
お子さんが急な予定変更でパニックになったり、朝の支度にいつも時間がかかったり、「どうしたら落ち着いて過ごせるんだろう」と悩むことはありませんか。ご両親も工夫しているつもりなのに、うまくいかない日が続くと、「育て方が悪いのかな」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
発達が気になるお子さんの中には、「ことばだけの説明」が入りにくかったり、「このあと何が起こるか分からない」という不安から、動けなくなってしまうタイプのお子さんがいます。そうした特性があると、家の中のちょっとした変化でも、大きなストレスになってしまうことがあります。
そんなときに役に立つ考え方のひとつが、TEACCHプログラムです。名前だけ聞くと、専門家だけが使う特別な方法に思えるかもしれません。でも、幼児教育の知見をもとにすると、TEACCHのエッセンスは「目で見てわかる手がかりを増やして、お子さんが安心して行動しやすくする工夫」として、ご家庭でも取り入れやすい部分がたくさんあります。
この記事では、TEACCHプログラムの基本をわかりやすく整理しながら、家の中で使える具体的なコツを紹介していきます。難しい理論を覚えるのではなく、「明日から、朝の支度や寝る前の時間を少しラクにするにはどうしたらいいか」という視点で、ていねいにお伝えしていきます。
最後まで読んでいただくことで、
・TEACCHがどんな考え方なのか
・家庭でどんな「見える化」をするとお子さんが安心しやすいか
・ご両親の負担を増やしすぎずに続けるコツは何か
といったポイントが、具体的にイメージできるようになるはずです。
ご両親が、お子さんの「困ったところ」だけを見るのではなく、「どんな伝え方なら分かりやすいのか」「どんな環境なら安心できるのか」という、お子さんの姿を見取る視点を持てるようになること。それが、日々の小さなストレスを減らし、お子さんの育ちを支える大きな一歩になります。
TEACCHプログラムって何?基本をやさしく整理
TEACCHのねらいと特徴をかみ砕いて説明
TEACCH(ティーチ)という言葉を、園の先生や療育のパンフレットで見たことがある方も多いと思います。もともとは、自閉スペクトラム特性のある方の支援から発展してきた考え方ですが、「特別な子どもだけの方法」というわけではありません。
いちばん大事なポイントは、「目で見てわかる手がかりを増やし、何をすればいいか、どれくらい続くか、終わったらどうなるかをはっきりさせる」ということです。
・どこで
・何をして
・どれくらい続けて
・終わったらどうなるのか
この4つが見える形になると、多くのお子さんはぐっと動きやすくなります。逆に、この情報があいまいなままだと、不安が大きくなり、落ち着かない行動やパニックにつながりやすくなります。
幼児教育の知見をもとにすると、TEACCHは「お子さんの頭の中の地図を、外に出してあげる工夫」と言い換えることもできます。ことばだけではつかみにくい流れを、カードやイラスト、写真などを使って見えるようにすることで、「そっか、今はこれをする時間なんだ」と理解しやすくするのです。
なぜ発達が気になるお子さんと相性がよいのか
発達が気になるお子さんの中には、次のような特徴を持つお子さんが少なくありません。
・ことばで長く説明されると、途中で分からなくなってしまう
・突然の予定変更が苦手で、泣いたり怒ったりしてしまう
・どう動けばいいか分からず、その場で固まってしまう
・指示は聞こえているが、「自分がやること」に整理できない
こうした姿は、一見すると「わがまま」「やる気がない」と見られてしまうこともあります。けれど、「情報の受け取り方」「整理の仕方」に凸凹があると考えると、見え方が変わってきます。
TEACCHは、こうした特性を持つお子さんに対して、「ことばの説明を減らし、視覚的な手がかりを増やす」ことで、安心して動けるようにする方法です。
たとえば、
・「今日は、朝ごはん → 着替え → 公園 → お昼ごはん」と、カードを並べておく
・「お片づけの手順」を、イラストで3ステップにして壁に貼っておく
