
「同じ年齢の子と比べると、うちの子はこだわりが強い気がする…」
「おもちゃの並べ方を崩されると泣き出す」
「毎日同じ道を通らないとパニックになる」
そんな悩みを抱えているお父さん、お母さんは少なくありません。子育てをしていると、お子さんの独特な行動に驚いたり、時には不安になったりすることもあるでしょう。
こだわりの強さは、成長の一部として自然に現れることもありますが、ASD(自閉スペクトラム症)などの発達特性と結びついて表れることもあります。大切なのは「なぜこだわるのか」という背景を理解し、そのうえで日常生活の中で支援できる工夫を取り入れていくことです。
この記事では、幼児教育の知見をもとに、家庭でできる発達支援の工夫をわかりやすく紹介します。お子さんの姿を見取り、ご両親が安心して育ちを支えるヒントをまとめました。
子どもの「こだわりが強い」とは?
子どものこだわりは、大人から見ると「なぜそこまで?」と思えることも多いものです。
こだわりが強いお子さんに見られる行動例
おもちゃを特定の順番で並べないと落ち着かない
同じ服しか着たがらない
食べ物の食感や色に強い拒否を示す
遊び方がワンパターンで変化を嫌がる
これらは一見「わがまま」や「頑固さ」と捉えられがちですが、実際には発達特性に由来する行動であることも多いです。
発達特性とこだわりの関係
ASD傾向のあるお子さんは、感覚の過敏さや、予想外の変化への不安が強いため、こだわりという形で行動に表れることがあります。例えば「順番通りでないと嫌」という気持ちは、見通しを失うことへの不安から来ている場合があります。
一時的なこだわりと支援が必要なこだわりの違い
成長過程で「恐竜に夢中」「同じ絵本を何度も読む」など、一時的なこだわりは珍しくありません。しかし、生活に大きな支障が出たり、強い不安やパニックにつながる場合は、家庭での工夫や専門的なサポートを取り入れる必要があります。
こだわりの背景にある要因
「なぜうちの子はこんなにこだわるのだろう?」と疑問に思うご両親も多いでしょう。その背景を理解することで、関わり方のヒントが見えてきます。
感覚の過敏さや鈍さとの関わり
感覚統合の観点では、音や光、触感などに過敏または鈍感なお子さんは、安心できる行動パターンを作ることで心を落ち着けようとします。例えば「同じ食器しか使わない」という行動は、感覚の予測可能性を保つための工夫なのです。
見通しが立たない不安からくる行動
「次に何が起こるかわからない」という不安を減らすために、同じルーティンに強くこだわるケースもあります。スケジュールや予定を伝えることで安心感を与えることができます。
発達段階で自然に見られる場合もある
こだわりは発達の一部として自然に現れることもあります。2〜3歳頃には「イヤイヤ期」と重なり、好き嫌いが強く出ることがあります。成長とともに柔軟性が育ち、自然に薄れていく場合もあるため、特性と区別することが大切です。
家庭でできる発達支援の工夫
ご両親が日常生活でできる小さな工夫は、こだわりに悩むお子さんの安心感を支える力になります。
見通しを持たせる(スケジュールや視覚的サポート)
「次に何をするか」が見えると、お子さんの不安は減ります。絵カードやタイムスケジュールを壁に貼り、順番が分かるようにしてあげましょう。
選択肢を与えて安心感をつくる
「赤い服と青い服、どちらにする?」と選択肢を与えることで、お子さんはコントロール感を持てます。こだわりを尊重しながら、少しずつ柔軟性を育てることができます。
小さな成功体験を積み重ねる声かけ
「今日は途中まで片づけられたね」「スプーンでひと口食べられたね」など、小さなできたことを認める声かけが、挑戦への意欲につながります。
リラックスできる環境づくり
お気に入りのぬいぐるみや静かなスペースを用意して、安心できる時間を持たせましょう。家庭が安全基地となることは、お子さんの育ちを支える大切な基盤になります。
子どものこだわりに向き合うときの工夫
お子さんのこだわりが強いと、「どうしてそんなに同じことにこだわるの?」と親御さんが戸惑う場面は少なくありません。例えば「必ず同じ道を通らないと泣いてしまう」「服のタグが気になって着替えが進まない」といった様子は、ASD傾向のお子さんにはよく見られる姿です。これは「安心したい」「見通しを持ちたい」という気持ちが背景にあることが多いのです。
無理にやめさせようとするよりも、こだわりを一度受け止めながら少しずつ選択肢を広げていくことが大切です。たとえば、毎日同じ道を歩きたいお子さんには「今日はこの道、明日はこっち」と絵カードで順番を示すと安心しやすくなります。こうした「見える化」の工夫が、こだわりへの対応の第一歩になります。
日常生活でできる支援のヒント
ご家庭の中で取り入れやすい工夫をいくつか紹介します。
着替えの手順を絵にする
文字だけの説明では理解が難しい場合、絵カードで順序を示すとスムーズに行動できます。音や光の刺激を調整する
感覚過敏のお子さんは、ちょっとした音や服の素材が気になることがあります。イヤーマフを使う、服を柔らかい素材にするなどの工夫でストレスが減ります。「できた!」を一緒に喜ぶ
どんなに小さな一歩でも、できた瞬間を一緒に喜ぶことが自己肯定感を高めます。
これらは特別な道具がなくても始められる取り組みです。大切なのは、親御さんがお子さんの育ちを支える姿勢を持ち続けることです。
ご両親が感じやすい悩み
こだわりに寄り添いながら日常生活を送るのは簡単ではありません。親御さんからはよく次のような声が聞かれます。
「毎日同じことの繰り返しで疲れてしまう」
「外出先でこだわりが出ると周りの目が気になって辛い」
