
日々の保育の中で、運動会や作品展、生活発表会などの大きな行事は、園児や子どもたちの成長を感じられる大切な機会です。一方で、「準備に追われて毎日がバタバタ」「とにかく当日を無事に終えることが目標になってしまう」と感じている保育士の方も多いのではないでしょうか。
頭のどこかでは、「幼稚園教育要領や保育所保育指針に書かれている5領域」「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」と行事を結びつけたいと思っていても、現場ではそこまで意識が回らないこともあります。「この練習は、どの領域の育ちにつながっているの?」「10の姿のどんな姿を見取ることができているの?」と問いかけながらも、はっきり言葉にできないモヤモヤを抱えやすい場面です。
また、保護者さんや同僚の職員からの期待も気になるところです。「運動会は感動するものにしたい」「作品展は見栄えよく並べたい」「生活発表会ではしっかりセリフを言わせたい」といった思いとの間で、子どもたちの主体性やペースをどう大切にするか、悩む保育士も少なくありません。
この記事では、幼児教育の知見をもとに、整理していきます。学びの基礎となる考え方から、現場でよくある悩み、日々の保育の中で育ちを支えるための視点まで、一歩ずつたどりながら見ていきましょう。
行事と要領の関係をやさしく整理する
行事は「お楽しみイベント」ではなく、日々の保育の集約
まず押さえたいのは、運動会や作品展、生活発表会などの行事は、「特別な一日」ではあっても「その日だけの出し物」ではないということです。幼稚園教育要領や保育所保育指針では、園児や子どもたちが、生活や遊びの中でさまざまな経験を重ね、その積み重ねとして育ちが表れていくことが大切だと示されています。
行事は、その積み重ねが一つの形となって表れる場だと考えると、「行事のための練習を頑張る」のではなく、「日々の遊びや生活の延長として自然に当日を迎える」というイメージが持ちやすくなります。たとえば運動会であれば、戸外で身体を動かす経験や、友だちと一緒にルールのある遊びを楽しむ経験が、そのまま当日の姿につながっていきます。
このように、「行事=日頃の保育の集約」という視点をもつと、「今日は運動会の練習だから特別」「作品展が近いから急いで作品を仕上げなきゃ」といった慌ただしさから少し距離を置くことができます。結果として、園児一人ひとりの今の姿を見取りながら、その子のペースで育ちを支える関わりがしやすくなります。
「5領域」と行事のつながりをイメージする
次に、行事と5領域との関係をざっくりイメージしてみましょう。5領域とは、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」のことです。これは、子どもたちが幼児期に経験してほしい大切な学びを、わかりやすく分類した枠組みです。
たとえば運動会では、「走る・跳ぶ・投げる」といった身体を使う経験を通して、健康の領域が大きく育ちます。同時に、友だちと力を合わせたり、互いを応援し合ったりすることで、人間関係の領域も豊かになります。作品展では、絵画や造形活動などの制作を通して、表現の領域が中心となりながら、素材や道具に触れることで環境の領域の学びも深まっていきます。
生活発表会では、物語やごっこ遊びをもとにした表現活動が多く、表現の領域や言葉の領域が前面に出やすいでしょう。「セリフを覚えさせる」ことだけでなく、「役になりきる楽しさ」「友だちと場面をつくり上げる面白さ」を味わうことで、人間関係の領域にもつながっていきます。
このように、行事ごとに育ちやすい領域の特色はありますが、実際の活動では複数の領域が重なり合っています。「この行事はこの領域だけ」と決めつけるのではなく、「今の活動では、どの領域の育ちが見えやすいかな?」と柔らかく捉えることが、園児の姿を見取るうえで役立ちます。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」と行事の関係
さらに、10の姿とのつながりも押さえておくと、行事で見えているものがぐっと立体的になります。10の姿とは、「健康な心と体」「自立心」「協同性」「思考力の芽生え」など、幼児期の終わりまでに育ってほしい子どもたちの姿を示したものです。
