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【解説】乳児保育における教育・保育要領のポイント ― 応答的な関わりを中心に

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乳児保育は、子どもたちの一生の育ちの土台をつくる大切な時期です。
0・1・2歳児は、まだ言葉で思いを十分に伝えることができません。
だからこそ、保育士や保育教諭がどんな関わりをするかによって、子どもたちの安心感や信頼感、そして「自分は大切にされている」という感覚が大きく変わります。

とはいえ、「教育・保育要領に書かれている内容をどう実践に落とし込めばいいのか」「応答的な関わりを日常保育の中で意識するには?」と悩む方も多いのではないでしょうか。

この記事では、教育・保育要領の乳児保育に関するポイントを整理しながら、「応答的な関わり」を中心とした実践の考え方を、やさしく解説していきます。
現場で働く職員がすぐに実践に活かせるように、専門用語はできるだけ噛み砕いて説明します。

乳児保育における教育・保育要領の基本を整理する

乳児保育における「養護」と「教育」の一体性

教育・保育要領では、乳児期の保育を「養護と教育の一体的な展開」として位置づけています。
「養護」とは、子どもたちが安心して生活できるように心身の安全を守り、生活習慣の基礎を整えること。
「教育」とは、遊びや生活の中で感情・思考・社会性などの発達を支えていくことです。

ただし、乳児期ではこの2つを分けて考えることはできません。
たとえば食事の時間に「おいしいね」と声をかけることは、子どもの食欲を支える“養護”であると同時に、言葉のやりとりを楽しむ“教育”の場面にもなります。

つまり、乳児保育とは「生きる力の芽生え」を支える営みそのものです。
一見何気ない生活のひとコマにも、子どもたちの学びが詰まっています。

「応答的な関わり」とは何か

教育・保育要領の中で繰り返し登場するキーワードが「応答的な関わり」です。
これは、子どもの行動や発信に対して、保育士が受け止め、言葉や表情で返していく関わりのことを指します。
一方的に指示するのではなく、「あなたの思いをちゃんと見ていますよ」と伝える関係づくりが基本です。

たとえば1歳児がスプーンを持ってご飯をこぼしたとき。
「こぼしちゃったね、どうしようか?」と語りかけるだけで、子どもは自分の行動を受け止めてもらえたと感じます。
その瞬間、「考える力」「自己を理解する力」の芽生えが育ち始めるのです。

応答的な関わりは特別な活動で生まれるものではなく、日常のやりとりすべてが学びの場となります。
乳児保育の本質は、こうした“目に見えにくいけれど大切な瞬間”の積み重ねにあります。

乳児保育の目的を再確認する

教育・保育要領が示す乳児期の目的は、「安心できる関係の中で、心身の発達を支えること」です。
子どもたちが安心して自分を表現できる環境をつくることが、すべての基盤になります。

そのために求められるのが、「子どもの気持ちに応答する姿勢」と「生活を通した一貫した援助」。
たとえば、眠いときにそっと抱っこしてもらえる、泣いたときに気持ちを代弁してもらえる、やりたいことを尊重してもらえる——そんな経験を通じて、子どもは自分を肯定できるようになります。

この「安心感」が育つことが、のちの非認知能力(思いやり、自己制御、挑戦意欲など)にもつながると考えられています。

保育士・保育教諭に求められる専門性

応答的な関わりを実践するためには、ただ優しく接するだけでは不十分です。
重要なのは、子どもの発達を理解し、その行動の意味を見取る力です。
教育・保育要領は「一人ひとりの発達過程を踏まえた援助」を求めています。

0歳児であれば「安心して泣ける関係」をつくること。
1歳児では「自分でやりたい」を受け止めること。
2歳児なら「できた!」という喜びを共感してあげること。

このように、年齢ごとに見取るべき姿が異なります。
それを理解し、子どもの育ちを支える力を職員間で共有することが、チームとしての専門性を高めていきます。

ここまでで、教育・保育要領における乳児保育の基礎と、応答的な関わりの意義を整理しました。
次の章では、実際の保育現場でどのようにこの関わりを実践していくか、具体的な場面をもとに紹介していきます。

