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【解説】「規範意識の芽生え」を支える保育実践 ― 約束やルールを子どもたちとつくる

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園生活の中で、子どもたちがトラブルになったり、ルールを守れなかったりする場面は、どの保育士にも日常的にありますよね。
「何度言っても同じことを繰り返す」「悪気はないのに友だちを傷つけてしまう」──そんな姿を前にして、「どう関わればいいのだろう」と感じた経験はありませんか。

実はそのような場面こそ、「規範意識の芽生え」を育てるチャンスでもあります。
子どもたちは、“叱られるからやらない”のではなく、“どうしたらみんなが気持ちよく過ごせるか”を考える経験を通して、少しずつ社会性を身につけていきます。

この記事では、幼児教育の知見をもとに「規範意識の芽生え」の本質を整理し、日常保育の中でどのように支援できるのかを具体的に解説します。
一方的にルールを押しつけるのではなく、子どもたちと“共につくる”姿勢を大切にする保育実践を一緒に考えていきましょう。

規範意識とは何か ― 教え込みではなく、経験から育つ力

「規範意識」とは、社会の中で人と関わる際に、ルールや約束を理解し、自分から守ろうとする心の働きを指します。
教育・保育要領でも、「人との関わりを通して、社会生活のきまりを理解し、進んで守ろうとする態度を育てる」と明記されています。

つまり、保育における規範意識の育ちは、「教える」ものではなく「育まれる」もの。
叱って守らせるのではなく、友だちや保育士との関わりを通して“自分から気づく”体験の積み重ねによって形づくられます。

教え込みでは育たない“心のルール”

たとえば、「おもちゃを順番に使う」というルールを教えただけでは、表面的な理解にとどまりがちです。
しかし、実際に友だちと遊ぶ中で「待つことの大切さ」や「相手も使いたい気持ち」を感じたとき、はじめて“心からの理解”が生まれます。
この“体験を通した納得”こそが、規範意識の育ちの核心なのです。

幼児期にこそ大切な理由

乳幼児期は、社会性の基礎をつくる大切な時期です。
相手の気持ちに気づき、思いやりを持つ力や、自己コントロールを学ぶ力が急速に育ちます。
この時期に「人と関わることって楽しい」「一緒に考えるって大事」という実感をもつことが、将来の社会的自立につながります。

大人の姿が子どもの“規範モデル”になる

子どもたちは、保育士や保護者さんの姿から多くを学びます。
たとえば、「ごめんね」「ありがとう」と言葉にする姿勢や、間違えたときに「次は気をつけようね」と受け止める態度。
こうした日常のやりとりこそ、子どもにとっての“生きた教材”です。

現場で感じる難しさ ― 「言ってもわかってくれない」その背景にあるもの

多くの保育士が感じるのは、「伝えてもすぐ忘れてしまう」「約束を破ってしまう」といった難しさです。
しかし、これは“理解が足りない”のではなく、発達段階や心理的背景によるもの。
その子なりの成長プロセスを見取ることが大切です。

年齢による「ルール理解」のちがい

3歳児はまだ“感情優先”で、「自分がしたい」が先に立ちます。
4歳児になると、少しずつ相手の気持ちに気づきはじめますが、まだ自己中心的な部分が強く、トラブルも多い時期です。
5歳児になると、集団の中でのルールを理解し、「みんなで決める」ことの意味を感じられるようになります。

このように、発達に合わせて支援の仕方を変えることが、規範意識の育ちを支える第一歩です。

「わざと」ではなく「どうしていいかわからない」

ルールを破る行動の多くは、“わざと”ではなく“理解の途中”で起こっています。
たとえば、列に並べない子がいても、それは「並ぶのが嫌」ではなく、「どう動いたらいいのかわからない」場合があります。
そのときに「ちゃんと並んで!」と叱るより、「前のお友だちの後ろに立つんだよ」と具体的に伝えることで、子どもは安心して行動できます。

保育士自身の関わり方を見直す

保育士の言葉がけや態度は、子どもにとっての“規範の鏡”です。
忙しさの中でつい感情的になってしまうこともありますが、大人が冷静に受け止め、言葉で伝えることで、子どもたちも「気持ちは伝えていい」と学びます。
保育士同士で声のトーンや言葉の使い方を見直す時間をもつことも、園全体で規範意識を育てる基盤となるといいですね。