「支援の仕方が合っているのか不安になる」
このような不安は、とても自然なことです。むしろ多くのお父さん、お母さんが同じように感じています。だからこそ「一人で抱え込まないこと」「体系立てられた支援法を学ぶこと」が大切になります。
家庭療育プログラムの必要性
日々の工夫は大切ですが、親御さん自身が支援の方法を学べる環境があると安心です。特に「どこから始めればいいのかわからない」と迷うときには、体系化されたプログラムを活用することで、次に何をすればいいかが明確になります。
実際に、療育的なアプローチを取り入れたご家庭では「子どもの行動が少しずつ変化した」「親としての関わり方に自信が持てた」という声が多く聞かれます。
もし「家庭でもっと実践的に支援をしたい」と考えている方は、下記の記事をご覧いただければと思います。お子さんに合った関わり方を探している方にとって、具体的なヒントが得られる内容になっています。
事例紹介:少しずつ変わった子どもの姿
あるお母さんは「外出先で同じお菓子しか選べず困っていた」という悩みを抱えていました。そこで家庭で「今日は赤い袋、明日は青い袋」と視覚的に選択肢を示す工夫を続けたところ、数か月後には自分から新しいお菓子を選べるようになったのです。
別のお父さんは「片づけを嫌がる息子に困っていた」と話します。そこで療育的なアプローチとして「片づけ=楽しい遊び」に変え、タイマーを使って競争感覚を取り入れたところ、自分から進んで片づけられるようになりました。
こうした体験談は、ご両親にとって「自分たちもできるかもしれない」という勇気を与えてくれます。
療育的アプローチを家庭に取り入れる
ご両親の中には「専門的な支援は療育施設に行かないと受けられないのでは?」と感じている方も少なくありません。しかし、実は家庭でも取り入れられるアプローチがあります。ここでは代表的な3つをわかりやすく紹介します。
ABA(応用行動分析)
ABAは「できた!」という経験を積み重ねていく方法です。たとえば「おもちゃを片づけられたら褒める」「自分で言葉を発したら喜びを共有する」といった小さな行動に注目し、良い行動を強化していきます。
お子さんの行動を観察して「なぜその行動をするのか」を見極める視点を持つことが大切です。家庭では「ご飯を食べたらシールを貼る」「順番を守れたら好きな遊びをする」など、簡単な仕組みで取り入れることができます。
TEACCH(構造化された教育)
TEACCHは「生活の流れをわかりやすく伝える」ことに重点を置くアプローチです。例えばスケジュールを絵カードで見せたり、片づける場所をラベルで示したりする工夫がこれに当たります。
「次に何をするのか」が明確になると、お子さんは安心して行動できます。こだわりが強い子にとっても、見通しが持てることは大きな支えとなります。家庭でも「朝の支度の流れをボードに貼る」「宿題→おやつ→遊び」と順番を可視化するだけでも効果があります。
感覚統合
感覚統合とは「体を動かす遊びや感覚あそびを通して、感覚のバランスを整える」支援法です。ブランコで揺れる、粘土をこねる、水遊びをする――こうした遊びが、実は脳の感覚処理を助けています。
感覚が過敏なお子さんや鈍感なお子さんにとっては、遊びの中で少しずつ刺激に慣れることが成長につながります。家庭では「新聞紙を丸めてキャッチボール」「タオルで引っ張り合いっこ」など、日常にあるものを活用できます。
それぞれの方法のメリットと注意点
どの方法にもメリットがありますが、万能ではありません。
ABA は達成感を感じやすい反面、「ごほうびがないと動けなくなる」リスクがあります。褒めることを中心にして、ごほうびは段階的に減らすことがポイントです。
TEACCH は安心感が得られますが、カードやボードの準備が負担になることも。無理なく続けられる範囲で取り入れるとよいでしょう。
感覚統合 は遊びの中で楽しくできる反面、環境によって安全に配慮する必要があります。特にバランスボールや高い遊具を使う際は注意が必要です。
どれかひとつに絞る必要はなく、お子さんの特性に合わせて組み合わせていくのが効果的です。
ご両親が取り入れるときに大切なこと
どの方法を選ぶにしても大切なのは「完璧を目指さない」ことです。日によって上手くいかないこともありますが、少しずつ取り組むことに意味があります。
親御さんが「やらなきゃ」と追い込まれてしまうと続きません。まずは「今日は5分だけやってみよう」くらいの気持ちで始めるのが理想です。
また、お子さんの育ちを支えるためには「今どの段階にいるのか」「次にどんな力を育てたいのか」を整理することが大切です。これは家庭だけで判断するのは難しい部分でもあります。
体系的なプログラムを活用するという選択
「毎日の支援に工夫を取り入れているけれど、この方法で合っているのかな…」
「成長に合わせて次は何をすればいいのかわからない」
こう感じるご両親はとても多いです。
そんなとき、体系的に整理された家庭療育プログラムを活用するのは大きな助けになります。プログラムなら段階的にステップが用意されているので、「今はここ」「次はこれ」と明確に進められます。
「家庭での工夫だけでは限界を感じていたけれど、プログラムを取り入れてからは親子で安心して取り組めるようになった」という声もあります。
より具体的に知りたい方は、家庭で取り入れられるプログラムをまとめた下記の記事を参考にしていただければと思います。親御さんが日常に無理なく取り入れられる工夫や教材が紹介されているので、「今の悩みに役立ちそう」と感じられるはずです。
よくある質問とその答え
Q1. 家庭でできる発達支援だけで十分ですか?