現場でよくある悩みと応答的な関わりの実践

「忙しくて一人ひとりに丁寧に関われない」現実

乳児保育の現場では、複数の子どもたちが同時に泣いたり、保育士の膝を取り合ったりすることがよくあります。そんな中で「一人ひとりに丁寧に関わりたい」と思っても、時間的にも体力的にも難しい場面が多いですよね。
応答的な関わりは“ゆとりがあるときにできる特別な関わり”ではなく、短い時間でも相手を意識して応じる姿勢があれば実践できます。

たとえば、泣いている子に近づきながら「どうしたの?」と目を合わせるだけでも、子どもは「自分を見てもらえた」と感じます。すぐに抱っこできなくても、気持ちを受け止めようとする姿勢が伝わることが大切です。
このような積み重ねが、のちに子どもの「自分の思いを表現してもいいんだ」という安心感を育てていきます。

「言葉が出ない子にどう関わればいい?」という悩み

0〜2歳児の中には、まだ言葉で伝えることが難しい子も多くいます。
保育士が「何を伝えたいんだろう?」と迷うときは、表情や動作に注目することが応答的な関わりの第一歩です。

たとえば、2歳児が棚の上を指さして「あー!」と声を出したら、「あれが取りたいんだね」「ブロックかな?」とことばを添えて返す。
子どもの気持ちを“代弁”してあげることで、「分かってもらえた」という経験になります。

これが繰り返されると、子どもは「伝えるって楽しい」と感じるようになり、言葉の発達も自然に促されます。
教育・保育要領で言う“言葉の芽生え”は、このような応答の積み重ねから育つのです。

「子ども同士の関わりがうまくいかない」とき

乳児期でも、1歳後半ごろから他児への関心が高まってきます。
同じおもちゃを取り合う、押し合う、泣いてしまう――そんな場面で「仲良くしなさい」と言いたくなることもあるでしょう。
しかし、教育・保育要領ではこの時期の「ぶつかり」も社会性の育ちの大切なプロセスとして位置づけています。

応答的な関わりでは、すぐに介入して解決するのではなく、気持ちを代弁して“橋渡し”する関わりを重視します。
たとえば「〇〇ちゃんはこれで遊びたかったんだね」「△△くんも使いたかったんだね」と言葉にしてあげる。
どちらも否定せず、気持ちを受け止めてもらうことで、子どもたちは「相手の気持ちにも理由がある」と少しずつ理解していきます。

このように、子ども同士の関係を支える姿勢は、後の協同性の芽生えにつながります。
「誰かと一緒に何かをすることが楽しい」と感じる土台を、乳児期から育てていくことが大切です。

「家庭との連携が難しい」ときに意識したいこと

乳児期は生活リズムが家庭と園で大きく異なることもあり、保護者さんとの連携も欠かせません。
「家庭での様子をうまく共有できない」「伝え方が難しい」と感じるときこそ、応答的な姿勢を大人同士にも生かすことがポイントです。

たとえば、保護者さんが「夜泣きが続いていて…」と話されたとき、「大変ですね」と共感を示すだけでも信頼関係が深まります。
子どもへの関わりと同じように、保護者さんの気持ちに耳を傾けることが、保育の一貫になります。

また、子どもの姿を伝えるときは「できた・できない」ではなく、「今日こんなふうに気持ちを表していました」といったエピソードで共有すると、家庭でも子どもの育ちを一緒に喜ぶことができます。

応答的な関わりを支える保育環境と職員の連携

環境づくりは“第三の保育者”

教育・保育要領では、保育環境を「子どもの主体的な活動を支える大切な要素」として位置づけています。
環境とは単に物的な配置や遊具だけでなく、子どもたちが安心して自分を表現できる“空気”そのものです。

たとえば、保育室の一角に“落ち着けるスペース”をつくることで、気持ちを切り替えたい子どもが安心して過ごせる場ができます。
また、玩具を年齢や発達段階に合わせて整理し、子ども自身が「やってみたい」「選びたい」と思えるようにしておくことも大切です。