といった工夫は、まさにTEACCHの考え方そのものです。
ご両親が、「この子は、わざとやらないのではなく、情報の量や伝え方が合っていないのかもしれない」と視点を変えられると、お子さんの姿を見取る角度も変わっていきます。
家庭でTEACCH的な環境づくりをするメリット
「家でまでそんなことをするのは大変そう」と感じる方もいるかもしれません。たしかに、最初に少し準備が必要な部分はありますが、その分、得られるメリットも大きいです。
・同じことを何度も注意する回数が減る
・「早くしなさい」と怒鳴る場面が減り、親御さんの心の負担が軽くなる
・お子さんが「自分でできた」と感じる経験が増える
たとえば、朝の支度で毎日バトルになっていたご家庭でも、「やることボード」を導入しただけで、「今日はここまで進んだね」と一緒に確認できるようになった、というケースがあります。
家の中のすべてを変える必要はありません。特に困りごとが出やすい場面から、少しずつTEACCH的な工夫を取り入れていくことが、お子さんの育ちを支える現実的な一歩になります。
次の章では、TEACCHプログラムの柱である「構造化」という考え方を、家庭でどう生かしていくかを具体的に見ていきます。時間・空間・活動という3つの視点から、お子さんが安心できる環境づくりのコツを整理していきましょう。
TEACCHプログラムの柱「構造化」を家庭に落とし込む
時間の構造化|一日の流れを「見える」形にする
時間の構造化とは、「一日の流れ」や「これからすること」を、お子さんが目で見て分かるようにする工夫です。頭の中だけで「次はね…その次はね…」と説明されても、途中で混乱してしまうお子さんは少なくありません。
家庭でできるシンプルな方法としては、
・「きょうの予定」をカードやホワイトボードに並べる
・朝・帰宅後・寝る前など、場面ごとのミニスケジュールを作る
といったものがあります。
たとえば朝なら、
おきる
顔をあらう
ごはん
きがえ
トイレ
といった流れを、イラストや簡単な文字と一緒にボードに貼ります。終わったらカードを裏返したり、外したりすることで、「どこまで進んだか」「あと何個残っているか」がひと目で分かります。
このとき大切なのは、「早くしなさい」と急かすための道具ではなく、「一緒に見通しを共有するための道具」として使うことです。ご両親が「あと2つでおしまいだね」「ここまでできたね」と声をかけることで、お子さんも「自分で進められている」という手応えを感じやすくなります。
空間の構造化|「どこで何をするか」をはっきりさせる
空間の構造化は、「この場所では何をするか」を分かりやすくする工夫です。
たとえば、
・リビングの一角に「宿題をするコーナー」を決める
・おもちゃの棚を「ブロック」「車」「ぬいぐるみ」などにざっくり分ける
・玄関に「くつをそろえる場所」をテープで囲んで示す
といった、小さな工夫だけでも効果があります。
発達が気になるお子さんの中には、「場所によって気持ちを切り替える」ことが難しいお子さんもいます。空間の役割をはっきりさせることで、「ここに座ったら、宿題の時間」「このマットの上は、ゴロゴロしていい時間」と、自然にモードを切り替えやすくなります。
お片づけが苦手なお子さんの場合も、「どこに戻せばいいか」が視覚的に分かると、負担がぐっと減ります。写真ラベルやイラストを貼っておくと、「これはどこ?」と聞かれる回数が減り、ご両親のイライラも少し和らぎます。
活動の構造化|作業の手順をステップに分ける
活動の構造化は、「一つひとつの行動の手順」を、細かいステップに分けて示すことです。
たとえば「お片づけしてね」と言われても、
・どこから始めたらいいのか
・どこまでやればいいのか
・終わりがどこか
が分からず、手が止まってしまうお子さんも多いです。
そんなときは、
かごを持つ
床に出ているおもちゃをかごに入れる
かごを棚に戻す
というように、3ステップくらいに分けて、イラストや写真で示しておきます。壁に貼っておいて、「今はどこかな?」と一緒に確認しながら進めると、「できた」が実感しやすくなります。
