保育の現場で日々耳にする「言葉の育ち」。子どもたちの語彙や表現力は遊びや生活を通して広がりますが、「どんな関わりが効果的なのか」「教育・保育要領ではどう示されているのか」と悩む先生は多いのではないでしょうか。
絵本を読む、会話を楽しむ、発表を経験させる…。どれも大切な活動ですが、その位置づけや意図を理解して取り組むことで、日々の保育がより意味あるものになります。
本記事では、教育・保育要領における「言葉の育ち」の考え方を整理し、絵本・会話・発表をどのように日常の保育に取り入れるか、具体的な事例を交えて解説します。先生方が子どもの言葉の成長をより深く支えるヒントとなれば幸いです。
教育・保育要領における「言葉の育ち」とは
「言葉の獲得」ではなく「言葉の経験」を重視
教育・保育要領は、幼児期の言葉の育ちを「知識としての語彙」よりも「言葉を使う経験」として位置づけています。例えば、単語を何個知っているかよりも、「友だちに気持ちを伝える」「先生に質問をする」といった場面の方が重視されます。
幼児期に育みたい「表現」「理解」「伝え合い」
要領では、言葉を「表現する力」「理解する力」「伝え合う力」に分けて考えています。
表現する力 … 自分の思いや考えを言葉で表す力
理解する力 … 相手の話や絵本の内容を理解する力
伝え合う力 … 友だちや大人と気持ちや考えをやりとりする力
これらは後の学習活動だけでなく、人間関係づくりや自己肯定感の育成にもつながります。
なぜ「言葉の育ち」が全領域とつながるのか
「言葉」は単独で育つものではなく、運動遊び、音楽、自然体験など、あらゆる領域と関わります。例えば運動会での応援や作戦会議は、体を動かす活動でありながら「言葉の育ち」の絶好の場面です。
現場で先生が感じやすい悩み(共感ポイント)
語彙が少ない子にどう関わればいい?
「お話が少ない子にどう声をかければいいのだろう」と戸惑う先生も多いでしょう。実際、語彙の差は家庭環境や経験の違いから生まれることがあります。
発表が苦手な子をどう支える?
行事やお集まりの場で発表を嫌がる子もいます。無理に前に出させるべきか、そっと見守るべきか、判断に迷うこともあるはずです。
日常会話と教育的関わりの境目が分からない
「ただのおしゃべりと、保育としての会話の違いは?」と考える先生も少なくありません。実際には、日常のやりとりこそが最も自然で効果的な言葉の育ちにつながっています。
絵本を通じた「言葉の育ち」
絵本の読み聞かせが語彙力と感情表現を育む
絵本は子どもに新しい言葉や表現を自然に届ける大切な手段です。例えば「しとしと」「ざあざあ」といった雨の音の表現を知ることで、感情や感覚を豊かに表現できるようになります。
子どもと一緒に絵本を選ぶ・繰り返し読む
ある園では、毎週子どもたちに「今週読む絵本」を選ばせています。「これがいい!」と選んだ絵本を何度も読むことで、子どもは言葉だけでなく、選ぶ力や愛着心も育ちます。
読み聞かせ後の会話
絵本を読んだ後、「どんなところが面白かった?」「もし自分だったらどうする?」と問いかけると、理解した内容を自分の言葉で表現するきっかけになります。
会話を通じた「言葉の育ち」
日常のやりとりが一番の学び場
先生との「おはよう」「今日は楽しかったね」といった短いやりとりが、子どもにとって安心できる会話経験となります。
子どもの言葉を繰り返す・受け止める
子どもが「ブーブー」と言えば「そうだね、車だね」と返す。子どもの言葉を繰り返してあげることで、語彙が少しずつ増え、会話のキャッチボールが成立していきます。
友だち同士の会話を支える環境づくり
ごっこ遊びや小さなグループ活動は、子ども同士の会話を育むチャンスです。先生が間に入りすぎず、必要なときに言葉を添えることで、やりとりの幅が広がります。
発表を通じた「言葉の育ち」
行事での発表だけが「発表」ではない
「発表」というと運動会や発表会を思い浮かべますが、日常の小さな「発表」が大切です。例えば、給食の時間に「今日のサラダに入っている野菜を当ててみよう」と問いかけることも立派な発表経験です。
小さな経験を積む工夫
発表が苦手な子には、まずは少人数の場で話す機会を設けます。絵本を読んだ感想を先生と1対1で伝えるだけでも大きな一歩です。
成功体験が意欲につながる
「みんなの前で話せた」「友だちが拍手してくれた」という成功体験が「また話したい」という意欲を育みます。
実践の工夫と改善事例
絵本から広がった劇あそび
ある園では『三びきのやぎのがらがらどん』を読んだあと、子どもたちが自然に劇あそびを始めました。セリフを真似し合う中で、新しい言葉やリズムを覚えていきました。
日常会話をクラス便りに
先生が子どもの言葉を記録し、クラス便りに載せたところ、保護者さんから「家庭でも会話が増えた」と喜びの声が寄せられました。園と家庭をつなぐ工夫の一例です。
発表が苦手な子のサポート
ある子は人前で話すのが苦手でしたが、先生が「今日は先生と一緒に言ってみよう」と声をかけ、小さな発表から始めました。徐々に慣れ、最後には自分だけで発表できるようになりました。
園内で共有したい視点
言葉の育ちは全職員で見守るテーマ
担任だけでなく、園全体で「子どもの言葉の育ち」を意識することが大切です。
要領に沿った視点を研修で確認
園内研修で要領の「言葉の育ち」に関する記述を取り上げ、日常の保育と照らし合わせることで視点が揃います。
保護者さんとの連携
家庭での会話や読み聞かせも「言葉の育ち」に欠かせません。保護者さんと情報を共有し、協力して子どもを支える姿勢が求められます。
まとめ
教育・保育要領における「言葉の育ち」は、語彙数ではなく「表現・理解・伝え合う力」を育てることを重視している。
絵本・会話・発表はそれぞれの役割をもち、日常の中で組み合わせることが効果的。
先生が感じやすい悩みは自然なことであり、小さな工夫や積み重ねで改善できる。
園と家庭が協力しながら、一人ひとりの子どもの「言葉の育ち」を支えていくことが大切。
明日の保育で、子どもとの会話や絵本の時間に「一つ問いかけ」を増やしてみませんか? 子どもの表現が広がり、言葉を使う喜びが大きく育っていくきっかけとなるといいですね。