規範意識を育てる保育の工夫 ― 約束やルールを子どもと共につくる

「約束」や「ルール」を伝えるとき、つい大人が先に決めてしまうことはありませんか?
もちろん安全面や生活の流れを守るために、大人が判断することも必要です。
しかし、すべてを“上から与える”形にすると、子どもたちは「守らされる側」になってしまいます。

幼児教育の知見をもとに考えると、規範意識を育てるポイントは「自分で納得して行動する」こと。
そのためには、“ルールを一緒に作る経験”が欠かせません。

子どもと一緒に考える「みんなのきまり」づくり

たとえば、けんかやトラブルが続いたとき、「どうしたらみんなが気持ちよく遊べるかな?」と話し合う時間を設けてみましょう。
保育士が答えを言うのではなく、子どもたちから意見を引き出します。

「おもちゃを取り合わないようにするには?」
「片づけのとき、どうすれば困らない?」

こうした問いかけの中で、子どもたちは「自分たちで決めたルール」への納得感をもつようになります。
壁に絵や写真付きで掲示すれば、視覚的にもわかりやすくなりますね。

トラブルを“学びのチャンス”に変える対話

トラブルが起きたときこそ、成長のきっかけがあります。
たとえば、「順番を抜かされた」と怒る子に対して、「どうして嫌だったの?」「次はどうすればいいと思う?」と対話を重ねること。
その過程で、子どもたちは“相手の立場”を意識できるようになります。

保育士が一方的に裁くのではなく、「話を聞き合う」「気持ちを伝える」場をつくることが、規範意識の土台を育てます。

遊びや生活の中で自然にルールを感じ取る

ルールづくりは特別な時間でなくても構いません。
たとえば、「椅子取りゲーム」「鬼ごっこ」などの遊びの中には、自然と順番や協力のルールが含まれています。
また、当番活動や片づけも、社会的なルールを学ぶ絶好の機会です。

保育士が「ありがとう」「助かったよ」と声をかけることで、子どもは“人の役に立つ喜び”を感じ、自発的に行動するようになります。
この積み重ねが、やがて“思いやり”や“責任感”へとつながります。

「見取り」と「振り返り」で支援を深める

子どもたちがどのようにルールを理解し、どんな姿を見せているかを丁寧に見取ることも大切です。
たとえば、守れなかった場面だけでなく、友だちを助けた瞬間、注意された後に考えて行動できた姿など、肯定的な視点で記録を残しましょう。

振り返りのときに、「今日は〇〇くんがこんなことをしてくれたね」とクラスで共有すると、子どもたちも“よいお手本”を自然に学び取っていきます。

注意点と落とし穴 ― 規範意識を「従わせる指導」にしないために

規範意識を育てる保育では、「ルールを守る=良い子」という単純な評価に陥らないよう注意が必要です。
子どもたちは一人ひとり発達のスピードも感じ方も違います。
同じ行動でも、「理解できたけど行動できない子」と「まだ意味をつかめない子」では支援の仕方が異なります。

「守らせる」ではなく「気づかせる」

大人が決めたルールをただ守らせるだけでは、子どもは“なぜそうするのか”を考えられません。
「どうしてこのルールがあるんだろう?」と一緒に考えることが、真の理解につながります。
たとえば、給食で食器を片づけるときも、「どうしたら次の人が使いやすいかな?」と問いかけると、自然に思いやりの心が育ちます。

「ルール=我慢」にならないように

ルールを強調しすぎると、子どもたちは“我慢すること”が正しいと思ってしまうこともあります。
本来、ルールはみんなが気持ちよく過ごすためのもの。
「楽しく過ごすためにあるんだね」と肯定的な言葉で伝えることが大切です。

大人が“完璧でなくていい”というメッセージ

保育士も人間です。失敗したり、感情的になってしまうこともあります。
そのときに「先生も怒っちゃったね。ごめんね」と素直に伝えることで、子どもは“失敗しても立て直せる”ことを学びます。
大人が自分を振り返る姿を見せることが、最も自然な“規範教育”になるといえるでしょう。

現場で活かせるヒント ― 他の先生や保護者さんと連携するには

規範意識の育ちを支えるには、保育士一人の努力だけでなく、園全体での共通理解が欠かせません。
「先生によって言うことが違う」「家庭と園で対応がずれる」と、子どもたちは混乱してしまいます。
日常の中でチームとして連携を強めることが、より良い保育実践につながります。