同じように、「着替え」「外出準備」「宿題」など、毎日つまずきやすい活動も、3〜5個くらいのステップにしてみると、お子さんの表情が変わってくることがあります。
幼児教育の知見をもとにすると、小さなステップに分けて取り組むことは、「失敗しにくい体験」を積み重ねることにつながります。お子さんの育ちを支えるうえで、「やればできた」「やってみても大丈夫だった」という感覚は、とても大事な土台になります。
構造化のやりすぎに注意|柔らかさを残すことも大事
一方で、時間・空間・活動の構造化を進めるときに、注意したいポイントもあります。それは、「決めごとを増やしすぎないこと」です。
スケジュールやルールを細かくしすぎると、
・想定外の出来事に対応しにくくなる
・少しでも崩れると大人がイライラしやすくなる
・「うまくいかない=ダメ」と感じやすくなる
といったデメリットが出てくることがあります。
大切なのは、「特に困りごとが出やすい場面」を選んで、そこから始めることです。たとえば、朝の支度が一番大変なら、まずは朝だけ。夜の入眠儀式が乱れやすいなら、寝る前の流れだけ。
決めたスケジュールも、「今日は特別に変えてみようか」「ここは省略していい日もあるよ」と、ご両親が柔らかく運用していくことが、お子さんにとっての安心感にもつながります。
TEACCH的な構造化は、「型にはめること」ではなく、「お子さんが動きやすいように道筋を照らすこと」です。そのことを心にとめながら、次の章では、今日からすぐに試せる具体的な工夫を、場面別にご紹介していきます。
今日からできる!TEACCHプログラムを家庭に取り入れる具体例
朝の支度をスムーズにする「やることボード」
ここからは、TEACCHプログラムの考え方を、家庭でどう使うかを具体的に見ていきます。まずおすすめなのが、朝の支度を見える形にする「やることボード」です。
多くの親御さんが、「朝になると毎日同じことで怒っている」と感じています。起きない、着替えない、歯みがきをしない……。お父さん、お母さんがイライラしてしまうのも、決して不思議なことではありません。
このとき、「ちゃんとして」「急いで」という声かけだけでは、お子さんの頭の中はますます混乱してしまいます。そこで、
・おきる
・トイレ
・顔をあらう
・ごはん
・はみがき
・きがえ
といった流れを、一枚ずつカードにしてボードに貼ります。終わったらカードを裏返す、下の段に移す、箱に入れるなど、お子さんと一緒に「終わった合図」を決めておくとよいでしょう。
ポイントは、時間を競争させるのではなく、「ここまでできたね」と進み具合を共有することです。幼児教育の知見をもとにすると、「できたところを具体的に認められる経験」が増えるほど、お子さんの自己肯定感ややる気は育ちやすくなると言われています。
パニックを減らす「予告」と「見通しカード」
次におすすめしたいのが、「予告」と「見通し」の工夫です。遊びからお片づけへの切り替え、外出前の準備など、切り替えの場面で涙や怒りが爆発してしまうお子さんは少なくありません。
その多くは、「今の楽しい時間が、いつ終わるのか分からない不安」や、「急に終わりを告げられるショック」から来ています。そこで、事前にカードや短い言葉で予告をしておきます。
・「あと3分でお片づけだよ」
・「この絵本を読んだら寝る時間だよ」
・「ブロックが終わったら、ごはんのじかんだよ」
といった形で、次の予定をセットで伝えます。時計やタイマーが好きなお子さんなら、「砂時計が落ちたらおしまい」といった形もよいでしょう。
さらに、「きょうのながれ」を1枚のカードにしておくと、切り替えのたびに「次はなにかな?」と一緒に確認できます。「見通しカード」を使うことで、「終わり」と「次」がセットで見えるようになり、パニックが少しずつ減っていくことが期待できます。
お子さんの得意な理解スタイルを見取る
TEACCHプログラムを家庭に取り入れるうえで、忘れたくないのが「お子さんの得意な理解スタイル」を見取ることです。
同じカードでも、写真のほうが分かりやすいお子さんもいれば、イラストのほうが好きなお子さんもいます。文字が少し読めるお子さんなら、ひらがなを併記しておくと、「自分で読めた」という喜びにつながることもあります。