こうした環境の整え方ひとつで、子どもたちの主体性は大きく変わります。
保育者の言葉がけに加え、空間が子どもを支えるようにデザインすることが、応答的な関わりを自然に生み出すのです。

職員同士で「見取り」を共有する

応答的な関わりをチームで続けていくには、子どもの姿を共有する時間が欠かせません。
たとえば、午睡中や終礼の時間を使って、「今日、Aちゃんが友だちと関わろうとしていたね」「Bくんが新しい遊びを見つけていたよ」と小さな気づきを言葉にする。

こうした日々の積み重ねが、職員全員の“子ども理解”の質を高めていきます。
一人の視点だけでは見落としがちな育ちも、複数の目で見取ることで新たな発見があります。

また、記録を共有する際は「できた」「できない」という評価ではなく、“その子の今の姿”を丁寧に描写することが大切です。
言葉を変えるだけで、保育の見え方も保護者さんへの伝わり方もぐっと柔らかくなります。

応答的な関わりを支える「チーム保育」

乳児保育では、どうしても一人の保育士が多くの役割を担いがちです。
しかし、応答的な関わりを継続していくためには、チーム全体で支え合う体制が必要になります。

たとえば、ある職員が子どもの気持ちに寄り添っている間に、他の職員が生活の流れをフォローする。
「見守る人」「動く人」「記録する人」が自然に役割分担できると、保育全体のリズムが安定します。

また、忙しい現場ほど「ありがとう」の声かけを大切に。
チーム内の温かい関係性は、そのまま子どもたちの安心にもつながります。
教育・保育要領でいう“環境を通して行う教育”とは、大人同士の関係も含めた保育文化を育てることなのです。

保護者さんと育ちを共有する仕組みをつくる

応答的な関わりを園全体で定着させるには、保護者さんと「育ちの物語」を共有できる仕組みも大切です。
連絡帳やアプリで「今日〇〇がこんなことをしていました」といった小さな発見をこまめに伝える。
その中で、「こういう反応のときに応えてもらえると嬉しいようです」といった提案を添えると、家庭でも保育の考え方がつながります。

保育園での姿を伝えることは、家庭へのアドバイスではなく、共に子どもの育ちを支えるパートナーシップを築く行為です。
こうした丁寧な共有が、子どもの安心と一貫した育ちにつながっていきます。

教育・保育要領の考え方を日常に生かすための工夫

1. 「観察メモ」を“見取りのツール”に変える

毎日の保育記録は、子どもの育ちを見取るための大切な資料です。
つい「できた・できない」「食べた・眠った」といった事務的な記録になりがちですが、少し視点を変えるだけで、**教育・保育要領の実践を支える“気づきの記録”**になります。

たとえば、「Bくんが自分からおもちゃを渡した」「Aちゃんが泣いている友だちを見て心配そうに見ていた」など。
こうした“行動の意味”を一言添えて残すことで、後からその子の成長をふり返る際に大きな手がかりとなります。
応答的な関わりの実践では、記録は評価のためではなく、次の関わりを考えるための材料として使うとよいですね。

2. チームで「小さな変化」を共有する

乳児の成長は日々の積み重ねです。
その小さな変化をチームで共有できる仕組みをつくると、応答的な関わりが職員全体の文化として定着します。

「今日は〇〇ちゃんが泣かずに登園できたね」「△△くんが自分から手を洗っていたね」など、ちょっとした発見を声に出して共有しましょう。
それだけでも、子どもたちを“育ちの途中”で見取る目が育ちます。

また、園内で「見取り共有ノート」や「ポストイット共有ボード」を設け、日々の小さな気づきを書き留めていくのもおすすめです。
チームでの気づきが積み重なれば、子どもの姿を多角的に捉えられるようになります。

3. 応答的な関わりを家庭にも伝える

保護者さんは、園での子どもの姿を知ることをとても喜ばれます。
ただ「元気に過ごしました」ではなく、「お友だちと一緒にお皿を運んで嬉しそうでした」「ブロックを積みながら『できた!』と笑顔を見せていました」と伝えると、
園での応答的な関わりが家庭でも共有できます。