運動会であれば、「最後まで走りきろうとする粘り強さ」は健康な心と体や自立心に、「友だちと力を合わせてバトンをつなぐ経験」は協同性に結びつきます。作品展では、「どうやったら思った色が出せるかな」「これをここに貼ったら面白そう」と試行錯誤する姿から、思考力の芽生えや豊かな感性を見取ることができます。
生活発表会では、「恥ずかしいけれど、やってみたい」という気持ちの揺れや、「小さいクラスの友だちに楽しんでもらいたい」という優しさなど、人との関わりの中で育つ姿が見えやすくなります。こうした場面を意識して見ていくことで、「行事を通して、どんな10の姿を見取ることができたか」を職員同士で共有しやすくなっていきます。
現場でよくある悩み:「行事のための保育」になってしまう理由
シナリオ優先の生活発表会になってしまう
生活発表会の準備が始まると、まず台本づくりからスタートする園も多いかもしれません。「年長は劇を」「年中はオペレッタを」といった形が先に決まり、その枠に園児を当てはめていく流れです。すると、どうしても「セリフを覚えさせること」「動きをそろえること」が中心になり、子どもたち自身の表現したい気持ちや、友だちとつくり上げる楽しさが見えにくくなっていきます。
結果として、生活発表会が「人前で上手に発表する力」を確かめる場になってしまい、「自分の思いを言葉や身体で表現する」「友だちと役割を分担しながら、場面をつくる」といった10の姿につながる育ちを見取ることが難しくなります。「本当はもっと、子どもたちの自由な発想や、遊びの延長としての表現を大切にしたいのに」と感じながらも、時間や準備の都合から、シナリオ優先になりやすいところに悩みが生まれます。
運動会の練習が「同じことの繰り返し」になりがち
運動会の前になると、園庭やホールでの練習が増えていきます。列をそろえる、入退場のタイミングを合わせる、ダンスの振りを覚えるなど、確認したいことは山ほどあります。その一方で、園児の表情がだんだんと固くなり、「また同じ練習か…」という空気が流れてしまうことはないでしょうか。
本来、運動会は「身体を動かす心地よさ」「友だちと力を合わせる達成感」を味わえる行事です。しかし、同じ動きを何度も繰り返すことに重きが置かれると、「うまくできなかったらどうしよう」「失敗したら怒られるかもしれない」といった不安が前に出てしまい、健康の領域で育てたい意欲や、自立心を支える経験が減ってしまいます。
また、「全員が同じようにできること」を目標にしすぎると、一人ひとりの得意や苦手、挑戦したい気持ちを見取りにくくなります。結果として、「5領域のどこを育てたい練習なのか」「10の姿のどんな姿を支えているのか」が、職員自身にも見えにくくなり、「行事のための保育になっている気がする」というモヤモヤにつながります。
作品展が「大人の共同制作」になってしまう
作品展の時期になると、壁一面に並ぶダイナミックな共同制作や、クラスごとにテーマを決めた展示が並びます。保護者さんにとっても楽しみな行事であり、「わあ、すごいね」「こんなに細かいところまで作ったんだね」と喜んでもらえる場面も多いでしょう。
一方で、「ここは先生が切っておくね」「この線の上をなぞって塗ろうか」と、大人の手が増えていくこともあります。安全面や時間の制約を考えると、ある程度の下準備が必要な場面も確かにありますが、その結果として、子どもたちの発想や手の動きが作品から見えにくくなることがあります。
本来、作品展は「つくる過程の楽しさ」「素材との出会い」「うまくいったり、いかなかったりを試してみる経験」がぎゅっと詰まった場です。環境や表現の領域の育ちを支える絶好の機会でもあります。にもかかわらず、「きれいにそろって見えること」を優先しすぎると、園児一人ひとりの表現の違いや、思考力の芽生えを見取ることが難しくなってしまいます。
「5領域」「10の姿」とのつながりを職員同士で共有しづらい
要領の内容や「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」は、研修や冊子で学ぶ機会が増えてきました。しかし、実際の行事の打ち合わせでは、「プログラムをどうするか」「準備物をどう分担するか」といった話題が中心になり、5領域や10の姿とのつながりまで十分に話し合えないことも多くあります。
