
子どもたちの「感じる力」や「心が動く瞬間」を大切にしたいと思いながらも、日々の忙しさの中で「どんな関わりが感性を育てるのか」「感性を育てる保育とは何をすればいいのか」と迷う場面はありませんか?
特に、自然物や素材に触れる遊び、表現活動の時間など、保育の中ではさまざまな機会がありますが、「この関わりで本当に感性が育っているのかな?」と不安になる保育士の方は少なくありません。
幼児教育の知見をもとにすると、感性は特別な活動の中だけで育つものではなく、日常の中の小さな気づきや驚き、人との対話、環境との出会いから豊かに育っていくものです。
この記事では、子どもの感性を育てる保育について、どこから取り組めばよいのか、どんな姿を見取ればよいのか、明日から取り入れられる具体的な実践例を紹介します。
また、現場で多くの保育士が抱える「時間のなさ」「見取りが難しい」「活動がマンネリ化する」といった悩みにも触れながら、無理なくできる工夫、誌面だけでは伝わりにくい環境構成のコツ、保護者さんへの伝え方まで丁寧にまとめました。
この記事を読むことで、感性を育てる保育の捉え方が整理され、子どもたちの育ちを支える視点が増え、日々の保育がより楽しくやさしいものになるはずです。
子どもの「感性」が育つとはどういうことか
感性とは「心が動く力」「感じ取る力」
感性という言葉はよく耳にしますが、幼児教育における意味は少し具体的です。
それは、「まわりの出来事を自分なりに感じ取り、心を動かし、表現しようとする力」のことです。
美しさに気づくこと、友だちの気持ちに寄り添うこと、不思議さを感じて目を輝かせることも、すべて感性の育ちです。
なぜ乳幼児期に感性が育ちやすいのか
五感が最も活発に働き、日々の経験がそのまま脳の発達に結びつきやすいのが乳幼児期です。
初めて触るもの、初めて見る景色、初めて聞く音。こうした「はじめての経験」によって、心が動き、感性が豊かに広がっていきます。
「10の姿」とのつながり
感性は「感じる力」だけでは終わりません。
好奇心や探究心、表現する力、思いやりといった他の育ちにも深くつながっています。
「10の姿」で言えば、以下の姿と特に関連しています。
自己肯定感のある子
思いやりのある子
感性や表現する力が豊かな子
探究心や思考力の芽生えがある子
つまり、感性は「育ってほしい姿」の基盤となる大切な力なのです。
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保育士が知っておきたい大切な視点
・感性は「教える」ものではなく「引き出される」もの
・環境と関わりが感性を育てる中心
・大人の言葉かけが子どもの感じ方に影響する
・結果ではなく「過程」を見取ることが重要
こうした視点を押さえると、感性を育てる保育がよりわかりやすくなります。
現場でよくある悩み(感性を育てる保育が難しい理由)
時間に追われて余裕がない
忙しい生活の中で、ゆっくり子どもを観察する余裕が取れず、「感性を育てる保育」が後回しになりがちです。
「とりあえず今日の活動を終わらせること」が目的化してしまうこともあります。
活動準備が大変で“素材を用意するだけ”になりがち
感性を育てる活動と聞くと、「素材をたくさんそろえなきゃ」「季節の自然物を集めなきゃ」と思い、負担が大きくなります。
しかし、本来は“子どもの気づきが出発点”です。もっと楽に考えることも大切です。
自由遊びの見取りが難しい
自由遊びでは、「どの場面を記録すればいいのか」「どんな姿が感性の育ちなのか」と迷う保育士がとても多いです。
特に0〜2歳は表現が言語化されにくく、「なんとなく遊んでいる」ように見えてしまうこともあります。
職員間で「感性を育てる」の捉え方がバラバラ
感性は目に見える評価が難しいため、職員によって理解が揃いにくい特徴があります。
共通理解がないと活動がバラバラになり、子どもたちの育ちを支えにくくなります。
子どもの感性を育てる保育の実践ポイント
五感が働く環境をつくる
感性の育ちには、まず「環境」が欠かせません。
五感が自然に使われるような環境があることで、子どもたちの心が動きやすくなります。
自然物を取り入れた環境構成
どんぐり、石、葉っぱ、水、砂など、季節の自然物は豊かな素材になります。
特に乳幼児期は「触りたい」「確かめたい」という欲求が強く、自然物の質感はその欲求を満たします。
