
保育の中で、子どもがじっと虫を見つめていたり、水の流れを何度も試していたり、積み木が倒れない方法を考えていたりする姿を見ることがあります。
その姿を見たときに、
「これは遊びとして記録してよいのかな」
「思考力の芽生えとして見取ってよいのかな」
「10の姿や環境領域と、どうつなげて考えればよいのだろう」
と迷うことはありませんか。
子どもの探究活動は、特別な実験や大きな活動だけではありません。
日々の遊びや生活の中で、子どもが気づき、比べ、試し、考え、またやってみようとする姿の中に、思考力の芽生えは表れています。
この記事では、保育士が「思考力の芽生え」をどう見取るかを、10の姿と環境領域を活かした探究活動の視点からやさしく整理します。
「思考力の芽生え」とは何かを理解する
「思考力の芽生え」は考える力の完成形ではない
思考力の芽生えとは、子どもが自分なりに気づいたり、考えたり、試したりする姿のことです。
大人のように筋道立てて説明できることだけが、思考力ではありません。
幼児期の子どもは、遊びながら、触れながら、比べながら、体験を通して考えています。
たとえば、
「どうして沈むのかな」
「こっちの方が高く積めるかもしれない」
「昨日と同じ場所にダンゴムシがいるかな」
という姿も、思考力の芽生えにつながります。
保育士が大切にしたいのは、正解を出せたかどうかよりも、子どもが何に気づき、どのように考えようとしているかを見ることです。
10の姿の中で見る「思考力の芽生え」
「思考力の芽生え」は、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿である10の姿の一つです。
10の姿は、子どもの育ちを小学校以降の学びにつなげて見るための視点であり、各園の教育及び保育の内容や子育て支援等に関する全体的な計画とも関わります。厚生労働省の告示でも、各幼保連携型認定こども園は「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえて全体的な計画を作成し、評価・改善を図ることが示されています。
ただし、10の姿はチェックリストのように「できた・できない」で判断するものではありません。
子どもの日々の姿を見取り、育ちの方向を理解するための手がかりです。
「思考力の芽生え」を見るときも、子どもが自分なりに考えている過程を丁寧に見取ることが大切です。
環境領域と探究活動のつながり
環境領域は、子どもが身近な環境に関わり、興味や関心を広げていくことと深く関係しています。
自然、物、人、音、光、水、土、季節、数量、図形、標識、道具など、子どもの周りにはたくさんの探究の入り口があります。
子どもが、
「なぜだろう」
「やってみたい」
「もう一回試したい」
と感じる場面を大切にすることで、環境領域を活かした探究活動が生まれます。
保育士は、活動を教え込むのではなく、子どもの気づきが深まる環境を整える役割を担います。
保育現場で「思考力の芽生え」を見取りにくい理由
遊びに見えるため、学びとして捉えにくい
子どもの探究活動は、大人から見るとただ遊んでいるように見えることがあります。
砂場で水を流している。
葉っぱを何枚も集めている。
同じ積み木を何度も倒している。
虫を探して園庭を歩き回っている。
しかし、その中で子どもは、量、重さ、形、速さ、違い、変化、因果関係などを体験しています。
保育士が「何をしているか」だけでなく、「何に気づいているか」「何を試しているか」を見ることで、遊びの中の学びが見えやすくなります。
記録にどう書けばよいか迷う
思考力の芽生えは、記録に残しにくいと感じる保育士さんも多いと思います。
「楽しんでいた」
「集中していた」
だけでは、子どもの考えの過程が見えにくくなります。
記録では、子どもの言葉、表情、試したこと、比べたこと、友だちとのやり取りを具体的に書くことが大切です。
たとえば、
「水を流すと砂が崩れることに気づき、何度も場所を変えて試していた」
「高く積むために、大きい積み木を下に置くことを自分で考えていた」
のように書くと、思考の過程が見えやすくなります。
大人が答えを急いでしまう
子どもが不思議そうにしていると、大人はつい答えを教えたくなります。
「それはこうだよ」
「こうすればできるよ」
「こっちの方が正しいよ」
もちろん、必要な援助は大切です。
しかし、すぐに答えを伝えすぎると、子どもが自分で考える時間が少なくなることがあります。
探究活動では、大人が答えを与える前に、子どもの考える余白を残すことが大切です。
10の姿や環境領域と結びつけるのが難しい
日々の保育記録や指導案で、10の姿や環境領域と子どもの姿をつなげることに難しさを感じることがあります。
「この姿は環境領域でよいのかな」
「思考力の芽生えと書いてよいのかな」
「ほかの姿とも関係しているのではないかな」
