年長クラスが始まると同時に、先生方の頭に浮かぶ大きなテーマの一つが「小学校接続」です。
「この子は小学校で安心して過ごせるだろうか」
「学習や生活のリズムにスムーズに移行できるだろうか」
こうした課題は年度末だけでなく、年長クラスのスタート時から意識し、日々の保育の中で取り組んでいく必要があります。
文部科学省が示す「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿(10の姿)」は、そのための重要な手がかりです。この記事では、要領の視点を分かりやすく解説し、保育現場で実践できる工夫や小学校との連携方法を具体的に紹介します。
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」とは
文科省が示す「10の姿」の概要
「10の姿」とは、幼児期の教育・保育の中で子どもが育んでほしい資質・能力を具体的に表現したものです。
例として「健康な心と体」「自立心」「協同性」「思考力の芽生え」「自然との関わり」などがあります。これは学力テストのように数値で測るものではなく、子どもが日々の生活や遊びの中でどのように成長しているかを見取り、支えていくための視点です。
学びに向かう力と人間性の基盤
10の姿は、小学校で必要な「読み書き計算の基礎」よりも前に、学びに向かう意欲や人と関わる力を大切にしています。たとえば「友だちと協力して遊ぶ経験」や「自分の思いを言葉で伝える経験」は、小学校での授業参加や友だち関係に直結します。
評価ではなく「見取り」
先生が意識すべきなのは、子どもを評価するのではなく「どんな姿が見えているか」を捉えることです。子どもが自信をもって次のステップへ進めるように、日々の小さな成長を積み重ねていくことが大切になります。
小学校接続とは何か
接続期の意味
「小学校接続」とは、幼児教育と小学校教育をなめらかにつなぐ取り組みを指します。年長の3学期から1年生の1学期にかけてを「接続期」と呼び、この期間は子どもにとって大きな環境の変化が訪れます。
幼小接続が重視される背景
背景には、学習指導要領で「主体的に学びに向かう子ども像」が求められていることがあります。幼児期に培った「遊びの中での主体性」や「生活習慣の基盤」を小学校の学習へとつなげることが重要視されています。
子ども・保護者さん・先生にとっての意味
子どもにとって:安心して新しい学びに挑戦できる基盤
保護者さんにとって:家庭での準備や心構えがわかりやすくなる
先生にとって:園の実践が小学校生活につながっている実感が得られる
現場で先生が感じやすい悩み
学習についていけるかの不安
「ひらがなを全部読めない」「数字を数えるのが苦手」…こうした子を送り出すとき、先生はつい不安になります。しかし10の姿では「知識の量」よりも「学びに向かう姿勢」を重視しています。
生活習慣の課題
「給食を食べるのが遅い」「朝の支度に時間がかかる」など、生活習慣が安定しない子もいます。ここで大切なのは「完璧にできること」よりも「自分でやろうとする姿勢」を育むことです。
保護者さんへの対応
「小学校に入るまでに全部できないとダメですか?」と不安げに聞く保護者さんもいます。先生が「大丈夫です、一緒に育てていきましょう」と伝えられるだけで、保護者さんの安心感は大きくなります。
幼児期の育ちと小学校生活をつなぐ視点
遊びから学びへ
ブロック遊びを通して論理的な思考が芽生えたり、ごっこ遊びで役割を理解したりする経験は、小学校の授業参加へスムーズにつながります。
思いや考えを伝える力
発表や対話に慣れている子は、授業で自分の意見を言うことに抵抗がありません。先生が日常から「どう思う?」と問いかけるだけでも効果があります。
基本的な生活習慣
早寝早起き
自分の持ち物の管理
身の回りのことを自分でする
これらは小学校生活の安心につながる基盤です。
スムーズな接続のために園でできる実践
自立を促す日常の工夫
毎朝自分で出席カードにシールを貼る
係活動を設け、役割を持つ体験を積む
こうした経験は小学校の「当番活動」への自信につながります。
小学校との交流
学校探検や授業見学
1年生との交流遊び
実際の学校を体験することで、子どもは安心感を持ちます。
保護者さんへの情報提供
入学説明会での丁寧な案内
家庭でできる準備リストの配布
保護者さんと一緒に進めることで、子どもの不安も軽減されます。
職員間の連携
職員会議で就学に向けた子どもの姿を共有し、園全体で支援する体制を整えることが大切です。
小学校への引き継ぎと連携
引き継ぎ資料
「できる・できない」だけでなく「得意なこと」「好きな遊び」「友だち関係」など、その子らしさを伝えることが重要です。
子どもの姿を共有する工夫
強みと課題をバランスよく伝えることで、小学校の先生がその子を受け入れやすくなります。
幼小合同研修や連携会議
園と小学校の先生が同じ場で学び合うことが、接続をスムーズにする一番の近道です。
実例紹介
異年齢交流でリーダーシップを育む
年長児が年少児のお手伝いをする姿は、自立心や責任感を育みます。小学校でのグループ活動に活かされやすい経験です。
通学路の練習
家庭と協力して通学路を一緒に歩いた子どもは、入学後の登下校に自信を持って臨めます。
小学校ごっこ
園で「ランドセルを背負って机に座るごっこ」を取り入れた事例では、子どもたちが楽しみながら学校生活をイメージできました。
幼児期の終わりと小学校接続がもたらす効果
子どもにとって
安心して入学を迎え、学びに前向きに取り組める。
保護者さんにとって
子どもの成長を実感し、安心して送り出せる。
先生にとって
日々の保育が確かに小学校生活へとつながっている実感が得られる。
まとめ
幼児期の終わりまでに育ってほしい姿は、小学校接続を考えるうえで重要な指針。
接続期は、園と学校、保護者さんが協力し、子どもを支える大切な時間。
先生が抱く不安は自然なことであり、実践や連携を通じて安心に変えることができる。
子どもが自分らしく新しい環境へ踏み出せるように、日常の一つひとつの取り組みを大切にしていきたい。
明日の保育で、子どもが「自分でやってみたい」と思える小さな活動を一つ取り入れてみませんか? その積み重ねが、幼児期の終わりまでに育ってほしい姿を支え、小学校接続をスムーズにする力になるといいですね。