親御さんが、「どのカードにいちばん反応がいいかな」「どんな配置だと、自分から見に行きやすいかな」と日々観察していくこと自体が、育ちを支える大切な関わりです。
完璧なセットを最初から作ろうとする必要はありません。プリントした紙でも、手書きの絵でも十分です。「今日はこのカードを使ってみようか」と、お子さんと一緒に選ぶ時間も、楽しいコミュニケーションになります。
うまくいかないときに見直したいポイント
もちろん、TEACCH的な工夫をしても、すぐにうまくいかない日もあります。「カードを見てくれない」「ボードに近づこうとしない」といったことも、よく起こります。
そのときに、「この子には合わない」とすぐあきらめてしまう前に、次のような点を見直してみてください。
・カードの数が多すぎて、見ただけで疲れてしまっていないか
・ステップが細かすぎて、進んだ実感が持ちにくくなっていないか
・大人の期待するスピードが速すぎて、お子さんのペースとかみ合っていないか
ときには、「朝は3枚だけ」「寝る前だけ使う」など、思い切って減らしてみることも大切です。また、ご両親の事情で「今日はカードに頼らず、声かけだけにしよう」という日があってもかまいません。
大事なのは、「うまくいかないのはお子さんのせい」ではなく、「今のやり方が、この子に合っていないのかもしれない」と考え直す視点です。その柔らかさこそが、長い目で見たときにお子さんの安心感と信頼感を育てていきます。
家庭療育とTEACCH|考え方を学べる情報・プログラムの活用
TEACCHだけにこだわらず「家庭療育」の全体像を知る
ここまで、TEACCHプログラムの柱である「構造化」と、その具体的な工夫を見てきました。少しイメージがわいてきた親御さんも、いらっしゃるのではないでしょうか。
一方で、実際の発達支援の現場では、TEACCHだけでなく、さまざまな考え方が組み合わさって使われています。行動の背景を考える視点や、感覚の特性を理解する視点、ことばの育ちを支える視点など、いろいろな「メガネ」をかけ替えながら、お子さんの姿を見取っていくイメージです。
幼児教育の知見をもとにすると、「この方法が絶対」「このやり方だけが正しい」と決めつけるよりも、
・わが家のお子さんには、どの考え方が役に立ちそうか
・家庭では、何を意識して関わると育ちを支えやすいか
という全体像を知っておくことのほうが、長い目で見て力になります。
TEACCHプログラムも、その全体像の中の大切なピースの一つです。
家庭での関わり方を整理してくれる解説記事の活用
ただ、ご両親が独学であれもこれも勉強しようとすると、情報の多さに圧倒されてしまうこともあります。「専門書はハードルが高い」「ネットは情報が多すぎて選べない」という声もよく聞きます。
そんなときに頼りになるのが、家庭療育の考え方や、日常の声かけ・環境づくりをやさしく整理してくれている解説です。たとえば、
のようなページでは、お子さんの特性に合わせて、
・行動の背景にどんなサインが隠れているか
・親御さんはどこに目を向けるといいのか
・家庭でできる支援の工夫にはどんなものがあるか
といったポイントを、具体的な言葉で紹介しています。
TEACCH的な「見える化」の工夫に加えて、「声かけ」「ほめ方」「親御さん自身の心の守り方」などを一緒に整理して知っておくと、日々の関わりがぐっとラクになります。まずは一度読みながら、「わが家で試せそうな工夫」「お子さんに合いそうなアイデア」に線を引いてみるのも、よいスタートになるでしょう。
家庭療育をサポートするプログラムを選ぶときのチェックポイント
最近は、家庭療育をサポートする通信講座やオンラインプログラムも増えてきました。「家でできることを、もう少し体系的に学びたい」と感じたとき、こうしたサービスを検討される親御さんも多いです。
選ぶときには、次のような点を意識して見てみてください。
・専門用語ばかりではなく、日常生活の場面に落とし込んで説明しているか
・1日あたり、現実的に取り組める分量になっているか
・わからないことを質問できる窓口やフォローがあるか
