まり、保育の質が高まる

先生が感じやすい悩み

記録に時間がかかる

「一人ひとりの姿を細かく残すのは大変」と感じる先生は多いです。実際、日誌や記録に追われて子どもと関わる時間が減ってしまうのは本末転倒です。

書き方に迷う

「どう表現すれば伝わるのか分からない」と悩む先生もいます。事実をそのまま書くことが第一歩。「~できた」ではなく「~に挑戦し、笑顔を見せた」という書き方がポイントです。

保護者さんへの伝え方

「評価」という言葉を聞くと、保護者さんは成績やテストのように受け止めてしまうことがあります。だからこそ「できるできない」ではなく「今こんな姿を見せています」と伝えることが大切です。

要領に基づく「姿の見取り方」の具体的な方法

日常からエピソードを拾う

特別な場面ではなく、普段の遊びや生活の中に育ちのヒントがあります。砂場で友だちと役割を分けて遊んだ、片付けのときに下の子を手伝った…そうした瞬間を逃さないことが大切です。

写真やメモで残す

先生が全てを覚えておくのは難しいため、短いメモや写真を活用しましょう。スマホやタブレットで撮影できる環境があれば、ICTを取り入れるのも有効です。

子どもの言葉をそのまま残す

「今日は自分でできた!」という言葉や、「もう一回やりたい!」というつぶやきは成長の証です。子どもの声をそのまま記録すると、家庭にも伝わりやすくなります。

チームで共有する

一人の先生だけでは見逃すこともあります。職員同士で「今日こんな姿があった」と共有することで、多角的な見取りができます。

実践しやすい工夫

チェックリストよりエピソード記録

「〇ができた」に丸をつけるだけでは不十分。エピソードを短く書き残す習慣を持つと、後でまとめやすくなります。

ICTを活用

園によっては記録アプリや保育システムを導入しているところもあります。簡単に写真やコメントを残せる仕組みを活用すると効率的です。

保護者さんとの共有

「お昼寝前に自分で布団を敷いていましたよ」と写真付きで伝えると、保護者さんは子どもの成長を実感できます。こうしたやり取りが信頼関係を深めます。

園内研修で視点を揃える

「どのような姿を評価と捉えるか」は先生ごとに差が出やすい部分です。園内で定期的に事例を持ち寄り、共通理解を作ることが大切です。

事例紹介

靴を揃える姿をどう記録するか

ある子は、入園当初は靴を脱ぎっぱなしでした。しかし先生が毎日声をかけるうちに、ある日自分で靴を揃える姿を見せました。その瞬間を「自分で靴を揃え、誇らしげに先生を見た」と記録することで、成長の意味がより鮮明になります。

遊びの中で友だちに道具を貸せた

積み木遊びで道具を取り合っていた子が、ある日「どうぞ」と友だちに差し出しました。この姿は「協同性」の芽生えを示す大切な瞬間です。

保護者さんとの共有で変化したケース

ある子の「お友だちに自分から声をかけた」記録を家庭に伝えると、保護者さんが「家でも会話を増やしてみます」と取り組むようになり、さらに成長が見られました。

「姿の記録」がもたらす効果

子どもの自己肯定感

「できた・できない」ではなく「がんばった姿」を認められることで、自分を大切に思う気持ちが育ちます。

保護者さんの安心感

「今日はこんな姿を見せました」と伝えられると、保護者さんは子どもの成長を実感し、安心して園に預けられます。

先生の専門性の向上

姿を記録する習慣は、先生の観察力や保育の質を高め、園全体の教育力向上につながります。

まとめ

  • 子どもの育ちの評価は「できた・できない」で判断するのではなく、「姿の記録」として見取ることが要領で求められている。

  • 日常の遊びや生活の中からエピソードを拾い、事実をそのまま記録することが大切。

  • 「姿の記録」は子どもの自己肯定感を育て、保護者さんとの信頼関係を深め、先生自身の学びにもなる。

  • 評価は子どもの未来を支えるための手立てであり、先生の大切な役割の一つ。

明日の保育で、子どもの「小さな挑戦」や「ちょっとした工夫」に目を向けてみませんか? それを記録に残すことで、子どもの育ちをより深く理解し、保護者さんやチームで共有できる力になるといいですね。

  • この記事を書いた人

ポジティブ園長

田舎の自然の中で、のんびりと9歳の娘と6歳の息子と暮らすパパ。 保育 × 心理学 × 脳科学をヒントに、職員と子どもたちが共に成長できる園づくりをしています。 “答えのない時代”だからこそ、楽しみながら考え、失敗を恐れず挑戦する──そんな姿を大切に、みんなと歩んでいる園長です。

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