保育の現場で日々子どもと向き合う中で、「これからの社会を生きる子どもにどんな力を育てたいのか」と考える先生は多いでしょう。読み書きや計算などの基礎的な力も大切ですが、感情を理解したり、友だちと協力したり、社会の変化に柔軟に対応する力も欠かせません。
こうした課題にヒントを与えてくれるのが、ダニエル・ゴールマン、ピーター・センゲ著『21世紀の教育』 です。ゴールマンは「EQ(感情知能)」を広めた心理学者、センゲは「システム思考」で知られる経営学者。二人が共著したこの本は、子どもの育ちと未来の教育を見据えた一冊であり、保育実践にそのまま活かせる考えが詰まっています。
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『21世紀の教育』とはどんな本か
著者紹介 ― ゴールマンとセンゲ
ダニエル・ゴールマン:心理学者。「感情知能(EQ)」を提唱し、知能指数(IQ)だけでは測れない人間の力に注目しました。
ピーター・センゲ:経営学者。『学習する組織』の著者で、複雑な問題を全体的に理解する「システム思考」を広めました。
この二人が協働して教育の未来を論じたのが『21世紀の教育』です。
EQとシステム思考の融合
本書は、感情を理解・調整する力(EQ)と、物事のつながりを見渡す力(システム思考)の両方を教育に生かすべきだと提案しています。これは、子どもたちが人と協力し、社会の変化に柔軟に対応するために欠かせないスキルです。
保育との関連性
「EQ」も「システム思考」も、実はすでに保育の中に存在しています。先生が子どもの気持ちに応答すること、遊びを通して因果関係を理解させることは、まさに21世紀型の教育を実践していることになります。
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ゴールマンとセンゲが示す「21世紀に必要な力」
感情知能(EQ)と子どもの感情理解
EQとは「自分や他者の感情を理解し、適切に表現・調整する力」です。例えばおもちゃの取り合いで泣く子に「悲しかったんだね」と先生が声をかけると、子どもは感情を言葉で整理する経験ができます。
システム思考 ― 関係性を理解する力
積み木を積んで崩れる、砂場で水を流すと山が崩れる。こうした遊びを通して子どもは「原因と結果のつながり」に気づきます。センゲが重視するシステム思考は、保育の自然な遊びから育まれます。
協働性・共感性・創造力
友だちと役割を分担してごっこ遊びをする、劇遊びで仲間と協力する。これらの活動は、協働性や共感性を育てると同時に子どもの創造力を大きく伸ばします。
保育現場で先生が感じる課題
自己主張が強く集団がまとまりにくい
「自分のやりたいことを優先する子が多くて、活動がスムーズに進まない…」という声はよく聞かれます。本書では「自己認識と自己制御」を育てることが大切とされており、EQを高める保育実践が解決の糸口になります。
子どもの感情に寄り添いたいが時間が足りない
一人ひとりの気持ちを受け止めたいけれど、集団を見なければならないという葛藤もあります。ゴールマンは「小さな共感の積み重ねが大きな影響を与える」と強調しており、短い声かけでも効果的です。
保護者さんや社会の変化にどう対応するか
ICT化や多様性の広がりなど、保育者も新しい課題に直面しています。本書が示す「柔軟な思考」「協働」「持続可能性」は、社会の変化を保育にどう取り入れるかを考える手がかりになります。
『21世紀の教育』を保育実践に生かす方法
感情に応答する ― EQを伸ばす日常の関わり
子どもが怒っているとき「やめなさい」と叱るのではなく、「嫌だったんだね」と気持ちを認めてから対応する。これがEQを育てる応答的な関わりです。
遊びを通してシステム思考を育てる
「水を入れたらどうなるかな?」と問いかけると、子どもは実験的に学びます。遊びの中で因果関係を考える経験が、システム思考の芽になります。
協働性を育む ― 異年齢活動やプロジェクト型保育
年長児が年少児を手伝う異年齢交流は協働性を育てます。さらに「畑づくりプロジェクト」など共同の取り組みは、責任感や持続可能性を実感する機会になります。
👉 学びを深めたい先生におすすめ
実践事例と提案
感情カードを使って気持ちを言葉にする取り組み
ある園では、表情が描かれたカードを使い「今日の気持ち」を子どもに選ばせています。自分の感情を可視化することで、EQの発達が促されています。
プロジェクト保育で協働性を育む
「お店屋さんごっこ」をプロジェクトとして進めた園では、看板作りや役割分担を子どもが主体的に考えました。結果として協力する喜びを体験できました。
保護者さんとの連携に活かす
園でのEQやシステム思考の視点を保護者さんに伝えると、家庭でも「気持ちを言葉で受け止める」「一緒に考える」といった取り組みが広がりました。
保育者自身の学びとしての『21世紀の教育』
自己理解と感情のコントロール
先生自身も日々の忙しさの中で感情に揺れます。本書は、保育者が自己理解を深め、冷静に子どもに関わる助けとなります。
園内研修での活用
園内研修で本を共通のテキストとして読み、感想を共有することで「保育の方向性」を園全体で揃えることができます。
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まとめ
『21世紀の教育』は、EQとシステム思考を融合させ、未来を生きる子どもに必要な力を提案する一冊。
保育実践に応用できる視点が多く、子どもの感情理解、協働性、探究心を育てるヒントになる。
先生自身の学びや園内研修の教材としても有効で、保護者さんとの連携にも役立つ。
保育を「未来の教育」につなげる視点を養うきっかけとなる。
次回の保育で、子どもの感情や協働の場面に注目し、短い言葉で受け止めてみませんか? その小さな実践が、『21世紀の教育』が提唱する未来を生き抜く力を育てる第一歩となるといいですね。