保育

【解説】「養護と教育の一体的展開」を理解する ― 保育士・保育教諭に求められる視点

※アフィリエイト広告を利用しています

「養護と教育の一体的展開」と聞くと、抽象的で難しい印象を持つ保育士さんも多いのではないでしょうか。日々の保育現場では、園児の着替えや食事、午睡といった生活支援に追われる一方で、遊びや活動を通した学びの時間も大切にしなければなりません。けれど、この二つをどう結びつければよいのか、迷った経験はありませんか。

「生活の援助=養護」「遊びや学び=教育」と分けて考えてしまうと、保育の仕事が断片的に見えてしまいます。その結果、「今日は養護しかできなかった」「教育的な活動を入れられなかった」と感じ、自己評価が低くなってしまう職員も少なくありません。

しかし、教育・保育要領が示すのは「養護と教育を切り離さないこと」です。生活の援助そのものが教育につながり、教育的な活動も子どもの安心感や健康を基盤にしている。つまり両者は常に重なり合って存在しているのです。

この記事では、まず「養護と教育の一体的展開」とは何かをわかりやすく整理し、現場でよくある悩みを紹介します。そのうえで、実際に取り組める解決方法や注意点を示し、理解を深めるための関連書籍を提案します。読み終えたときに「なるほど、これなら日々の保育に生かせる」と思っていただける内容にしたいと思います。

養護と教育の一体的展開とは

用語の整理

まず「養護」と「教育」という言葉を整理してみましょう。

  • 養護とは、園児が心身ともに健やかに生活できるようにする支えのことです。具体的には、食事や睡眠、排泄、着替えといった基本的な生活行為を安心して行えるように援助すること。ここには「心地よさ」や「安心感」を保障する役割が含まれています。

  • 教育とは、遊びや生活を通して子どもたちが意欲を持ち、自分で考えたり表現したりする力を育むことです。5領域(健康・人間関係・環境・言葉・表現)に沿って、多様な学びを支える役割があります。

「一体的展開」とは、この二つを分けるのではなく「同時に見取る」ことを意味します。例えば、食事をしているときの「スプーンを持つ姿」には健康の支援(養護)があり、自立の芽生え(教育)もあります。午睡前の安心できる声かけは、心身の安定(養護)と同時に自己調整力の育ち(教育)につながります。

背景にある教育・保育要領の考え方

教育・保育要領は、乳児期から幼児期まで切れ目のない支援を重視しています。乳児期の「安心感に支えられた生活」が幼児期の「主体的に遊び学ぶ力」へとつながるため、養護と教育を分けずに見る視点が必要なのです。

これは「保育は特別な教育活動をしなくても、生活そのものが学びにつながっている」という大事なメッセージでもあります。

日常場面の具体例

  • 着替えの援助:ボタンをはめる、靴下を履く。ここには手先の巧緻性を育てる教育的側面が含まれています。同時に、自分でできた達成感が自己肯定感につながります。

  • 食事の時間:ただ栄養を摂るだけではなく、友だちとの会話が言葉や人間関係を育てます。

  • 午睡の前:静かに気持ちを落ち着ける経験は、自己調整力や生活リズムを整える力に直結します。

このように、養護と教育は日常の中で常に結びついているのです。

現場でよくある悩み

計画と日常がかけ離れてしまう

多くの保育士さんが悩むのは、「計画に書いたこと」と「実際にできること」の間にギャップがあることです。週案や日案には教育的な活動を書き込むけれど、現場では着替えや食事の援助に追われ、計画通りに進められない。そんなとき「今日は養護だけで終わってしまった」と感じてしまうことがあります。

しかし実際には、生活の援助の中にこそ教育の要素はたくさんあります。例えば、食事中のやり取りは言葉の発達や人間関係の形成につながっています。つまり「養護の時間が教育につながらなかった」ということは決してないのです。

保護者さんへの説明が難しい

保護者さんから「今日はどんな活動をしましたか?」と聞かれたとき、生活の援助の話だけをすると「遊びや学びが少ないのでは」と心配されることがあります。その結果、保育士自身が「もっと教育的な活動を入れなければ」とプレッシャーを感じてしまうのです。

本来であれば「生活の中の一つひとつが育ちにつながっている」ことを伝えたいのですが、専門用語をそのまま使うと伝わりにくい。ここにも悩みが生まれます。

同僚との認識の違い

園内で「養護を優先すべき」「教育をもっと意識すべき」と意見が分かれることもあります。乳児担当の職員と幼児担当の職員で考え方が違ったり、経験年数によって理解の深さに差があったりすることも珍しくありません。こうしたズレがあると、園全体で統一した実践を進めるのが難しくなります。

