「社会福祉法人の会計ってややこしい…」
保育園や認定こども園を運営する理事長や園長、会計担当者から、そんな声をよく耳にします。
一般の株式会社と異なり、社会福祉法人会計では資金収支計算書や事業活動計算書など特殊な帳票を作成する必要があり、補助金・保育料・給食費・寄付金といった多岐にわたる収入を仕分けしなければなりません。さらに監査や行政報告もあるため、仕分けの正確さは園の信頼に直結します。
本記事では、幼児教育の現場経験を持つ立場から「社会福祉法人の認定こども園、保育園での会計の仕分け」について、基本から実務に役立つ具体例、よくある失敗と改善策まで徹底的に解説します。
社会福祉法人会計と一般会計の違い
資金収支計算書と事業活動計算書
株式会社では「損益計算書」で利益を示しますが、社会福祉法人では「資金収支計算書」を使います。
これは「どこから資金が入り、どこに使ったか」を示すもので、収入と支出を明確に見せる帳票です。
さらに「事業活動計算書」では、法人が行うサービスごとの活動収支を把握します。認定こども園なら「教育・保育事業」「給食事業」「延長保育事業」などに分け、区分経理を行う必要があります。
区分経理の必要性
社会福祉法人会計では、事業区分や拠点区分を明確にすることが義務付けられています。
たとえば「補助金で受けたお金」と「保護者から受け取る保育料」は性質が異なるため、同じ収入としてまとめるのではなく、きちんと分けて仕分けをしなければなりません。
「補助金と保育料を同じ収入に入れてしまい、後で修正に追われた」という経験を持つ会計担当の方は多いのではないでしょうか。
保育園・認定こども園でよくある仕分けの基本
補助金収入の仕分け
社会福祉法人にとって補助金は大きな収入源です。ただし「公費」と「一般補助金」を区別して仕分ける必要があります。
仕分け例(公費補助金を受けた場合):
-
借方:現金 100万円
-
貸方:補助金収益(公費) 100万円
仕分け例(一般補助金を受けた場合):
-
借方:現金 50万円
-
貸方:補助金収益(一般) 50万円
保育料・給食費・延長保育料
保護者から受け取るお金は「利用者負担収益」として仕分けします。
仕分け例(保育料の入金):
-
借方:現金 10万円
-
貸方:利用者負担収益(保育料) 10万円
仕分け例(給食費の入金):
-
借方:現金 2万円
-
貸方:利用者負担収益(給食費) 2万円
支出の仕分け
-
人件費:給与手当・社会保険料
-
消耗品費:文房具や日常備品
-
修繕費:園舎の修繕や設備点検
ある園では「パソコンを購入した際、消耗品費に計上してしまい、後で資産計上に修正された」という事例がありました。会計上は10万円以上の備品は固定資産として扱う必要があります。
寄付金や雑収入
保護者や地域からの寄付金は「受取寄付金」として処理します。バザーの収益や廃品回収の収入は「雑収入」で処理できます。
仕分けミスで起こりやすいトラブルと注意点
補助金の区分誤り
補助金を「公費」と「一般」に正しく分けないと、行政から指摘を受け、返還を求められることもあります。
消耗品費と資産計上の区別
10万円未満は消耗品費で処理できますが、それ以上は資産計上。監査ではここがよくチェックされます。
未収金・前受金の処理漏れ
保育料がまだ入金されていない場合は「未収金」、翌月分を前もって受け取った場合は「前受金」で処理しなければなりません。
行事収入の仕分け忘れ
運動会やバザーの収益を雑収入として計上し忘れるケースも多く、監査での指摘が多いポイントです。
「年度末に帳簿が合わなくなり、徹夜で修正した」という経験をされた方も少なくないでしょう。
効率的に仕分けを行うための工夫
仕分けマニュアルの整備
園内でよくある仕分けを一覧表にし、誰でも迷わず入力できるようにしましょう。
会計ソフトの活用
社会福祉法人会計に対応したソフトを導入することで、自動仕訳や帳票出力が可能になります。
出納担当と会計担当の連携
現金管理を担当する出納係と、帳簿をつける会計担当がこまめに情報共有することで、誤りを防げます。
毎月のミニ監査
月末に園長や理事が簡単に帳簿をチェックするだけで、誤りを早期に発見できます。
「園ごとに仕分け事例集を作り、クラウド上で共有する」ことで、誰が入力しても同じ基準で処理できます。
モデルケース:認定こども園A園の改善事例
奈良県にある認定こども園A園では、以前はExcelで会計管理をしていました。
-
補助金仕分けを間違え、行政から修正を求められた
-
未収金の処理漏れで決算時に大きな調整が必要になった
-
月末の集計に3日かかっていた
そこで会計ソフトを導入し、仕分けルールを統一したところ…
-
月末処理が半日で終了
-
監査での指摘がゼロになった
-
園長が経営数値をリアルタイムで把握できるようになった
園長先生は「これで本当に保育に専念できる時間が増えた」と話しています。
社会福祉法人の認定こども園・保育園で仕分けを成功させるために
-
仕分けの基本ルールを職員全体で共有する
-
区分経理を徹底し、補助金・利用者負担・寄付金を明確に分ける
-
会計ソフトを導入し、自動化で業務を効率化する
-
定期的に内部チェックを行い、監査に備える
まとめ
社会福祉法人の認定こども園や保育園では、仕分けの正確さが園の信頼性と直結します。
-
補助金・保育料・給食費など多様な収入源を正しく仕分けること
-
区分経理を徹底し、行政や監査に対応できる体制を整えること
-
会計ソフトやマニュアルを活用し、誰でも迷わず処理できる仕組みをつくること
これらを実践することで、会計業務の負担を減らし、本来の保育・教育により多くの時間を注げるようになります。
まずは園内でよくある仕分けを洗い出し、簡単な仕分けマニュアルを作成してみましょう。さらに将来的にはクラウド会計ソフトの導入を検討し、透明性と効率性を兼ね備えた会計運営を実現することをおすすめします。