教育・保育要領に記された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(通称:10の姿)」は、幼児教育の現場で大切な視点です。しかし、実際に読んでみると「抽象的で分かりにくい」「どの活動がどの項目にあたるのか曖昧」と感じる方も多いのではないでしょうか。
みんな同じ悩みを抱えており、週案を書くときに「この遊びは“思考力の芽生え”?それとも“協同性”?」と迷っておられます。でも子どもたちの日常を丁寧に見ていくと、遊びや生活の中に10の姿が自然と表れていることに気づいたのです。
この記事では、10項目をわかりやすく説明し、日常保育でどう結びつけられるのか具体的な実践例を紹介します。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」とは?
背景と位置づけ
2018年の教育・保育要領改訂で新たに明記された「10の姿」。これは、就学前の子どもにどのような力や態度を育んでほしいかを示したものです。
従来は「領域」(健康・人間関係・環境・言葉・表現)で整理されていましたが、それだけでは子どもの全体的な育ちをとらえにくいという課題がありました。そこで導入されたのが「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」。保育所・幼稚園・認定こども園に共通する「子どもの姿のゴールイメージ」として示されています。
10項目が示す方向性
10の姿は、単に知識を身につけるだけでなく、非認知能力(意欲、自己調整、協調性など)を含む「生きる力」の基盤を育むものです。小学校以降の学びにつながる“架け橋”でもあります。
10項目の具体的な内容と実践例
1. 健康な心と体
ねらい:生活リズムを整え、体を十分に動かし、心身の健康を育む。
実践例
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毎朝の戸外遊びで「今日はどんな遊びをしたい?」と選ばせる。
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昼食後に歯磨きを習慣化し、「自分の体を大切にする気持ち」を育てる。
体験談
私の園では、外遊び後に「心臓がドキドキしているね」と子どもと一緒に感じる活動を取り入れました。子どもたちが自分の体の変化に気づき、健康意識が自然に芽生えました。
2. 自立心
ねらい:自分で考え、判断し、行動する力を育む。
実践例
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衣服の着脱を「先生が手伝う」のではなく「自分でやってみよう」と促す。
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給食で「今日はどの野菜を食べてみる?」と選択を取り入れる。
3. 協同性
ねらい:友達と協力しながら物事を進める経験を通して、協調性を育む。
実践例
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ごっこ遊びで「店員」「お客さん」など役割を決めて遊ぶ。
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運動会でのリレーや大縄跳びなど、協力が必要な活動に取り組む。
共感ポイント
「友達と一緒にやると喧嘩になるのでは?」と不安に思う先生も多いはず。でも、喧嘩も含めて協同性を学ぶ大切な経験です。
4. 道徳性・規範意識の芽生え
実践例
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順番を守る遊び(すべり台、順番待ちのゲーム)。
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「貸して」「どうぞ」を使うやりとりを意識する。
体験談
園庭の遊具で順番を守れずトラブルになった時、「順番を待つと次のお友達も楽しいね」と声をかけたところ、少しずつ子ども同士で声を掛け合うようになりました。
5. 社会生活との関わり
実践例
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散歩で地域の方に「こんにちは」と挨拶する。
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行事を通して地域の文化に触れる(夏祭り、もちつき)。
6. 思考力の芽生え
実践例
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ブロックで「どうしたら高く積める?」と考える。
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水遊びで「どっちが早く沈むかな?」と予想する。
7. 自然との関わり・生命尊重
実践例
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園庭で植物を育て「芽が出た!」と観察する。
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虫を見つけたとき「命を大切にしよう」と伝える。
8. 数量や図形、文字や標識などへの関心・感覚
実践例
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カレンダーを使って「今日は何日?」と確認する。
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買い物ごっこで数字やお金のやりとりを楽しむ。
9. 言葉による伝え合い
実践例
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毎日の絵本の読み聞かせ。
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お帰りの会で「今日楽しかったこと」を発表する。
10. 豊かな感性と表現
実践例
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音楽に合わせて体を動かすリズム遊び。
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絵の具で自由に描く時間を設ける。
体験談
4歳児クラスで絵の具を使ったとき、ある子が「虹を描きたい!」と色を混ぜ始めました。失敗しても挑戦し続ける姿が「感性と表現の豊かさ」につながっていると感じました。
現場でのよくある悩みと解決のヒント
抽象的すぎて具体化できない
→ まずは「日常の活動をどの姿に結びつけられるか」を考えるだけで十分です。
どの項目に当てはまるか迷う
→ 1つの活動は複数の姿につながることを理解しましょう。
評価や記録が難しい
→ 写真や短いメモで子どもの姿を残し、あとで振り返る習慣を持つと整理しやすくなります。
みんな最初は分かりにくい
「10の姿って、正直どうやって使えばいいのか分からない」と感じるのは自然なことです。私も新人の頃は週案作成に苦戦し、先輩に相談してやっと理解が深まりました。多くの保育教諭が同じ壁に直面しているので、焦らず取り組めば大丈夫です。
今日からできる取り組み
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1日の活動を「どの姿につながるか」振り返る
→ 例:砂遊び=思考力の芽生え+協同性。 -
週案に10の姿を1つだけ書き込んでみる
→ 無理に全てを網羅しなくてもOK。 -
保護者への連絡帳に「姿」を言葉で伝える
→ 「順番を守って遊ぶ姿が見られました」と具体的に記す。
まとめ
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」10項目は、子どもの未来につながる大切な指針です。抽象的に見えても、日常の遊びや生活と結びつければ、実践のヒントが見えてきます。
完璧を目指す必要はありません。大事なのは、子ども一人ひとりの姿を見取り、「これはどの姿につながっているかな?」と考えること。
今日からまず1つ、日常の活動を「10の姿」に当てはめて振り返ってみると、それが保育の深まりと子どもの成長支援の第一歩となりそうですね。
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