職員間で「ルールの捉え方」を共有する

まず大切なのは、職員同士が“ルールや約束の意味”をそろえることです。
たとえば、「靴をそろえる」「静かに並ぶ」といった行動の背景に、どんな意図があるのかを話し合いましょう。
ただ「きれいに並べる」だけでなく、「次に使う人が気持ちよくなるため」という意識を職員間で共有すると、声かけにも一貫性が生まれます。

園内研修やミーティングで、トラブル事例を取り上げるのも有効です。
「このときどう関わればよかったか」をみんなで考えることで、保育観が深まり、若い先生にとっても学びの機会になります。

保護者さんへの伝え方を工夫する

保護者さんから「うちの子、ルールを守れないみたいで心配です」と相談を受けることもありますよね。
そんなときは、「できていない」部分に焦点を当てるのではなく、「成長の途中である」ことを伝えるのが大切です。

たとえば、「まだ友だちの気持ちを想像するのが難しい年齢ですが、遊びの中で少しずつ“どうしたらいいかな”と考えられるようになっていますよ」と具体的に伝える。
こうした言葉がけは、保護者さんの安心にもつながります。

また、家庭でも取り入れられる工夫を提案すると良いでしょう。
「食事の前に“みんなそろったね”と言ってからいただく」など、園と家庭が共通の視点をもつことで、子どもの理解が深まります。

トラブル対応は“味方になる姿勢”で

けんかやトラブルが起きたとき、保護者さんの受け止め方もさまざまです。
「うちの子が悪いんですか?」という不安や、「相手に迷惑をかけてしまった」という罪悪感を抱く方もいます。
そんなときこそ、「どちらが悪いか」ではなく、「どちらの気持ちも大切に見ています」と伝えることが重要です。

たとえば、「お互いに気持ちがぶつかってしまいましたが、○○くんも“こうしたらよかった”と考えていましたよ」とフォローする。
園と家庭が協力して支える姿勢を見せることで、保護者さんとの信頼関係も強くなります。

園のルールを子どもたちと「見える化」する

園全体で取り組む際には、“子どもたちと一緒に作るルール掲示”もおすすめです。
保育室の壁や廊下などに「みんなで決めたおやくそく」を絵や写真付きで掲示すると、子どもたち自身の意識づけになります。
「これ、自分たちが考えたルールだ!」という実感が、主体的な行動を促します。

定期的に見直しをするのもポイントです。
「このルール、今も大事かな?」と問いかけながら、子どもたちと更新していくことで、“守る”から“一緒に育てる”ルール文化が育ちます。

実践を助ける関連書籍の紹介

実践を続ける中で「この関わりで合っているのか」「もっと良い方法はないか」と迷うこともあると思います。そんなときに役立つのが、理論と事例を学べる関連書籍です。ここでは特におすすめの4冊を紹介します。どれも教育・保育要領に沿った内容で、日々の実践や保護者さんへの説明に役立つものばかりです。

10の姿プラス5・実践解説書の活用

子どもたちの「10の姿」をどう保育実践に活かすかを具体的に知りたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を、豊富なカラー写真と実践事例でわかりやすく解説。園児の育ちを支える日々の保育に直結するヒントが満載です。新人からベテランまで現場で役立つ一冊です。

10の姿で保育の質を高める本 で学べる視点

保育実践の質を高めたい先生におすすめな本です。教育・保育要領に示される「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」をわかりやすく解説し、日々の保育にどう結びつけるか具体的に示しています。園児の育ちを支える視点を整理したい新人から、中堅・ベテランの先生まで活用できる一冊です。

遊びや生活のなかで“10の姿"を育む保育で広がる事例

教育・保育要領に示された「10の姿」を実際の保育場面と結びつけて学べる実践書です。日常の遊びや生活の中でどのように子どもたちの育ちを支えるかを、豊富な事例と写真で具体的に解説。新人保育士から経験豊富な先生まで、保育の質を高めたい方に役立つ一冊です。

幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿による振り返り

園児の「思いやり」「協同性」「学びに向かう力」など、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」をわかりやすく解説した一冊です。日々の保育の中でどんな場面を見取り、どう育ちを支えるのかを丁寧に示してくれるので、現場の実践にすぐ役立ちます。日々読み返したくなるので保育士の学び直しにもおすすめです。

こうした書籍を手に取ることで、現場で迷ったときの“判断の軸”をもつことができます。
特に新任の先生にとっては、「伝え方」「見取り方」「声かけの工夫」を整理する良い機会になるといえるでしょう。