特に、経験年数の少ない保育士や、短時間勤務の職員にとっては、「この活動は、どの領域のねらいにつながっているのか」「どんな姿を見取ればいいのか」がわかりにくいまま、準備だけが進んでしまうこともあります。その結果、「とにかく段取りをこなすこと」が優先され、行事と要領の関係が、園全体で共有されにくくなってしまいます。
こうした状況が続くと、行事のたびに「今年も同じような流れになってしまった」「子どもたちの育ちを言葉にして伝えるのが難しい」という感覚が残りやすくなります。悩みを抱えたまま次の行事に向かうことが続くと、保育士自身のやりがいや、専門性を発揮する場面も制限されてしまうかもしれません。
こうした「行事のための保育になってしまう」という感覚は、多くの園で共通して聞かれます。だからこそ、行事と要領の関係をあらためて整理し、「今の取り組みをどう見直せば、園児や子どもたちの育ちを支える時間になるのか」を一緒に考えていくことが大切です。次の章では、そのための具体的な視点を確認していきます。
行事を「5領域」と「10の姿」につなげる具体的な考え方
行事で「どんな姿を見取りたいか」を最初に決める
行事と要領の関係を具体的にしていく第一歩は、「この行事を通して、園児のどんな姿を見取りたいか」を先に決めることです。ここで大切なのは、幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿の中から、2〜3個に絞ることです。
たとえば運動会なら、「健康な心と体」「協同性」「自立心」など。作品展なら、「思考力の芽生え」「豊かな感性と表現」「自然との関わり・生命尊重」など。生活発表会なら、「言葉による伝え合い」「自分なりに考える力」などがイメージしやすいかもしれません。
最初から10の姿すべてを網羅しようとすると、計画が重たくなりがちです。「今年の運動会では、この姿をていねいに見ていこう」と焦点をしぼることで、職員同士の話し合いもシンプルになり、当日の園児の姿を見取りやすくなります。
「5領域」で行事前・当日・行事後をながめてみる
次に、5領域の視点から、行事の前・当日・行事後をながめてみます。
たとえば運動会なら、行事前は戸外遊びやリズム遊びを通して「健康」「人間関係」を育てる期間。当日は、それまでの経験がぎゅっと表れる日。行事後には、「楽しかったこと」「大変だったこと」を言葉にすることで、「言葉」や「表現」の領域も深まります。
作品展では、素材に触れて試してみる行事前の期間が「環境」「表現」の育ちを支えます。当日は「こんなことを考えてつくったよ」と伝える場として「言葉」が加わります。行事後には、「またあの材料で遊びたい」「今度はもっと大きく作りたい」といった、次の探究につながる姿を見取ることができます。
こうして、「行事の日だけ」ではなく、「前後を含めた一連の流れ」を5領域の視点で整理すると、要領と結びついた行事のイメージが具体的になっていきます。
子どもの「気づき・選択・振り返り」の場面を意識してつくる
行事と要領の関係を深めるうえで、もう一つ大切なのが、園児の「気づき」「選択」「振り返り」の場面を意識してつくることです。これは、10の姿の多くに共通してかかわるポイントです。
気づきとは、「お友だちと一緒に走ると楽しい」「この色を混ぜると違う色になる」といった、小さな発見です。選択とは、「リレーに出てみたい」「こっちの材料を使ってみたい」といった、自分で決める経験です。振り返りとは、「緊張したけど面白かった」「少し失敗したけれど、またやってみたい」と自分の経験を言葉にすることです。
行事の準備や当日のプログラムの中に、「どこで気づきが生まれそうかな」「どの場面で子どもたち自身に選んでもらおうかな」「終わったあとにどんな話し合いをしようかな」と意識して組み込むことで、行事がそのまま学びの場になります。園児の一人ひとりの育ちを支えるためにも、こうした場面をていねいに拾っていきたいところです。
記録と振り返りで「学び」を見える化する