・「こうしなければならない」ではなく、「できるところからで大丈夫」といったスタンスが感じられるか
ご両親が無理をしてがんばり続ける形では、どんなに内容がよくても続きません。お子さんの特性と、親御さんの生活リズムの両方に合っているかどうか。そこを冷静に見極めることが大切です。
通所の療育との組み合わせ方を考える
すでに療育に通っているご家庭では、「通所と家庭療育をどう組み合わせたらいいのか」と迷うこともあるかもしれません。
理想は、
・通所先で、お子さんの特性や得意なスタイルを一緒に整理してもらう
・そこで教えてもらった工夫のうち、「家庭でもできそうなもの」を一つ選んで試してみる
・うまくいったこと・難しかったことを次の機会に共有する
というサイクルです。
TEACCH的な環境づくりも、通所先と家庭で共通して意識できると、お子さんにとって「分かりやすさ」が増えます。すべてを完璧にそろえる必要はありませんが、「家でも、こんなボードを使っています」「次はこうしたいと思っています」といった情報を分かち合えると、お子さんの育ちを支えるチームとして心強くなります。
TEACCHを家庭に取り入れるときのデメリット・注意点
親御さんの負担が増えすぎないようにする
ここで、TEACCHプログラムを家庭で実践するときの注意点も、正直に触れておきたいと思います。
まず、カードを作ったりボードを用意したりと、最初の準備に時間がかかりがちです。完璧を目指してしまうほど、ご両親の負担は大きくなります。
忙しい中で無理をすると、
・夜なべしてカードを作り、翌日にはヘトヘト
・疲れている日に片づけられないと、自分を責めてしまう
といったことにもつながりかねません。
「できる範囲で」「一か所から」が合言葉です。市販のイラスト素材や、手書きの簡単な絵でも十分です。お子さんは、大人が思うほど「クオリティ」にこだわってはいません。一緒に使ってくれる、ということ自体がうれしいのです。
型にはめすぎない|お子さんのペースを尊重する
TEACCH的な構造化は、上手に使うとお子さんに大きな安心感をもたらしますが、「決めたとおり動かないと怒られる」という雰囲気になると、一気に息苦しいものになってしまいます。
・スケジュールどおりに進まないと、大人がピリピリする
・カードを見ないと叱られる
・「できたところ」より「できなかったところ」ばかり目につく
こうした状況が続くと、お子さんにとってボードやカードが「不安の象徴」になってしまうこともあります。
その日の体調や気分によって、できる日とできない日があるのは自然なことです。「今日はここまでできたね」「ここから先はおとなが手伝うね」といった柔らかさを持ち続けることが、長く付き合っていくうえで大切です。
ご家族全員にとって無理のないルールづくり
TEACCH的な工夫は、できるだけご家族全員が共有できると効果的です。
たとえば、
・きょうだいも同じ「やることボード」を使う
・祖父母にも、カードの意味や使い方を知ってもらう
といった形で、「家族みんなのツール」として扱うと、お子さんも受け入れやすくなります。
逆に、ご両親だけが一生懸命カードを使っていて、周りの大人は好きなようにしている状況では、お子さんも混乱してしまいます。「この家では、こうすると分かりやすいんだね」という共通理解があると、支え合いやすくなります。
うまくいかないときは「相談していいサイン」
工夫をしても、なかなかうまくいかないときがあります。お子さんが極端に嫌がっている、パニックが続いている、ご両親が疲れきってしまっている……。そんなときは、「家庭だけで何とかしなくてはいけない」と抱え込まなくて大丈夫です。
園やこども園の先生、療育センター、発達相談窓口などに、「家でこういう工夫をしてみたのですが」と相談してみてください。
TEACCHの考え方も、専門家と一緒に振り返ることで、「この子には、ここを変えてみるとよさそう」という新しいヒントが見つかることがあります。うまくいかない状況は、「失敗」ではなく、「相談していいサイン」と受け止めていただけたらと思います。
よくある質問Q&A|TEACCHプログラムと家庭実践
Q1:専門家ではない親でも、TEACCHを取り入れて大丈夫?