保護者さんが家庭で同じように“気持ちを受け止める関わり”をしてくれると、子どもは一貫した安心感の中で育ちます。
これは、教育・保育要領が大切にしている「園と家庭の連携による一貫性のある保育」の実践そのものです。

4. 保育者自身の“感情”にも応答する

応答的な関わりは、子どもだけでなく、保育者自身にも必要な姿勢です。
忙しい日々の中で「うまくいかなかった」「焦ってしまった」と感じる瞬間もあるでしょう。
そんなときこそ、「今日はよく頑張ったね」と自分を労う時間をつくってください。

保育士が安心して働ける環境は、子どもにとっての安心にもつながります。
教育・保育要領が掲げる“環境を通して行う教育”の中心には、
大人の温かいまなざしと、心の余白を保つことがあります。

5. 実践を深めるためのおすすめ書籍

応答的な関わりをより深く理解し、実践を広げたい方には、以下のような書籍が役立ちます。

1.『発達がわかれば 子どもが見える ―0歳から就学までの目からウロコの保育実践』/ 乳幼児保育研究会, 田中真介 著
温かいまなざしと細やかな関わりを通して、乳児期の子どもたちが安心して育ちを支える「応答的な関わり」の実践法を丁寧に解説した一冊。経験豊富な著者が、教育・保育要領に基づいた考え方とともに、日常の生活や遊びで使える言葉かけ・環境づくりも紹介しています。新人からベテランまで、乳児保育に携わる保育士・保育教諭におすすめの必携書です。


2.『改訂 乳児保育:一人ひとりが大切に育てられるために』/ 吉本和子 著
乳児保育の最前線で「一人ひとりが大切に育てられる」環境をつくるための実践ガイド。食事・排泄・遊びなど、0〜2歳児の生活場面を発達段階に応じて丁寧に解説し、保育環境や関わり方の工夫を写真つきで紹介しています。応答的な関わりや教育・保育要領の理解を深めたい保育士・保育教諭にとって、現場で使える一冊です。


3.『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』/ 乳幼児の発達と保育研究会 著
乳児期の育ちを理解するために役立つ一冊が 『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。月齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通した支援のポイントがわかりやすくまとめられています。授乳・睡眠・食事など日常の生活場面をどう保育に結びつけるかを学べるので、新人の方から経験を重ねた先生まで必携の実践書です。


これらの書籍を通して、教育・保育要領を“読む”だけでなく、日々の保育に落とし込む力を磨くことができます。

日々の保育で試してみたい工夫

  1. 子どもの思いや考えを受け止めて、すぐに大人が解決したり指示したりせず、子ども自身が考えたり、試したりする余白を大切にする

  2. チームで「今日見つけた小さな育ち」を共有する

  3. 保護者さんとの連絡帳で“気づき”をエピソードで伝える

  4. 環境の中に“落ち着ける場所”を設けてみる

  5. 自分自身にも「よく頑張ってるね」と声をかける

どれも大きなことではありません。
けれど、こうした小さな実践が積み重なることで、園全体が“応答的な保育文化”に変わっていきます。

まとめ

乳児保育の本質は、日々の生活の中で子どもたち一人ひとりの思いに応えること
教育・保育要領の理念を“現場の言葉”に置き換えれば、それは「子どもの声を聴き、受け止め、次の一歩を一緒に考える」ことに尽きます。

応答的な関わりは特別な指導法ではなく、保育者のまなざしそのものです。
今日の子どもの笑顔や仕草を丁寧に見取り、明日の保育を少しだけ変えてみる――その繰り返しが、確かな育ちを支える力になります。

  • この記事を書いた人

ポジティブ園長

田舎の自然の中で、のんびりと9歳の娘と6歳の息子と暮らすパパ。 保育 × 心理学 × 脳科学をヒントに、職員と子どもたちが共に成長できる園づくりをしています。 “答えのない時代”だからこそ、楽しみながら考え、失敗を恐れず挑戦する──そんな姿を大切に、みんなと歩んでいる園長です。

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