A. 家庭での支援はとても大切ですが、必ずしもそれだけで十分というわけではありません。専門機関や療育センターでの支援と並行するとより効果的です。ただし、日常での積み重ねが成長に直結するため「家庭療育の時間をどう過ごすか」がとても大きな意味を持ちます。
Q2. こだわりが強くて、毎回同じ遊びしかしたがりません。どうしたらいいですか?
A. こだわりは「安心できるパターンを求める気持ち」の表れでもあります。無理に変えようとせず、少しずつ新しい遊びを加えるのがおすすめです。例えば「好きなブロック遊びの後に1分だけ粘土を触る」など、既に安心している活動に小さなチャレンジを組み込むと自然に広がっていきます。
Q3. 兄弟姉妹との関わりでケンカが絶えません。どう接すればいいですか?
A. 兄弟のやりとりは、お子さんにとって大切な学びの場でもあります。全てを仲裁するのではなく、ルールを決めて見守ることが大切です。「おもちゃはタイマーで順番」「叩いたらクールダウンの時間を持つ」といった具体的な仕組みを家庭に取り入れるとトラブルが減ります。
Q4. プログラムを利用するとしても、本当に続けられるか不安です。
A. 続けられるかどうかは、多くの親御さんが抱える心配です。大切なのは「毎日きっちりやらなければならない」と思い込まないこと。1日10分、週に数回でも取り組みがあるだけで変化が出ます。短い時間でも継続することが、安心感や習慣づけにつながります。
注意点とデメリットも知っておく
家庭で発達支援を行うときには、メリットだけでなく注意すべき点も理解しておくことが大切です。
焦りすぎないこと
「同年代と比べてどうしても遅れている」と思うと、親御さんが焦ってしまい、逆にお子さんにプレッシャーを与えることがあります。焦らず「昨日より一歩進めた」ことを喜ぶ姿勢が必要です。親の負担が大きくなりすぎないようにすること
毎日の記録や教材準備がご両親の負担になってしまうケースもあります。完璧を求めるのではなく、できる範囲で工夫することが長続きのコツです。お子さんの性格や特性に合う・合わないがある
同じ方法でも効果が出やすい子、出にくい子がいます。「このやり方は合っていないかも」と思ったら、柔軟に切り替える勇気も必要です。
こうしたデメリットを踏まえた上で、無理のない範囲で続けていくことが「育ちを支える」第一歩となります。
まとめ
子どものこだわりや発達の特性に向き合うのは、決して簡単なことではありません。お父さんやお母さんが日々悩みながらも工夫を重ねている姿は、それだけでお子さんの成長を支える大きな力になっています。
今回紹介した ABA・TEACCH・感覚統合 のアプローチは、すべて家庭で取り入れやすいものです。小さな工夫を積み重ねながら、お子さんの「できた!」を一緒に喜ぶことが、次の成長につながります。
とはいえ「どんな順番で取り組めばいいのか」「今の支援で合っているのか」と迷う場面は必ず出てきます。そんなときに頼りになるのが、体系化された家庭療育プログラムです。
特に、発達が気になるお子さんの「今の姿を見取る」ことから始められ、段階ごとに無理なく支援できるプログラムは、親御さんにとって安心感のある伴走者のような存在となります。
家庭での支援をさらに広げたいと感じている方は、本記事でご紹介しました記事を参考にしてみてください。具体的な方法や教材が紹介されており、「これならできそう」と思えるヒントがたくさん見つかるはずです。
焦らず、一歩ずつ。お子さんの育ちを支える工夫を、ご家庭に取り入れていただけたらと思います。