実際、子どもの育ちは一つの領域や一つの姿だけに分けられるものではありません。
思考力の芽生えは、自然との関わり、数量や図形への関心、言葉による伝え合い、協同性などとも重なります。
大切なのは、無理に一つに分類することではなく、子どもの姿から育ちの意味を考えることです。
10の姿と環境領域を活かした探究活動の見取り方
子どもの「なぜ?」を出発点にする
探究活動の始まりは、子どもの素朴な疑問です。
「なんで氷は溶けるの」
「どうして影は動くの」
「この虫はどこに行くの」
「水を入れると砂はどうなるの」
このような問いは、思考力の芽生えを見取る大切なサインです。
保育士は、子どもの疑問をすぐに説明で終わらせるのではなく、
「どうしてだと思う?」
「もう少し見てみようか」
「違う方法でも試してみる?」
と返すことで、子どもの探究を支えることができます。
比べる・試す・工夫する姿を見る
思考力の芽生えは、子どもが比べたり、試したり、工夫したりする姿に表れます。
たとえば、
大きい石と小さい石を水に入れて沈み方を比べる。
積み木の置き方を変えて、倒れにくい方法を試す。
葉っぱの色や形を分けて並べる。
泥団子を固くするために、水の量を調整する。
こうした姿は、環境領域を活かした探究活動として見取りやすい場面です。
「何を比べているのか」
「何を試しているのか」
「どこを工夫しているのか」
を見ることで、子どもの考えが見えてきます。
子どもの言葉だけでなく、行動からも見取る
幼児期の子どもは、自分の考えを言葉で十分に説明できるとは限りません。
そのため、思考力の芽生えを見取るときには、言葉だけでなく、行動や表情も大切にします。
じっと見る。
何度も繰り返す。
手の動きを変える。
友だちのやり方をまねる。
うまくいかないと首をかしげる。
別の素材を持ってくる。
これらは、子どもが考えているサインです。
「話していないから考えていない」のではなく、「体験を通して考えている」と見ることが大切です。
保育士の記録で学びを可視化する
探究活動を保育に活かすには、記録が大切です。
記録するときは、結果だけでなく過程を書きます。
「できた」
「完成した」
だけでなく、
「何に気づいたか」
「どのように試したか」
「友だちと何を話したか」
「次にどんな姿につながりそうか」
を残します。
このように記録することで、10の姿や環境領域とのつながりが見えやすくなります。
探究活動を広げるための環境づくりと援助
素材をすぐ使える場所に置く
子どもの探究活動は、環境によって広がります。
虫眼鏡、カップ、じょうご、布、紙、箱、自然物、積み木、水、砂、図鑑など、子どもが自分で使える素材があると、遊びの中で試す姿が生まれやすくなります。
大切なのは、保育士が全部を準備して与えることではなく、子どもが「使ってみたい」と思える環境を整えることです。
素材が見える場所にあり、子どもが自分で選べるようになっていると、主体的な探究につながります。
大人の問いかけで思考を深める
探究活動では、保育士の問いかけが大切です。
ただし、答えを誘導する問いではなく、子どもが考えを広げられる問いがよいでしょう。
「どうしてそう思ったの?」
「ほかの方法もあるかな?」
「前と何が違うかな?」
「次はどうしてみたい?」
「友だちはどんなふうにしているかな?」
このような問いかけは、子どもの思考を深めます。
保育士の役割は、正解を教えることだけではありません。
子どもが自分で気づき、考え、試す時間を支えることです。
友だちとの対話を大切にする
探究活動は、一人だけで深まるものではありません。
友だちとの関わりの中で、考えが広がることがあります。
「こうしたらいいよ」
「さっきは倒れたけど、今度は倒れなかった」
「こっちの葉っぱの方が大きいね」
「一緒にやってみよう」
友だちの考えに触れることで、子どもは自分の考えを見直したり、新しい方法を試したりします。
保育士は、必要に応じて子ども同士の言葉をつなぎ、対話が生まれる環境をつくります。
活動を広げすぎず、子どものペースを守る
子どもが興味を示すと、保育士は活動を広げたくなることがあります。
図鑑を用意する。
制作につなげる。
発表につなげる。
クラス全体の活動にする。
もちろん、それがよい場合もあります。
しかし、広げすぎることで、子ども自身の興味から離れてしまうこともあります。
探究活動では、子どものペースを大切にし、必要なタイミングで環境や関わりを調整することが大切です。
注意点とデメリットも知っておきたい
「思考力の芽生え」を評価項目として使いすぎない
10の姿は、子どもを評価して点数化するためのものではありません。
「この子は思考力の芽生えがある」
「この子はまだない」
という見方をすると、子どもの育ちを狭く見てしまうことがあります。
大切なのは、今どのような姿があり、次にどのような経験が必要かを考えることです。
見取りは、子どもを判断するためではなく、保育をよりよくするために行います。