決して大量に揃えなくてもよく、園庭で見つけたものを“そのまま置いておく”だけでも立派な環境です。
光・影・音を感じられる空間づくり
カーテン越しの光、懐中電灯、影絵、楽器の音…子どもたちの「なんで?」を自然に引き出す要素です。
日常の中のちょっとした変化が、感性を揺さぶるきっかけになります。
素材コーナーの工夫
布、紙、段ボール、紐などの素材を置き、「いつでも触れていい環境」を整えるだけで、子どもたちは主体的に選び、表現が広がります。
遊びの中で感性が育つ瞬間を見取る
感性は「作品の完成」ではなく「過程の中に表れるもの」です。
そのため、保育士が子どもの姿をどう見取るかがとても重要になります。
“心が動いた瞬間”を見逃さない
・目が輝く
・手を止めてじっと観察する
・友だちに「見て!」と伝えようとする
こうした微細な姿が感性の始まりです。
感じ取っている様子を言葉で受け止める
子ども「きらきらしてる」
保育士「光が当たってきれいだね。どこから光がきてるんだろう?」
このように、感じたことを否定せず、広げる言葉かけは育ちを支える大切な関わりです。
「できた」より「気づいた」「感じた」を記録に残す
作品ではなく、そのときの表情・声・つぶやきを残すことで、保護者さんにも伝わりやすくなります。
言葉かけの工夫で感性が育つ
「評価」ではなく「共感」で返す
「すごいね」「上手!」だけでは、評価のやり取りで終わってしまいます。
それよりも、
・「どんなところが気になったの?」
・「ここ、触り心地おもしろいね」
と共感しながら深める言葉が、感性の育ちにつながります。
子どもの視線とペースを大切に
大人が“答えを先に与えてしまう”と、探究が止まってしまいます。
疑問を持つ過程、確かめようとする姿を丁寧に見守ることが大切です。
「ゆっくり考える時間」をつくる
急かさず、急いで片づけさせず、「もう少し見ていたい」という気持ちを大切にすると、体験が深まります。
同僚との共通理解をつくる(チームとしての取り組み)
感性の育ちの“捉え方”を揃える
保育士A「作品が完成することが大事」
保育士B「過程を大事にしたい」
このように認識がバラバラだと、活動の方向性が揃いません。
同僚と「どんな姿を見取るのか」「どこを育てたいのか」を共有することが重要です。
保育記録のキーワードを共通化
・“心が動いた瞬間”
・“気づきのつぶやき”
・“探究の芽生え”
こうした記録の視点を揃えると、職員間の見取りが統一されます。
チームで振り返る時間をつくる
短時間でも「気づいた姿」「広がった遊び」を共有すると、次の活動に生かせます。
子どもの感性を育てるための実践例
日常の中で感性が育つ瞬間をつくる
「気づく」を引き出す声かけ
感性は特別な活動だけでなく、日常の小さな気づきの積み重ねで育ちます。
室内外での活動の中に「なんでだろう?」「どうしてこうなるの?」と感じる場面をつくることが大切です。
・「雨があがったら地面が光って見えるね」
・「氷ってどんな音がするんだろう?」
・「この葉っぱ、触るとどんな感じ?」
一緒に感じ、共に考える姿勢が、子どもたちの心の動きを支える土台になります。
“比べる体験”で視点が広がる
同じ花でも「つぼみ」「咲いている花」「枯れかけの花」を並べてみる。
紙でも「薄い紙」「厚い紙」「ざらざらの紙」を触り比べる。
こうした比較が、新しい発見を生み、「見る」「触る」感覚が豊かになります。
感性を深める表現活動の工夫
絵画や制作は“完成”より“プロセス”を大切に
絵がうまく描けたかどうかではなく、
・色を選ぶときの迷い
・筆の動かし方を試している姿
・何度も描き直す姿
など、過程にこそ感性の豊かな芽生えがあります。
「どれを使いたい?」
「さっきの色とどんな違いがあるかな?」
と問いかけることで、子どもたちの内側にある感情やイメージが引き出されます。
音・リズム・動きの体験を取り入れる
楽器遊びや身体表現は、言葉以外で感情を表現できる活動です。
速さ、強さ、音の高さなど、五感を使って試しながら、子どもたちは自分らしい表現を見つけていきます。
子ども同士の関わりから育つ感性
友だちとの“感じ方の違い”を認める
感性は個性そのものです。
同じ絵を見ても、同じ音を聞いても、違う受け取り方で良いのです。
保育士が
「〇〇ちゃんはこう感じたんだね。△△くんはどう思った?」