行事と要領の関係をはっきりさせるには、簡単な記録と振り返りも役立ちます。特別なフォーマットでなくても、写真とメモがあれば十分です。
・準備の様子を写真で残す
・園児のつぶやきや表情を、その場で短くメモする
・職員同士の振り返りで、「今日はどんな10の姿が見えたか」「どの領域の育ちが印象的だったか」を一言ずつ出し合う
こうした小さな積み重ねが、「行事のどこに学びがあったのか」「子どもたちのどんな姿を見取ることができたのか」を共有する土台になります。同僚の保育士同士で、感じたことを出し合っていくことで、園全体の視点も少しずつそろっていきます。
運動会・作品展・生活発表会ごとの実践イメージ
運動会を「挑戦と協力の場」としてとらえる
運動会は、「健康な心と体」だけでなく、「自立心」や「協同性」を見取りやすい行事です。たとえば、かけっこでは「最後まで走りきろうとする姿」、リレーでは「バトンをつなぐ責任感」、団体競技では「友だちと動きを合わせようとする意識」などが表れます。
ここで大切なのは、「勝ち負け」だけを強調しないことです。結果よりも、「スタートラインに立とうとした勇気」「転んでも立ち上がった姿」「お友だちを一生懸命応援する姿」など、プロセスの中にある育ちを支える視点をもつことです。
また、種目を決めるときに、園児の意見を取り入れる工夫もできます。「どんな競技がやってみたい?」「こんな道具を使ったら面白そうだね」と話し合う時間をつくることで、子どもたちの主体的な姿や思考力の芽生えを見取ることができます。
作品展を「探究の過程が伝わる場」に変えていく
作品展では、「完成した作品」だけを並べるのではなく、「どうやってそこまで来たのか」という過程も一緒に伝えることがポイントです。たとえば、試し描きの紙、途中でやめた作品、小さな失敗の跡も、その子の育ちを支える大切な足あとです。
展示のそばに、園児のつぶやきを一言書き添えるだけでも、「こうやって考えてつくったんだ」と伝わり方が変わります。「ぐるぐるまわして色を混ぜたよ」「ここは友だちと一緒に貼ったんだ」など、短い言葉からも、環境の領域や表現の領域での育ちが見えてきます。
また、素材の選び方や環境づくりも大切です。いろいろな大きさの紙、段ボール、自然物、布など、さまざまな素材に出会えるようにしておくと、子どもたちの発想が広がりやすくなります。「どれを使う?」「どう組み合わせる?」と考える過程そのものが、思考力の芽生えを支える時間になります。
生活発表会を「日常の遊びの延長」としてとらえ直す
生活発表会では、「立派に見せること」よりも、「日々の遊びの延長として表現すること」を大切にすると、園児の自然な姿が見えやすくなります。たとえば、ふだんのごっこ遊びや物語遊びの中で子どもたちが楽しんでいる世界を、そのまま舞台に持ち込むイメージです。
シナリオも大人がすべて決めるのではなく、「この役をやってみたい人」「この場面はどうなると思う?」と問いかけながら、一緒に組み立てていくことができます。そうすることで、言葉の領域だけでなく、「自分なりに考える力」や「人とかかわる力」も育ちやすくなります。
また、練習の中で失敗があっても、「どうしたらうまくいくかな?」と一緒に考え直す時間が、10の姿の多くにかかわる大事な学びになります。完璧な発表よりも、「子どもたちが自分のペースで、仲間と一緒に場面をつくっていくプロセス」を大切にしていきたいところです。
このように、あらためて行事を見直してみると、同じ行事でも見えてくる姿が変わってきます。次では、行事づくりで気をつけたいことや、つまずきやすいポイントを整理していきます。
行事づくりで気をつけたいことと、よくあるつまずき
子どもの負担と疲れを見逃さない
運動会や生活発表会、作品展が近づくと、どうしても練習や制作の時間が増えていきます。そんな中で、園児や子どもたちの表情や体調の変化を見逃さないことがとても大切です。
「最近、朝から元気がない子が多い」「同じ練習になると、明らかに集中が切れている」と感じるときは、少し立ち止まってみるサインかもしれません。
行事を通して育ちを支えるはずが、疲れやストレスばかりがたまってしまうと、「健康な心と体」どころか、行事そのものがしんどい経験になってしまいます。