A:大丈夫です。専門家と同じことを再現する必要はなく、「考え方の一部を、家庭向けにやさしくアレンジする」というイメージで取り入れていくと安心です。
幼児教育の知見をもとにすると、日常生活の中で少しずつ環境を整えることは、それだけでも十分に意味があります。「できそうな工夫を一つだけ選んで、1〜2週間試す」くらいの気持ちで始めてみてください。
Q2:きょうだいがいる場合、どう説明すればいい?
A:「お兄ちゃん(お姉ちゃん)が分かりやすいように、絵を使っているんだよ」「みんなが困らないように、やることを分かりやすくしているんだよ」といった伝え方がよく使われます。
きょうだいにとっても、「やることボード」や「見通しカード」は役に立つことが多いです。「自分も使いたい」と言い出したら、ぜひ一緒に取り入れてみてください。家族みんなで同じツールを使うことで、「特別扱い」ではなく「わが家のスタイル」として根づきやすくなります。
Q3:カードやボードを嫌がるときはどうすれば?
A:カードそのものが苦手な場合もあれば、「カードを見る=活動が終わる」と結びついてしまい、抵抗感が出ている場合もあります。
そのときは、
・カードのデザインを変えてみる(好きなキャラクターや色を使う)
・貼る場所を変えてみる(目立ちすぎない位置にする)
・使う場面を絞って、「好きな活動」にもカードを使ってみる
など、少し視点を変えて試してみてください。
どうしても合わないようであれば、時計やキッチンタイマー、口頭での予告など、別の方法に切り替えてもかまいません。大事なのは「この形に合わせること」ではなく、「お子さんが分かりやすく安心できる方法を一緒に探すこと」です。
Q4:どのくらい続けると効果が見えてきますか?
A:数日で劇的に変化することは多くありません。むしろ、2〜3週間、1〜2か月といった単位で、「前よりパニックが減ったかな」「少し自分から動く場面が増えたかな」と、小さな変化を見ていくことが大切です。
変化に気づきやすくするために、簡単なメモをつけておくのもおすすめです。
・今日できたこと
・がんばっていた姿
・うまくいかなかった場面
などを少しだけ書きとめておくと、「思ったよりも成長しているんだな」と実感しやすくなります。
まとめ|これから試してみたい工夫
TEACCHプログラムは、難しい専門用語のかたまりではなく、「お子さんが安心して、次にすることをイメージしやすくするための工夫の集まり」です。
これから試してみたい工夫として、たとえば次のような一歩があります。
・いちばん困っている場面(朝の支度・寝る前など)を一つ決める
・その場面の流れを3〜5つのステップに分けて、簡単な「やることボード」を作ってみる
・お子さんの反応を見取りながら、「ここは合っていそう」「ここは変えてみよう」と少しずつ調整する
さらに、家庭での関わり方をもう少し整理して知りたいときには、
のような解説も参考になります。TEACCH的な構造化だけでなく、「行動の背景」「声かけ」「親御さんの心の守り方」など、家庭療育全体の考え方が見えてくるはずです。記事を読みながら、「これならわが家でもできそう」という工夫に丸をつけていく時間は、それ自体がお子さんの育ちを支える準備の時間になります。
完璧なやり方も、完璧な親も必要ありません。お子さんの小さな変化をていねいに見取り、「今日はここまでできたね」と一緒によろこぶ。その積み重ねこそが、お子さんの安心と自信を育み、ゆっくりとした歩みを支えていきます。ゆるやかに、できるところから、一歩ずつ進んでいきましょう。