解決につながる実践的アプローチ

生活の中の「学び」を見取る

解決の第一歩は、養護の時間を「教育的な学びを含んだ時間」として見直すことです。例えば、着替えをするときに「自分で袖を通せた」だけでなく「自信を持った表情を見せた」と記録する。これは健康領域や自己肯定感の育ちを見取る視点につながります。

小さなできごとに「どんな育ちが隠れているのか」を見取ること。それが一体的展開の実践に欠かせません。

計画と記録を「一体的な視点」で書く

日案や週案には、養護と教育を分けて書くのではなく「両方の視点」を意識して記録する方法が有効です。
例:

  • 食事 → 栄養を摂る(養護)+友だちと会話を楽しむ(言葉・人間関係)

  • 午睡 → 体を休める(養護)+生活リズムを整える(健康)

こうして書き残すことで「養護も教育も、どちらも大事にしている」という自信が持てるようになります。

保護者さんへの説明に「姿」を添える

「今日はしっかり食べました」と言うよりも「今日は友だちに『おいしいね』と話しかけながら食べる姿が見られました」と伝えると、保護者さんも子どもの育ちを実感しやすくなります。教育・保育要領の言葉を噛み砕いて伝えることが、信頼関係づくりの大切なポイントです。

同僚と「視点を共有」する時間を持つ

園内でのミーティングや研修のときに「養護と教育が重なった場面」を持ち寄って共有するのも有効です。同じできごとでも、ある職員は「生活習慣の自立」と捉え、別の職員は「思いやりの芽生え」と捉えるかもしれません。視点を交換することで、自分では気づけなかった学びに気づけます。

子ども主体を忘れない

養護と教育の一体的展開を実践するときに大切なのは「子ども主体であること」です。「今日は教育につなげなければ」と意識しすぎると、子どもたちの自然な姿を見逃してしまいます。大人が枠をはめるのではなく、子どもたちの中から生まれる姿を丁寧に受け止めることが必要です。

注意点とデメリット

教育を意識しすぎてしまうリスク

「養護と教育を一体的に」と聞くと、どうしても教育的な側面を強調したくなります。特に経験が浅い職員ほど「もっと教育的な活動を入れないと」と焦りがちです。しかし、養護の基盤がなければ子どもたちは安心して学ぶことができません。たとえば、午睡が十分に取れず眠気が残っている状態では、いくら活動を工夫しても集中できません。教育を重視するあまり、養護の大切さを後回しにしないよう気をつける必要があります。

書類の負担が増えることも

養護と教育の両方を意識して記録を書こうとすると、書類作成の負担が増えることもあります。実際「日誌に細かく書こうとすると時間がかかりすぎる」という声は少なくありません。大切なのは「長く書くこと」ではなく「本質を見取って記録すること」です。たとえば、1日の中で特に印象に残った子どもの姿を1〜2点に絞って記録するだけでも、十分に養護と教育を一体的に捉える練習になります。

子どもを枠にはめない

「養護と教育の両方を見なければ」と意識するあまり、子どもたちの姿を無理に「どこかの領域に当てはめよう」としてしまうことがあります。これは本来の目的と逆行するものです。子どもたちの姿は一人ひとり違い、時にはどの領域にもぴったり当てはまらないこともあります。その場合は「これはまだ言葉にできないけれど、大切な成長の過程だ」と柔軟に受け止める姿勢が大切です。

職員間の温度差に注意

園全体で一体的展開を進めるとき、経験豊富な同僚と新人の職員で理解の度合いが違うことがあります。知識がある人が一方的に押し付けてしまうと、若い職員が委縮してしまい、学び合いが止まってしまうことも。園として取り組む際は「みんなで一緒に学んでいく」という姿勢を大事にしましょう。

実践を助ける関連書籍の紹介

実践を続ける中で「この関わりで合っているのか」「もっと良い方法はないか」と迷うこともあると思います。そんなときに役立つのが、理論と事例を学べる関連書籍です。ここでは特におすすめの4冊を紹介します。どれも教育・保育要領に沿った内容で、日々の実践や保護者さんへの説明に役立つものばかりです。

『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック 』の活用

保育現場で必携の一冊が 『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック (Gakken保育Books)』 です。要領の内容をわかりやすく整理し、日々の保育や指導計画にどう生かすかを丁寧に解説しています。園児の育ちを支える視点を確認したい新人から、中堅・ベテランの先生まで役立つ実践書です。教育・保育要領を日常の保育に落とし込みたい方にぜひおすすめです。

遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てるで学べる視点

子どもにとって「遊び」は単なる楽しい時間ではなく、主体的に学びを深める大切な営みです。『遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる』は、保育要領の理解を実践につなげたい保育士さんにおすすめの一冊。遊びの価値を理論と事例でわかりやすく解説し、保護者さんへの説明にも役立ちます。

『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例

乳児期の育ちを理解するために役立つ一冊が 『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。月齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通した支援のポイントがわかりやすくまとめられています。授乳・睡眠・食事など日常の生活場面をどう保育に結びつけるかを学べるので、新人の方から経験を重ねた先生まで必携の実践書です。

『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例

就学前の子どもたちを支える先生におすすめの一冊が 『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。年齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通じた支援のヒントがわかりやすくまとめられており、日々の保育実践にすぐ役立ちます。新人の方から経験を重ねた先生まで、子どもたちの育ちを深く理解し保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい一冊です。

どれも専門的な内容をやさしく解説しており、新しい視点で明日からの保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい本となっています。

よくある質問(FAQ)

Q1:養護と教育を一体的に展開するために、特別な活動を準備する必要はありますか?

A:いいえ、特別な活動を用意する必要はありません。大切なのは、すでに日常で行っている生活援助や遊びの中に「学び」があると気づくことです。たとえば、着替えを手伝う場面では「ボタンを留める手先の力」だけでなく、「自分でできた」という達成感をどう育ちにつなげられるかを見取ることができます。

Q2:乳児と幼児で違いはありますか?

A:乳児期では「安心して生活できる環境を整えること」が最優先です。授乳や午睡といった養護の支えそのものが教育につながっています。一方、幼児期ではその基盤の上に「自分で考えて行動する力」「友だちと協力する力」が育っていきます。年齢によって重視するポイントは変わりますが、一体的展開という考え方自体は共通しています。

Q3:保護者さんにうまく説明できません。どうしたらよいですか?

A:専門用語をそのまま伝えるのではなく、「具体的な子どもの姿」を添えるのがおすすめです。「今日は給食を食べました」ではなく「今日は苦手な野菜を一口食べて友だちに『食べられたよ』と嬉しそうに伝える姿がありました」と話せば、育ちを支えていることが自然に伝わります。

Q4:一体的展開を意識すると、記録や書類が負担になります。どう工夫すればよいですか?

A:全てを細かく書こうとすると大変です。1日の中で印象に残ったエピソードを一つだけ選び、「養護の視点」「教育の視点」の両方で見取るようにすると、無理なく続けられます。

日々の保育で試してみたい工夫

子どもの姿を二重の視点で見取る

「できた/できない」で終わらせず、その姿が養護にどう関わっているか、教育の視点では何を育んでいるかを両方考える習慣を持ちましょう。

記録をシンプルに

複雑に書こうとせず、「生活+学び」という二軸で一言残すだけでも十分です。たとえば「着替えでボタンを自分で留めた(生活)。嬉しそうに友だちに見せた(学び)」といった短い記録でかまいません。

保護者さんとの会話に「育ちの言葉」を添える

保護者さんは子どもの成長を知りたいと思っています。「元気に遊びました」よりも「友だちの名前を呼んで一緒に遊ぶ姿が見られました」と伝えることで、子どもの育ちを支えていることが伝わります。

園内での共有を増やす

ミーティングで「今日の養護と教育がつながった場面」を一つ紹介するなど、小さな共有を積み重ねると園全体の視点が育ちます。

まとめ

養護と教育の一体的展開は、特別な新しい活動を増やすことではなく、日常の中にすでにある「生活と学びのつながり」を見取ることです。

計画と実践のズレに悩んでいる保育士さんも、保護者さんへの説明に迷っている方も、まずは「子どもの姿を二重の視点で捉える」ことから始めてみてください。小さな工夫を積み重ねることで、園全体の保育が一体的なものになり、子どもたちの育ちをより豊かに支えることができるはずです。

そして、理論と実践を深めたいときには、関連書籍を手元に置いて読み進めて理解を広げてほしいなと思います。書籍から得た学びを現場で仲間と共有しながら、子どもたちの育ちを支える視点を磨いていけるといいですね。

  • この記事を書いた人

ポジティブ園長

田舎の自然の中で、のんびりと9歳の娘と6歳の息子と暮らすパパ。 保育 × 心理学 × 脳科学をヒントに、職員と子どもたちが共に成長できる園づくりをしています。 “答えのない時代”だからこそ、楽しみながら考え、失敗を恐れず挑戦する──そんな姿を大切に、みんなと歩んでいる園長です。

-保育