練習時間を短くしたり、遊びの延長として取り組める内容に変えたりするなど、柔らかく調整していくことが、結果的に行事と要領の関係を大切にすることにつながります。
「見栄え」を優先しすぎないようにする
作品展や生活発表会では、どうしても「きれいに見せたい」「保護者さんに喜んでもらいたい」という気持ちが働きます。それ自体は自然な思いですが、行き過ぎると、「大人が決めた形に、子どもを合わせる」ことになりやすくなります。
たとえば、全員が同じ色で同じ形に塗ることを求めたり、「ここははみ出さないで塗ってね」と細かく指示したりすると、表現の領域で育てたい「自分なりに考えて工夫する姿」が見えにくくなってしまいます。
また、生活発表会でも、「完璧にそろった動き」「間違えないセリフ」を目指しすぎると、「失敗を恐れてチャレンジできない」雰囲気が生まれてしまうことがあります。
もちろん、ある程度のまとまりや安全面への配慮は必要です。そのうえで、「多少バラバラでも、その子らしさが伝わる表現になっているか」「挑戦してみたい気持ちを支えられているか」を、職員や保育士で一緒に確かめていけると安心です。
職員同士の温度差や負担感に目を向ける
行事の準備では、どうしても一部の同僚に仕事が集中したり、「やる気の温度差」が見えたりすることがあります。ベテランの職員が計画や進行を一手に引き受けてしまうと、若手が「ついていくだけ」になり、要領との関係を自分ごととして考えにくくなる場合もあります。
一方で、若手の保育士が「もっと子どもの主体性を大切にしたい」と考えていても、全体の流れに口を出しづらいこともあります。こうしたすれ違いが続くと、「結局、今年も同じような行事運営になってしまった」という感覚になりやすくなります。
話し合いの場では、プログラムや準備物の確認だけでなく、「この行事でどの5領域を大事にしたいか」「どの10の姿を見取っていきたいか」を短い言葉で共有しておくと、方向性がそろいやすくなります。
「この種目では、協同性を意識して見てみませんか?」といった一言があるだけでも、行事と要領の関係を全員で意識しやすくなります。
要領を意識しすぎて窮屈にならないようにする
「要領に沿った行事づくりをしなければ」と意識するあまり、「これは要領どおりと言えるだろうか」「10の姿に当てはまらない気がする」と悩みすぎてしまうこともあります。
しかし、要領は本来「現場の実践をしばるルール」ではなく、「子どもたちの育ちを理解し、支えるための大きな地図」です。
行事と要領の関係を考えるときも、「この活動はどの領域に当てはまるのか」と正解探しをするのではなく、「子どもたちのどんな姿が見えたか」「その姿は10の姿とどうつながっているか」を丁寧に言葉にしていくことが大切です。
完璧な答えを求めるのではなく、職員同士で話し合いながら少しずつ整理していくこと自体が、園全体の学びを支えるプロセスになります。
よくある質問とその答え
Q1:行事を減らした方が、要領に沿った保育になりますか?
A:行事の数そのものより、「中身」と「プロセス」が大切だと考えられています。
行事が多すぎて、日々の遊びや生活が削られてしまうようであれば、見直しが必要な場合もありますが、「数を減らせば自動的に良くなる」というわけではありません。
運動会や作品展、生活発表会など、それぞれの行事でどんな5領域の学びが育っているのか、どんな10の姿を見取ることができるのかを整理していくことが、行事と要領の関係を見直す第一歩になります。
Q2:5領域や10の姿を、職員全員で共有するにはどうしたらよいですか?
A:長い文章の資料を読み込むだけでは、なかなかイメージをそろえにくいものです。
短いキーワードや図解で整理されている解説書を使い、行事の前後で「今日はどの領域がよく見えた?」「どんな姿が印象的だった?」と一言ずつ出し合う場をつくると、少しずつ共通理解が深まっていきます。
会議で使える簡単なチェックリストや、5領域と10の姿を一枚にまとめたシートなどがあると、打ち合わせ中にもパッと確認できて便利です。こうしたツールづくりに役立つ関連書籍を活用するのも一つの方法です。
Q3:保護者さんから「もっと立派な発表を」と言われたときは?