と受け止めることで、多様な価値観に触れる経験が生まれます。
共感と対話で視点が広がる
友だちが気づいたことに反応することで、自分にはなかった“見え方”に出会います。
この「自分以外の視点との出会い」が、感性の成長を後押しします。
衝突や違いこそ学びの種
感性が豊かだからこそ、意見の違いや気持ちのすれ違いが生まれることがあります。
そのときこそ、
・相手の感じたことを聞く
・自分の考えを伝える
・お互いの違いを整理する
など、丁寧な対話が育ちになります。
感性の育ちを保護者さんと共有する工夫
結果ではなく“過程の姿”を伝える
保護者さんはつい「上手にできたか」を気にしがちですが、感性の育ちで大切なのは過程です。
写真や短いエピソードを添えて、心が動いた「瞬間」を共有すると理解が深まります。
例:
・「キラキラ光る石を見つめて、何度も向きを変えていました」
・「色を混ぜたときの変化に驚き、しばらく見入っていました」
子どもの見え方・感じ方を丁寧に言葉にすると、園での育ちをよりイメージしやすくなります。
“その子らしさ”を伝える言葉選び
「慎重に確かめるタイプ」
「まず触ってみたいタイプ」
など、個性に合わせた表現を使うことで、保護者さんはもっとお子さんを理解できます。
家庭でできる簡単な関わりも添える
・夕方の風の匂いを感じてみる
・料理中の音に耳を澄ませてみる
など、日常でできる“感性を楽しむ方法”を伝えると、家庭と園のつながりが深まります。
注意点(感性の育ちを妨げないために)
「正解」を急がせない
感性には答えがありません。
「こうしたら?」「こっちの方がいいよ」などの誘導は、子どものイメージを奪うことがあります。
ゆっくり試し、迷いながら選ぶ時間を保証することが大切です。
大人の価値観を押しつけない
「この色は変だよ」
「こう描くものだよ」
といった言葉は、表現の幅を狭めてしまいます。
大人の基準で判断せず「どうしてこうしたの?」と丁寧に尋ねる姿勢を大切にします。
散らかる活動を避けすぎない
感性が育つ活動は、どうしても散らかったり時間がかかったりするものです。
制限をかけすぎると、探索や挑戦の機会が減ってしまうため、環境調整で負担を減らす工夫が必要です。
感性を育てるための環境づくりのポイント
心が動く“出会い”を生む環境とは
素材との出会いで想像が広がる
自然素材(木の実、枝、石、葉)、日常素材(布、紙、空き箱)など、多様な素材に触れられる環境は、子どもたちの感性の揺れ動きを引き出します。
「触ってみたい」「動かしたい」「組み合わせたい」などの気持ちが自然と生まれ、遊びが深まっていきます。
光・影・音などの“変化”を楽しめる工夫
光が差し込む場所、影が映る壁、季節によって変わる音…。
環境要素そのものが、子どもたちの探究心を刺激します。
照明や透明素材を使った遊び、窓辺の観察コーナーなど、小さな仕掛けが「感じる力」を育てます。
子ども主体で選べることが大切
素材の置き方一つで、遊びへの入りやすさが変わります。
手に取りやすい高さ、見通しやすい配置、興味を引く見せ方など、子どもたちが「どう遊ぼう?」と考えられる環境が理想です。
保育士の関わり方が感性の育ちを支える
“一緒に感じる大人”でいること
感性は言葉にしづらい感覚的なものですが、大人が寄り添うことで育ちがより豊かになります。
「冷たいね」「光がゆらゆらしてるね」など、一緒に感じて言葉にすることで、子どもたちは安心して自分の感覚を広げていきます。
ゆっくり待ち、見守る姿勢が土台になる
感性は急かされると育ちません。
保育士が「次はどうするの?」と急かしてしまうと、子どもたちの心の動きが止まってしまいます。
時間を保証し、試行錯誤する姿を丁寧に見取ることが大切です。
子どもたちの“感じたこと”を尊重する言葉かけ
「この色が好きなんだね」
「触ったときの感じが気になったんだね」
など、行動に意味を見いだして伝えると、子どもたちはもっと自信を持って表現できます。
よくある質問と回答(Q&A)
Q1. 感性はどの年齢から育てられますか?
A. 0歳から十分に育ちます。音・光・肌触りなど、五感に触れるすべての経験が感性の土台になります。
年齢に応じて体験の深まり方は変わりますが、いつからでも伸ばせます。
Q2. 絵が苦手な子は感性が育っていないのでしょうか?