日々の保育で試してみたい工夫

規範意識の芽生えは、特別な指導時間ではなく、日々の生活や遊びの中で育っていきます。
ここでは、すぐに園で取り入れられる実践のヒントを紹介します。
小さな工夫の積み重ねが、子どもたちの「人と関わる力」を育てていきます。

①「理由」を添えた声かけを意識する

子どもにルールを伝えるときは、単に「〇〇しようね」だけでなく、その理由を添えることで理解が深まります。
たとえば、「走らないで」ではなく「走ると友だちにぶつかって痛い思いをしちゃうかもしれないね」と伝える。
こうすることで、“禁止”ではなく“思いやり”の気持ちが伝わります。

また、保育士自身が「なんでこうしてほしいのか」を意識することで、声かけが一貫しやすくなります。
「この言葉で子どもが安心できるかな?」と考える姿勢が、よりよい関わりにつながるといえるでしょう。

②「ルール」を“見せる”形にして共有する

子どもたちは目で見て理解することが得意です。
「みんなで決めたおやくそく」をイラストや写真で掲示したり、絵本のようにまとめたりすると、日々確認しやすくなります。
掲示を子どもたちと一緒に作るのもおすすめです。

また、年齢によって理解の仕方も変わります。
3歳児は“見て真似る”段階、4歳児は“友だちと確認しながら守る”段階、5歳児は“自分たちで守り合う”段階へと発達していきます。
年齢に合わせた「見せ方」「伝え方」を工夫してほしいなと思います。

③「できた瞬間」を言葉で見取る

規範意識の育ちは、失敗を叱るよりも“できた瞬間を見取る”ことで進みます。
たとえば、トラブルのあとに「ちゃんと謝れてえらかったね」「次はこうしようって考えられたね」と伝える。
その一言が、子どもに“自分で考えていいんだ”という安心感を与えます。

また、保育士同士で「今の声かけよかったね」と共有する文化をつくることも大切です。
保育者の関わり方を肯定的に見合うことで、園全体にあたたかい雰囲気が生まれます。

④「正しさ」より「気持ち」を大切にする

ときには、子ども同士の意見がぶつかることもあります。
そんなとき、「どっちが正しいか」ではなく、「どう感じたのか」を大切にしてほしいなと思います。
「○○くんはそう思ったんだね」「△△ちゃんはこうしたかったんだね」と、まず気持ちを受け止める。
その上で「どうしたらみんなが気持ちよく過ごせるかな?」と考えをつなげていくことが、規範意識の育ちを支えます。

⑤「失敗してもいい」雰囲気をつくる

規範意識は、失敗の中から育ちます。
完璧にルールを守ることよりも、「間違えても大丈夫」「もう一度考えればいい」という環境が大切です。
子どもたちは、失敗を通して“自分で気づく力”を育てていきます。
大人も「うまくいかなかったね。でも次にどうしようか考えよう」と寄り添う姿勢をもつことで、安心して挑戦できる場が生まれます。

まとめ

「規範意識の芽生え」を育てる保育とは、子どもたちに“守らせる”指導ではなく、“共に考える”姿勢を育む実践です。
ルールや約束は、押しつけではなく、子どもたち自身が「納得して守りたい」と思えるようにすることが大切です。

そのためには、
・理由を添えた声かけを意識すること
・子どもと一緒にルールを作ること
・保育士同士や保護者さんと連携して支援すること
がポイントになります。

規範意識の育ちは、一朝一夕では見えにくいものですが、日々のやりとりの積み重ねが確実に子どもたちの中に根づいていきます。
保育士自身も完璧を目指すのではなく、「一緒に育っていく」気持ちを大切にしてほしいなと思います。

そして、困ったときには書籍や先輩の実践を参考にしながら、自分なりの関わり方を見つけていくことが大切です。
子どもたちが「人とつながる喜び」を感じながら育っていけるよう、今日の保育から小さな一歩を始めてみてくださいね。

  • この記事を書いた人

ポジティブ園長

田舎の自然の中で、のんびりと9歳の娘と6歳の息子と暮らすパパ。 保育 × 心理学 × 脳科学をヒントに、職員と子どもたちが共に成長できる園づくりをしています。 “答えのない時代”だからこそ、楽しみながら考え、失敗を恐れず挑戦する──そんな姿を大切に、みんなと歩んでいる園長です。

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