A:「立派」という言葉の裏には、「子どもの成長を見たい」「頑張っている姿を応援したい」という気持ちが隠れていることが多いです。
その思いに寄りそいながら、「日々の遊びの中でこんな姿が育ってきていて、それが生活発表会にもつながっていること」「完璧さよりも、子どもたちが自分らしく表現し、友だちと支え合う姿を大切にしていること」を、ていねいに言葉にして伝えていくことが大切です。
行事の前後に、プロセスがわかる写真やエピソードをお便りで紹介したり、保護者会で10の姿の簡単な説明をしたりすると、「行事と要領の関係」を一緒に理解してもらいやすくなります。
Q4:行事後の振り返りで、何を話せばよいのかわかりません
A:振り返りは、「できた・できなかった」の評価だけで終わらせる必要はありません。
おすすめなのは、次の3つの視点で話し合うことです。
子どもたちの姿で印象に残ったこと(5領域や10の姿と関連付けて)
職員や保育士が「うまくいった」と感じた工夫
課題に感じた点と、次に試してみたい小さな改善
たとえば、「リレーのときに、転んだ友だちを心配して声をかけていた姿があった」など、具体的なエピソードで共有すると、行事と要領の関係が実感を伴って見えてきます。
行事と要領の関係を深く理解するための書籍の選び方
「5領域」と「10の姿」を現場目線で解説してくれる本
行事と要領の関係をしっかり理解するには、まず5領域と10の姿について、現場目線でわかりやすく解説してくれる本が一冊あると安心です。
図やイラストを使いながら、「健康」「人間関係」「環境」「言葉」「表現」のそれぞれが、日々の遊びや行事とどうつながっているのかを紹介している書籍は、忙しい保育士にとって心強い味方になります。
また、10の姿についても、抽象的な説明だけでなく、「こんな姿が見えたら、この項目の育ちが表れていると考えられる」といった具体的な例が載っている本を選ぶと、行事の場面で「今の姿はここにつながっている」とイメージしやすくなります。
『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック 』
保育現場で必携の一冊が 『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック (Gakken保育Books)』 です。要領の内容をわかりやすく整理し、日々の保育や指導計画にどう生かすかを丁寧に解説しています。園児の育ちを支える視点を確認したい新人から、中堅・ベテランの先生まで役立つ実践書です。教育・保育要領を日常の保育に落とし込みたい方にぜひおすすめです。
『10の姿プラス5・実践解説書』
子どもたちの「10の姿」をどう保育実践に活かすかを具体的に知りたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を、豊富なカラー写真と実践事例でわかりやすく解説。園児の育ちを支える日々の保育に直結するヒントが満載です。新人からベテランまで現場で役立つ一冊です。
『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿』
園児の「思いやり」「協同性」「学びに向かう力」など、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」をわかりやすく解説した一冊です。日々の保育の中でどんな場面を見取り、どう育ちを支えるのかを丁寧に示してくれるので、現場の実践にすぐ役立ちます。日々読み返したくなるので保育士の学び直しにもおすすめです。
運動会・作品展・生活発表会などの実践例が豊富な本
運動会・作品展・生活発表会などを『5領域』『10の姿』にどう結びつけるかというテーマに直接役立つのは、行事ごとの実践例がたくさん紹介されている本です。
プログラム例や写真、エピソードが豊富な書籍を読むと、「こんな工夫の仕方があるんだ」「この活動なら、自園でも取り入れられそう」と具体的なイメージが湧きやすくなります。
大切なのは、「そのまま真似をするため」ではなく、「自分の園やクラスに合った形にアレンジするため」に使うという視点です。書籍の実践例をヒントにしながら、園児や子どもたちの実態に合わせて取り入れていくと、無理のない形で行事と要領の関係を深めていけます。
