国際バカロレア(IB)の初等教育プログラムである PYP(Primary Years Programme) を導入する園が、日本でも徐々に増えつつあります。その中で園長・主幹・先生が最も悩むのが、Unit(探究単元)の作成方法 です。
POI(Programme of Inquiry/探究の全体計画)を構築する際に、Unitは学びを具体化する最小単位となります。しかし「理念は理解できるけれど、具体的にどう作ればいいのか」「日常の保育とどう結びつければいいのか」という不安の声が多いのも事実です。
なかなか現場に落とし込むイメージが湧きにくいと思いますが、Unit作成はゼロから新しい活動を作るのではなく、まずは園の日常保育を探究の枠組みで整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事では、IB PYPにおけるUnitの定義と役割、作成ステップ、具体的な実践例、導入時の課題と解決策 を詳しく解説します。
IB PYPにおけるUnitとは?
Unitの定義
Unitとは、探究的学びを展開するための最小単位です。子どもたちが「なぜ?」「どうして?」という問いを持ち、そこから学びを広げていく枠組みとなります。
POIとの関係
POI(Programme of Inquiry)は園全体の学びを示す「地図」であり、その中を構成するピースがUnitです。POIがマクロな計画、Unitがミクロな実践、と理解するとわかりやすいでしょう。
Unitの構成要素
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中心的アイディア(Central Idea):子どもに理解してほしい本質的な考え
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探究の線(Lines of Inquiry):中心的アイディアを深めるための学びの方向性
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概念(Key Concepts):形・機能・因果関係・つながりなど、思考を広げる枠組み
Unit作成の基本ステップ
ステップ1:テーマを選ぶ
身近で子どもが興味を持ちやすい題材を出発点にします。水・自然・地域社会・行事など、日常保育で扱っている活動をベースにするのが効果的です。
ステップ2:中心的アイディアを設定する
テーマをもとに、子どもに伝えたい本質的な考えを短い文で示します。
例:「水は生活に欠かせない」「地域には私たちを支える人々がいる」
ステップ3:探究の線を整理する
中心的アイディアを支える複数の観点を考えます。
例:「水」Unitの場合
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水の性質
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水の使い方
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水と環境の関わり
ステップ4:概念を取り入れる
因果関係・つながり・責任など、IBの概念を意識することで、学びが具体的な事象から抽象的理解へ広がります。
ステップ5:評価と可視化を考える
子どもの学びをどのように振り返り、どのように保護者や他の先生と共有するかを検討します。ドキュメンテーション(写真や言葉で記録する方法)が有効です。
保育現場に落とし込むやり方
遊びをUnitに変える
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水遊び → 水の性質を調べる探究へ発展
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積み木遊び → バランスや構造を考える学びに発展
行事や季節活動を活用する
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七夕 → 文化・自己表現・共同体についての探究
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収穫祭 → 食と環境、地域社会とのつながりを学ぶ
子どもの「なぜ?」を起点にする
子どもが発した「どうして?」を拾い、そこからUnitを展開することで主体性のある探究が可能になります。
Unit作成の具体例
例1:水あそびUnit
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中心的アイディア:「水は生活に欠かせない」
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探究の線:「水の性質」「水の使い方」「水と環境」
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実践:水の温度変化を触って確かめる/バケツの水を量って比べる
例2:お店やさんごっこUnit
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中心的アイディア:「人と人は協力し合って暮らしている」
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探究の線:「交換の仕組み」「役割分担」「協力の大切さ」
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実践:ごっこ遊びを通じてやりとりを体験/地域のお店見学
Unit作成で直面する課題と解決策
職員間の理解に差がある
小さなUnitを一緒に作り、成功体験を共有する。
保護者への説明が難しい
専門用語ではなく「子どものエピソード」で説明する。
業務負担の増加
既存の年間指導計画にUnitを重ね、置き換えていく。
園長・主幹・先生への具体的提案
園長
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方針を示し、Unit作成に必要な時間と体制を保障する。
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外部研修やコンサルタントを活用して職員を支援。
主幹
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Unit設計のリーダーとして職員を導く。
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小さな成功事例を集めて、現場に安心感を与える。
先生
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日常の保育で子どもの「なぜ?」を大切にする。
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ドキュメンテーションで学びを共有し、探究を深める。
よくある質問Q&A
Q:Unitはいくつ作成すればよい?
A:最終的にはPOI全体を網羅する必要がありますが、候補校段階では一部のテーマから始めても構いません。
Q:小規模園でもUnitは作れる?
A:可能です。少人数だからこそ柔軟に試行できる利点があります。
Q:候補校段階でUnitの完成度はどの程度求められる?
A:完成度よりも「探究の視点を取り入れていること」が評価されます。
まとめ
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UnitはIB PYPにおける探究学習の最小単位であり、POIを構成する重要な要素。
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作成手順は、①テーマ選び → ②中心的アイディア設定 → ③探究の線設計 → ④概念の導入 → ⑤評価方法の検討。
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保育現場では、日常の遊びや行事を探究の視点で整理すれば、無理なくUnit化できる。
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完璧を目指す必要はなく、まずは身近なテーマから小さく始め、園全体で共有しながら改善していくことが大切。
Unit作成を職員全員で取り組み、園に“探究する文化”を育てることが、IB PYP導入の成功につながります。