大人のねらいを押しつけすぎない
探究活動を意識しすぎると、大人が用意したねらいに子どもを合わせてしまうことがあります。
「ここで考えてほしい」
「こう気づいてほしい」
「この結果にたどり着いてほしい」
このように考えすぎると、子どもの本当の興味が見えにくくなります。
保育士はねらいを持ちながらも、子どもの予想外の気づきや寄り道を大切にすることが必要です。
記録が負担になりすぎないようにする
見取りを丁寧にしようとすると、記録の負担が増えることがあります。
すべての場面を詳しく書こうとすると、保育士自身が疲れてしまいます。
記録は、量よりも視点が大切です。
今日の中で印象に残った一場面。
子どもの考えが見えた一言。
次の環境づくりにつながる姿。
そのように絞って記録すると、無理なく続けやすくなります。
園全体で共通理解を持つ必要がある
思考力の芽生えや探究活動の見取りは、一人の保育士だけで深めるには限界があります。
同じ子どもの姿を見ても、保育士によって受け止め方が違うことがあります。
だからこそ、職員同士で記録を共有し、
「この姿をどう見取るか」
「次にどんな環境を用意するか」
を話し合うことが大切です。
園全体で共通理解が深まると、探究活動が一時的な取り組みではなく、日々の保育文化として根づきやすくなります。
よくある質問
思考力の芽生えは何歳から見られますか?
思考力の芽生えは、年長児だけに見られるものではありません。
乳児期から、子どもは見る、触る、比べる、試す、繰り返すことを通して考えています。
ただし、年齢によって表れ方は違います。
乳児では、同じものを何度も落とす、感触を確かめる、音に反応するなどの姿に表れます。
幼児では、予想したり、比べたり、友だちと考えを出し合ったりする姿として見えやすくなります。
環境領域と探究活動はどうつなげればよいですか?
環境領域は、子どもが身近な環境に関わる中で、興味や関心を広げていくことを大切にします。
そのため、自然物、水、砂、光、影、数量、図形、道具、身近な生活などに子どもが関わる場面は、探究活動につながりやすいです。
子どもが何に気づき、何を試しているのかを見取ることで、環境領域と探究活動を結びつけやすくなります。
10の姿は記録に必ず書く必要がありますか?
園の記録様式にもよりますが、10の姿を毎回すべて書く必要はありません。
大切なのは、子どもの姿を見取り、どのような育ちにつながっているかを考えることです。
「思考力の芽生え」「自然との関わり・生命尊重」「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」など、子どもの姿に関係する視点を必要に応じて結びつけるとよいでしょう。
探究活動は特別な活動を準備しないとできませんか?
特別な活動を準備しなくてもできます。
園庭の虫探し、砂場遊び、水遊び、積み木、ままごと、散歩、制作、絵本など、日々の保育の中に探究活動の入り口はたくさんあります。
大切なのは、子どもの「なぜ」「やってみたい」「もう一回」に気づき、それを支える環境と関わりをつくることです。
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どれも専門的な内容をやさしく解説しており、新しい視点で明日からの保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい本となっています。
まとめ:これから試してみたい工夫
「思考力の芽生え」は、特別な活動の中だけで見られるものではありません。子どもが水や砂、虫、積み木、自然物などに関わりながら、「なぜだろう」「もう一回やってみたい」「こっちの方がうまくいくかもしれない」と考えている日々の姿の中に表れています。
保育士が大切にしたいのは、子どもが正解にたどり着いたかどうかではなく、どのように気づき、比べ、試し、工夫しているかを丁寧に見取ることです。10の姿や環境領域は、子どもを評価するためのものではなく、遊びの中にある学びを理解し、次の環境づくりや援助につなげるための視点として活用できます。
これから試してみたい工夫として、まずは子どもの「なぜ?」や「やってみたい」に気づくことから始めてみましょう。そして、結果だけでなく、子どもの言葉や表情、繰り返し試す姿、友だちとのやり取りを短く記録してみます。さらに、水、砂、自然物、道具、図鑑、素材の置き方など、子どもが自分で関われる環境を見直すことで、探究活動はより豊かに広がっていきます。
10の姿や環境領域は、言葉だけで理解しようとすると難しく感じることがあります。迷ったときに読み返せる関連書籍を手元に置いておくと、保育記録や指導案、園内研修にも生かしやすくなります。子どもの遊びの中にある学びを見取りたい方は、要領の解説書や10の姿の実践書を参考にしながら、日々の保育とつなげて学びを深めてみてくださいね。