保育現場における行事は、子どもたちにとって大きな経験であり、保護者さんにとっても成長を感じられる大切な機会です。運動会で力いっぱい走る姿、作品展でのびのびと描いた絵、生活発表会で友達と協力して演じる姿…。どれも心に残る瞬間です。
しかし現場の保育教諭からはこんな声もよく聞かれます。
「準備に追われて教育的な意味を忘れてしまう」
「結局イベントを成功させることが目的になってしまう」
「保護者さんに“学び”をどう説明すればよいか分からない」
実は行事は、教育・保育要領で示される「5領域」や「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」を可視化する絶好の場です。要領に基づいて計画・実践・振り返りを行えば、行事は単なるイベントではなく、子どもの成長の集大成となります。
この記事では、行事と教育・保育要領の関係を整理し、主要な行事をどう結びつければよいか具体的に紹介します。
行事と教育・保育要領の関係とは?
行事は「非日常」ではなく「日常の延長」
行事というと「特別なイベント」と捉えがちですが、本来は日々の生活や遊びの積み重ねの延長線上にあります。
たとえば運動会のリレーは、毎日の外遊びや運動遊びが基盤になっています。作品展の絵画や工作は、普段の表現活動の集大成。生活発表会の劇や合奏も、日常のごっこ遊びや歌の時間が土台となっています。
「5領域」と「10の姿」に照らす意味
教育・保育要領では「健康・人間関係・環境・言葉・表現」の5領域が示され、さらに「10の姿」として子どもの育ちの方向性が整理されています。行事をこの枠組みで捉えると、単なる成果発表ではなく、育ちを見える化する機会となります。
行事を子どもの学びとして捉える視点
行事は「結果」ではなく「過程」にこそ意味があります。リレーで勝った・負けた、作品が上手・下手ではなく、「友達と力を合わせた経験」「最後までやりきった達成感」「表現する喜び」こそが教育・保育要領に沿った学びです。
主要な行事を要領にどう結びつけるか
運動会と「健康」「協同性」
運動会は体を十分に動かすだけでなく、友達と協力し、ルールを理解する力を育てます。
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5領域との結びつき
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健康:全身を使った運動、体の調整力
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人間関係:チームで協力する経験
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言葉:応援や掛け声のやりとり
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10の姿との結びつき
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健康な心と体
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協同性
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道徳性・規範意識の芽生え
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事例
リレーの練習で転んで泣いてしまった子がいました。すると友達が「大丈夫、一緒に走ろう!」と声をかけ、次の練習では最後まで走り切ることができました。この経験は「協同性」と「自立心」が育つ瞬間でした。
作品展と「表現」「思考力」
作品展は、子どもの感性や創造性を形にする場です。
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5領域との結びつき
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表現:絵画・工作で自由に表す
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環境:素材との出会い、工夫する力
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言葉:作品を説明する経験
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10の姿との結びつき
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豊かな感性と表現
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思考力の芽生え
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自立心
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事例
ある子は、紙を折って作ったロボットに「これはおしゃべりロボットで、友達と話せるんだ」と説明していました。作品を通して自分の世界を広げ、思考を言葉にする力が育っているのだと実感しました。
生活発表会と「言葉」「感性」「社会性」
劇や合奏などを通して、表現する楽しさや役割を果たす経験を積みます。
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5領域との結びつき
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言葉:せりふを覚えて表現する
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表現:歌や演技で感情を表す
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人間関係:役割分担や協力
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10の姿との結びつき
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言葉による伝え合い
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豊かな感性と表現
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社会生活との関わり
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事例
練習ではなかなか声が出なかった子が、本番では大きな声でせりふを言い切り、保護者さんから拍手を浴びました。その達成感が自信につながり、日常の活動でも積極的に発言するようになりました。
その他の行事(遠足・季節行事など)
遠足は「環境」との関わりを広げ、地域の人との交流は「社会生活との関わり」につながります。季節の行事(七夕、もちつき、節分など)は「文化を知る」経験となり、言葉や表現の豊かさを育みます。
現場でよくある課題と解決のヒント
準備が目的化してしまう
大道具や衣装づくりに追われ、子どもの姿が置き去りになることがあります。
→ 解決策:準備の段階から子どもを巻き込み、「一緒に作る」ことを大切にしましょう。
保護者さんへの説明が難しい
「なぜこの行事をやるのか」を説明できずに困ることも。
→ 解決策:教育・保育要領の言葉を使い、「この活動は○○の育ちにつながります」と具体的に伝える。
行事後に振り返りができない
イベントが終わると疲れて終わりになりがちです。
→ 解決策:週案・日案に「子どもの育ち」「次に生かす点」を簡単に記録する習慣をつける。
行事準備に追われるのは当たり前
行事の直前は忙しく、「教育的な意味づけ」が抜けがちになります。毎晩遅くまで衣装作りをして「これって本当に必要?」と思ってしまいますよね。多くの保育教諭が同じ経験をしているので、悩むのは自然なことです。大切なのは「子どもの姿を中心に戻る」視点を忘れないことです。
今日からできる工夫
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行事ごとに「5領域・10の姿」との関連を一言書き出す
→ 「運動会:健康・協同性」「作品展:表現・思考力」など。 -
職員会議で「行事のねらい」を共有する
→ 準備が目的化しないよう、共通理解を持つ。 -
保護者さん向けのお便りに要領の視点を添える
→ 「今回の劇は『言葉による伝え合い』を育むことを目的としています」と伝えると理解が深まる。
まとめ
園行事は、子どもの成長を祝う大切な場であると同時に、教育・保育要領で示される「5領域」「10の姿」を実践的に確認できる機会です。大切なのは、イベントの成功そのものではなく、過程で子どもがどんな姿を見せ、どの力を育んだか。
行事を要領と結びつけて捉え直すことで、保護者さんへの説明も自信を持ってできるようになります。
今日から、次の行事の計画に「これはどの領域・どの姿につながるか」を一言書き添えてみませんか? それが行事を「子どもの学びの集大成」へと変える第一歩になるのかもしれません。
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