A. 絵の得意・不得意と感性は別のものです。
「描くより作るほうが好き」「音で表現するほうが楽しい」など、その子なりの表現方法があります。多様な表現の選択肢を保障することで感性は育ちます。
Q3. 感性を育てるために特別な教材は必要ですか?
A. なくても十分育てられます。
自然物や簡単な素材だけでも、子どもたちは豊かな想像力を発揮します。
ただ、興味を広げる一つの選択肢として質の良い教材を紹介するのも役立ちます。
Q4. 感性を育てる活動は散らかるので困ります……
A. 確かに散らかる活動が多いですが、環境を工夫すると負担は減ります。
床にシートを敷く・素材を限定して出す・活動スペースを決めるなどで、片付けもスムーズになります。
感性教育の理解を深めたい方へ
感性の育ちは、日々の保育の中にある「子どもの心の動きを見取る力」によって大きく変わります。
そのため、多様な事例や理論を知りたい保育士に向けて、より深い学びが得られる書籍を紹介します。
書籍で得られるメリット
・感性の育ちを支える理論的背景がわかる
・現場ですぐに使える保育実践アイデアが豊富
・子どもの表現を見る視点が広がる
・同僚との共通理解づくりにも役立つ
読み進めることで、日々の関わりがより温かく、より丁寧になります。
実践を助ける関連書籍の紹介
実践を続ける中で「この関わりで合っているのか」「もっと良い方法はないか」と迷うこともあると思います。そんなときに役立つのが、理論と事例を学べる関連書籍です。ここでは特におすすめの4冊を紹介します。
まずは、この本に書かれている内容をどんどん真似してみてください。日々の保育の負担がぐっと減ります。
その分でできた余裕で、自分なりの工夫を加えながら保育を改善し、子どもたち一人ひとりの育ちを支えていきましょう。
どれも教育・保育要領に沿った内容で、日々の実践や保護者さんへの説明に役立つものばかりとなっています。
『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック 』の活用
保育現場で必携の一冊が 『幼保連携型認定こども園教育・保育要領ハンドブック (Gakken保育Books)』 です。要領の内容をわかりやすく整理し、日々の保育や指導計画にどう生かすかを丁寧に解説しています。園児の育ちを支える視点を確認したい新人から、中堅・ベテランの先生まで役立つ実践書です。教育・保育要領を日常の保育に落とし込みたい方にぜひおすすめです。
『遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる 』で学べる視点
子どもにとって「遊び」は単なる楽しい時間ではなく、主体的に学びを深める大切な営みです。『遊びが学びに欠かせないわけ―自立した学び手を育てる』は、保育要領の理解を実践につなげたい保育士さんにおすすめの一冊。遊びの価値を理論と事例でわかりやすく解説し、保護者さんへの説明にも役立ちます。
『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例
乳児期の育ちを理解するために役立つ一冊が 『0・1・2歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。月齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通した支援のポイントがわかりやすくまとめられています。授乳・睡眠・食事など日常の生活場面をどう保育に結びつけるかを学べるので、新人の方から経験を重ねた先生まで必携の実践書です。
『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』で広がる事例
就学前の子どもたちを支える先生におすすめの一冊が 『3・4・5歳児の発達と保育:乳幼児の遊びと生活』 です。年齢ごとの発達の特徴や、遊びや生活を通じた支援のヒントがわかりやすくまとめられており、日々の保育実践にすぐ役立ちます。新人の方から経験を重ねた先生まで、子どもたちの育ちを深く理解し保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい一冊です。
どれも専門的な内容をやさしく解説しており、新しい視点で明日からの保育の質を高めたい方にぜひ読んでほしい本となっています。
まとめ ー これから試してみたい工夫
子どもの感性は、日常の小さな気づきや「なんでだろう」と心が動く瞬間から育ちます。
そのためには、保育士が子どもの表情やしぐさに寄り添い、その時々の姿を見取ることが大切です。
・多様な素材に触れる環境を整える
・友だちとの感じ方の違いを尊重する
・大人の価値観で判断せず、自由な表現を受け止める
・家庭と連携しながら、その子らしい感性の芽生えを共有する
こうした積み重ねが、子どもたちの豊かな感性を育ちへとつなげていきます。
明日の保育からでも、小さな工夫をひとつ取り入れてみてください。
きっと、子どもたちの世界の広がりが、あなたの目の前で輝き始めます。
