「どうして雨は降るの?」「この花の色はなんで違うの?」――園児が発する素朴な問いには、思考力の芽生え が隠されています。教育・保育要領に示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」のひとつである「思考力の芽生え」は、環境領域と深く関わり、子どもたちの学びの基盤となる大切な力です。
この記事では、自然観察や製作遊びといった日常の活動を通じて「思考力の芽生え」をどう見取り、どのように保育実践に結びつけるかを解説します。現場での事例を交えながら、今日から活かせる具体的なヒントを紹介します。
「思考力の芽生え」とは何か
10の姿における「思考力の芽生え」
「思考力の芽生え」とは、物事をただ受け取るだけでなく、自分で「なぜ?」「どうして?」と考え始める姿を指します。これは論理的な思考力というよりも、身近な環境との関わりの中で自ら問いを立て、答えを探そうとする力です。
なぜ環境領域とつながるのか
環境領域では「身近な自然や社会に関わり、興味や関心を広げること」が大切にされています。落ち葉の色や虫の動きに不思議さを感じたり、製作で材料を工夫したりすることが、子どもの思考力の芽生えを促す機会になります。
日常生活で見られる思考のサイン
「どうして氷は溶けるの?」
「なんで雲が動いているの?」
「これをこうしたらもっと強くなるかな?」
こうした園児の声や行動は、まさに思考力が育ち始めているサインです。
自然観察を通じて考える力を見取る
虫探しや植物観察での問いかけ
園庭や公園で虫を見つけたとき、子どもたちは「どこに住んでいるの?」と自然に疑問を抱きます。そのときに「一緒に探してみよう」と応じることで探究心が広がります。
季節の変化を体験する散歩や園庭活動
春に咲いた花が夏には枯れること、秋には落ち葉になること。こうした変化を体験する中で、子どもたちは「なぜ?」と考える姿を見せます。
保育士の声かけで探究心を広げる
「どうしてだと思う?」と問い返すだけで、園児は考えを深めます。正しい答えをすぐに伝えるのではなく、一緒に調べることが「考える楽しさ」につながります。
事例
園で落ち葉を拾った子どもが「なんで色が違うの?」と聞いたとき、保育士は「図鑑で調べてみようか」と声をかけました。その後、子どもたちは図鑑を見ながら「黄色は栄養がなくなったからなんだ」と発見し、学びの実感を味わっていました。
製作遊びの中で広がる思考力
自由工作で材料の使い方を考える姿
廃材を使った自由工作では、子どもたちが「この箱をつなげたら車になるかな?」と試行錯誤します。これも思考力の芽生えを示す大切な場面です。
試行錯誤を認める環境づくり
作っては壊し、また作り直す。その過程を大切にすることで「どうしたら上手くいくかな?」と考える力が育ちます。
完成よりも過程を大切にする視点
作品の出来栄えよりも「どう工夫したのか」「何を試したのか」に注目し、言葉にして伝えることが、子どもの自己肯定感にもつながります。
事例
園でペットボトルを使って水の通り道を作ったとき、子どもたちは何度も水がこぼれてしまいました。「どうすればいいかな?」と職員が声をかけると、子どもたちは角度を変えたりテープを貼ったりしながら工夫を重ね、最後には水が流れる仕組みを完成させました。この過程がまさに思考力の芽生えです。
職員間で共有したい「思考力を見取る視点」
小さな問いを見逃さない観察記録
園児のつぶやきや行動を記録し、職員同士で共有することで見取りが深まります。
週案や日案に「思考力の芽生え」を反映
計画のねらいに「考える力を育てる」と明記することで、日常の活動に意識して取り入れることができます。
同僚同士で事例を共有する研修の形
園内研修で「思考力が育った瞬間」を出し合うと、新たな視点が生まれます。
保護者さんとの連携で広げる「考える力」
園での探究活動を家庭に伝える
送迎時に「今日は虫探しをして、巣の場所に気づいていました」と伝えると、保護者さんも家庭で話題にできます。
家庭でできる小さな自然体験を提案
「散歩の途中で空の雲を一緒に観察してみてください」など、無理のない提案が効果的です。
保護者さんと一緒に育ちを支える視点
園と家庭がつながることで、子どもたちの思考力はさらに広がります。
よくある悩みと対応のヒント
子どもの問いに答えきれない
→ 正解をすぐに教える必要はありません。「一緒に調べてみよう」と伝えてほしいなと思います。考える活動に偏りが出る
→ 自然・製作・遊びなど、様々な活動で取り入れてみるといいですね。保護者さんに伝わりにくい
→ 難しい言葉ではなく「こんな姿が見られました」と具体的に伝えてほしいなと思います。
明日から役立つおすすめの本
現場で実践できる具体的な活動例を、まずは取り入れてみて実際に感じてみることをおすすめします。
- 『10の姿で保育の質を高める本 (これからの保育シリーズ)』
保育実践の質を高めたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」をわかりやすく解説し、日々の保育にどう結びつけるか具体的に示しています。園児の育ちを支える視点を整理したい新人から、中堅・ベテランの先生まで活用できる一冊です。
- 『10の姿プラス5・実践解説書 「幼児期の終わりまでに育ってほしい 10の姿 」をカラー写真いっぱいの実践事例で 見える化 !!』
子どもたちの「10の姿」をどう保育実践に活かすかを具体的に知りたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を、豊富なカラー写真と実践事例でわかりやすく解説。園児の育ちを支える日々の保育に直結するヒントが満載です。新人からベテランまで現場で役立つ一冊です。
- 『遊びや生活のなかで“10の姿"を育む保育 (事例で見る「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿) 』
教育・保育要領に示された「10の姿」を実際の保育場面と結びつけて学べる実践書です。日常の遊びや生活の中でどのように子どもたちの育ちを支えるかを、豊富な事例と写真で具体的に解説。新人保育士から経験豊富な先生まで、保育の質を高めたい方に役立つ一冊です。
- 『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿』
園児の「思いやり」「協同性」「学びに向かう力」など、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」をわかりやすく解説した一冊です。日々の保育の中でどんな場面を見取り、どう育ちを支えるのかを丁寧に示してくれるので、現場の実践にすぐ役立ちます。日々読み返したくなるので保育士の学び直しにもおすすめです。
どれも専門的な内容をやさしく解説しており、新しい視点で明日からの保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい本となっています。
まとめ
「思考力の芽生え」は、子どもたちの小さな問いや試行錯誤の中に現れます。自然観察や製作遊びを通して園児の姿を見取り、育ちを支えることが保育実践の大切な役割です。まずは日常の中で「考える姿」を意識して言葉にし、同僚や保護者さんと共有してほしいなと思います。そうした積み重ねが、子どもたちの未来につながる豊かな学びを支えるものとなるといいですね。