子どもたちが友達に優しく声をかけたり、困っている人を助けようとする姿を見ると「思いやりが育ってきたな」と感じる瞬間があります。しかし、思いやりは自然に身につくものではなく、遊びや生活の中での経験を通して少しずつ育っていくものです。
教育・保育要領に示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の中でも「思いやりのある子」は、人間関係領域と深く結びついています。本記事では、思いやりのある子の育ちをどう見取り、どのような保育実践で支えられるか を具体的に解説します。
「思いやりのある子」とはどういう姿か
10の姿における「思いやり」
「思いやりのある子」とは、他者の気持ちに気づき、それに応じて行動しようとする姿を指します。単に「優しい子」ではなく、友達や大人の立場に立って感じ取り、関わろうとすることが大切です。
人間関係領域とのつながり
人間関係領域では「人との関わりを通して協同性や社会性を育てる」ことが重視されています。思いやりはまさにこの基盤にあり、友達とのやりとりや集団生活の中で育まれます。
思いやりが育つ発達のプロセス
3歳頃はまだ自己中心的な行動が多いですが、4〜5歳になると少しずつ他者の視点に気づけるようになります。「貸して」「どうぞ」「ありがとう」といったやり取りは、思いやりの芽生えを示す大切な姿です。
子どもたちの中に見られる「思いやり」の具体例
友達との関わりの中に表れる小さな思いやり
転んだ友達に「大丈夫?」と声をかける
遊んでいるおもちゃを譲る
一緒に片付けをしてあげる
保護者さんや大人との関係で育つ思いやり
保護者さんに「お手伝いするよ」と声をかける
職員に「ありがとう」と伝える
大人が困っているときに自然に助けようとする
日常生活や遊びの中で自然に芽生える思いやり
思いやりは特別な活動で育つのではなく、日常の中で自然に表れます。給食で友達におかずを分けたり、劇ごっこで役を譲ったりする場面は、思いやりの具体的な表れです。
思いやりを育てる保育実践の工夫
ごっこ遊びや共同活動を通して育む
ごっこ遊びや劇あそびは、役割を交代したり協力したりすることで、自然に思いやりが育まれます。役を譲るときや友達を助ける場面が出てくるため、保育士が声をかけて支えることが大切です。
日常の出来事を振り返り「気持ちを言葉にする」支援
けんかやトラブルは思いやりを学ぶチャンスです。「〇〇ちゃんはどう感じたかな?」と問いかけることで、相手の気持ちを考えるきっかけになります。
保育士がモデルとなる ― 大人の関わり方の影響
職員自身が「ありがとう」「大丈夫?」と声をかける姿を見せることも大切です。子どもたちは大人の姿を通して思いやりを学んでいきます。
事例紹介
おもちゃの取り合いが起きた際に保育士が「相手はどう思っているかな?」と声をかけました。すると子どもは自ら「どうぞ」と譲り、その後友達に「ありがとう」と言われて嬉しそうにしていました。この経験が、思いやりの実感につながりました。
園内で共有したい視点
同僚との振り返りで「思いやりの姿を見取る」
園児がどんな行動を見せたときに「思いやりが育っている」と見取れるかを同僚と話し合うことが大切です。
指導計画に人間関係領域として位置づける
年間計画や週案に「思いやりを育むねらい」を盛り込むと、保育に一貫性が出ます。
職員全体で声かけのトーンをそろえる
保育士によって対応が違うと子どもが混乱するため、園全体で「こういうときはどう声をかけるか」を共有しておくと安心です。
保護者さんとの連携で広がる「思いやり」
園での姿を伝える
送迎時に「今日は友達におもちゃを譲る姿がありました」と伝えると、保護者さんも子どもの成長を実感できます。
保護者さんからのエピソードを園に共有してもらう
家庭で「弟におもちゃを貸してあげた」といったエピソードを共有してもらうと、園での支援に活かせます。
園と家庭で一緒に育てる視点
園だけでなく家庭でも「ありがとう」「どうぞ」といったやり取りを意識してもらうことで、一貫した支援につながります。
よくある悩みと対応のヒント
思いやりが育っていないのでは? → 小さな行動を見取ることが大切
けんかや競争が多い → 衝突も思いやりを学ぶ機会と捉える
保護者さんからの相談 → 専門用語ではなく噛み砕いた言葉で説明する
今日からできる取り組み
園児が見せた小さな思いやりをその場で言葉にしてほしいなと思います
保育室に「ありがとうの言葉」を共有できるコーナーを作ってほしいなと思います
会議で「思いやりの姿が見られた瞬間」を報告し合ってほしいなと思います
明日から役立つおすすめの本
現場で実践できる具体的な活動例を、まずは取り入れてみて実際に感じてみることをおすすめします。
- 『10の姿で保育の質を高める本 (これからの保育シリーズ)』
保育実践の質を高めたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」をわかりやすく解説し、日々の保育にどう結びつけるか具体的に示しています。園児の育ちを支える視点を整理したい新人から、中堅・ベテランの先生まで活用できる一冊です。
- 『10の姿プラス5・実践解説書 「幼児期の終わりまでに育ってほしい 10の姿 」をカラー写真いっぱいの実践事例で 見える化 !!』
子どもたちの「10の姿」をどう保育実践に活かすかを具体的に知りたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を、豊富なカラー写真と実践事例でわかりやすく解説。園児の育ちを支える日々の保育に直結するヒントが満載です。新人からベテランまで現場で役立つ一冊です。
- 『遊びや生活のなかで“10の姿"を育む保育 (事例で見る「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿) 』
教育・保育要領に示された「10の姿」を実際の保育場面と結びつけて学べる実践書です。日常の遊びや生活の中でどのように子どもたちの育ちを支えるかを、豊富な事例と写真で具体的に解説。新人保育士から経験豊富な先生まで、保育の質を高めたい方に役立つ一冊です。
- 『幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿』
園児の「思いやり」「協同性」「学びに向かう力」など、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」をわかりやすく解説した一冊です。日々の保育の中でどんな場面を見取り、どう育ちを支えるのかを丁寧に示してくれるので、現場の実践にすぐ役立ちます。日々読み返したくなるので保育士の学び直しにもおすすめです。
どれも専門的な内容をやさしく解説しており、新しい視点で明日からの保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい本となっています。
まとめ
「思いやりのある子」は、日常の積み重ねを通じて育ちます。人間関係領域と結びつけて考えることで、遊びや生活の中に自然に育つ力を見取ることができます。まずは小さな行動を認め、言葉にして伝えることから始めてほしいなと思います。園全体で一貫した視点を持ち、保護者さんとも連携して取り組むことで、子どもたちの育ちを支える大きな力となるといいですね。