『園行事を「子ども主体」に変える! 11か園のリアルな実践記録』
「園行事を『子ども主体』に変える! 11か園のリアルな実践記録」は、運動会・発表会・作品展を、忙しい準備に追われる行事から、子どもたちの主体性と「10の姿」が光る時間へ変えたい保育士さんに。園同士の具体例と写真が豊富で、明日の話し合いからすぐ使えます。行事と要領のつながりに悩んだとき、迷わず開きたくなる心強い一冊です。新人からベテランまで、園全体で共有したくなる実践のヒントが詰まっています。
職員研修や話し合いに使いやすい本
行事と要領の関係を園全体で共有していくには、「読み物としての本」だけでなく、「研修やミーティングでそのまま使える本」があると便利です。
ワークシートやチェックリスト、ケーススタディなどが付いている書籍は、同僚や職員同士で一緒にページを開きながら話し合うときに役立ちます。
「語り合い」で保育が変わる 子ども主体の保育をデザインする研修事例集
『「語り合い」で保育が変わる 子ども主体の保育をデザインする研修事例集』は、園内研修を見直したい園長・主任・保育士におすすめの一冊。子ども主体への転換や環境づくり、行事・カリキュラム・記録の24事例がコンパクトにまとまり、現場感あふれるヒントが満載です。明日からの話し合いのネタ帳として心強い存在。研修ファシリテートのコツもわかり、園全体で保育の質を高めたい方にぴったりです。
書籍を園全体の「共通の物差し」として活用する
良い本を購入しても、職員室の棚に置きっぱなしではもったいないものです。
たとえば、「今月はこの本のこの章を読んで、行事との関係を話し合ってみる」「新人の保育士さんには、まずこの本のここを押さえてもらう」など、園全体での使い方を決めておくと、関連書籍が共通の物差しとして機能しやすくなります。
「行事と要領の関係をもっと深く考えたい」と感じている方は、まず自分が気になった本を一冊手に取り、そこから園内で少しずつ共有していくことをおすすめします。身近に置いて何度も開きたくなる本との出会いが、日々の保育や行事づくりを支える大きな力になっていきます。
まとめ:日々の保育で試してみたい工夫
小さな一歩として取り入れてみたいこと
行事と要領の関係は、最初から完璧に整理しようとしなくても大丈夫です。
まずは、「この行事では、どの10の姿を2〜3つ意識して見取ってみようかな」と決めてみることが、小さな一歩になります。
運動会なら「協同性」、作品展なら「思考力の芽生え」、生活発表会なら「言葉による伝え合い」など、クラスの実態に合わせて選んでみてください。
同僚や職員と一緒に共有したい視点
一人で抱えこまず、「今日はどんな姿が見えた?」「この活動は、どの5領域につながっていそう?」と、同僚や職員と気軽に話せる雰囲気をつくることも大切です。
短い対話の積み重ねが、園全体で「行事と要領の関係」を共有する土台になっていきます。話し合いのきっかけとして、関連書籍の図解やチェックリストを一緒に眺めてみるのもよい方法です。
書籍を味方にしながら学び続ける
行事づくりに悩んだとき、5領域や10の姿をどう整理したらよいか迷ったとき、頼りになるのが現場目線の解説書や実践書です。
一冊、信頼できる本を手元に置いておくだけでも、「次の行事ではこの視点を試してみよう」「このページを同僚にも見てもらおう」と、前向きなアイデアが生まれやすくなります。
運動会・作品展・生活発表会などの行事は、園児や子どもたちの育ちを支え、その姿を見取る貴重な機会です。
5領域と幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿を手がかりにしながら、行事と要領の関係を少しずつ整理し、「日々の保育で試してみたい工夫」を一つひとつ実践していくことで、現場の悩みは少しずつ軽くなっていきます。
もし「もっと具体的な実践例や、行事と要領の結びつけ方を知りたい」と感じたら、関連書籍を手に取ってみてください。ページをめくりながら、「自分のクラスではどう生かせるだろう」「このアイデアなら、すぐに試せそう」と考える時間そのものが、保育士としての学びを深め、子どもたちの育ちを支える力になっていきます。