社会福祉法人が運営する認定こども園や保育園では、園児への保育や教育だけでなく、会計処理の透明性と正確性が強く求められます。行政からの運営費補助金や保護者からの利用者負担金を適正に管理し、監査の報告に耐えられる体制を整えるためには、帳簿管理の基礎を理解することが欠かせません。
しかし、実際の現場ではこんな悩みを抱えていませんか?
「どの帳簿を整備すればよいのか分からない」
「日常の記録が煩雑で、処理に時間がかかる」
「監査で帳簿不備を指摘されないか不安」
会計処理は“分かりにくい専門用語”や“ルールの多さ”でつまずきやすい分野です。
この記事では、社会福祉法人会計における必要帳簿の種類と目的、認定こども園や保育園で特に重視される帳簿、実務の流れと効率化の工夫を解説します。
社会福祉法人会計と帳簿の位置づけ
社会福祉法人会計基準の概要
社会福祉法人は、公益性と透明性を確保するために「社会福祉法人会計基準」に従って帳簿を整備しなければなりません。2011年の改正以降、企業会計に近づけつつも、公益性を担保する独自の仕組みが設けられています。
企業会計との違い
一般企業では利益追求を目的に「損益計算書」で業績を示しますが、社会福祉法人では「事業活動計算書」で活動の成果を示し、利益よりも公益性と資金の使途の明確化を重視します。
帳簿が必要とされる理由
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資金の流れを正確に把握するため
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補助金や利用者負担金を適正に管理するため
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行政監査・外部監査での確認に備えるため
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職員・保護者・地域に対して説明責任を果たすため
基本的に必要となる主要帳簿
現金出納帳
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現金の入出金を毎日記録する基本帳簿。
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小口現金の使用や行事費の支出管理に欠かせません。
預金出納帳
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銀行口座ごとの入出金を管理する帳簿。
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補助金や利用者負担金の入金、職員給与や備品購入の支払いを明確化。
仕訳帳
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全ての取引を時系列で記録。
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勘定科目ごとの整理の基礎となり、決算時の重要資料。
総勘定元帳
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仕訳帳をもとに、勘定科目ごとに集計する帳簿。
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決算書(資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表)の基盤。
補助簿
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未収金・未払金・固定資産など、特定の科目を補助的に管理する帳簿。
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固定資産台帳は減価償却費の算出に不可欠。
認定こども園・保育園で特に重視される帳簿
給食費・教材費などの実費徴収簿
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保護者から徴収する給食費や教材費を記録。
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行政指導では特に「実費徴収分と補助金収入の区分」が確認されるため、必須。
補助金管理簿
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運営費補助金、加算費、各種補助事業ごとの収入・支出を記録。
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補助金の使途は限定されるため、不正使用を防ぐためにも明確化が求められる。
利用者負担金管理簿
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保育料など保護者からの徴収分を記録。
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市町村からの入金と園での徴収分を突合できる仕組みが必要。
人件費管理簿
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職員給与、社会保険料、退職金積立などを整理。
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人件費は支出全体の6〜8割を占めるため、最重要項目。
帳簿管理の実務の流れ
日次業務
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現金・預金出納帳への記録
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領収書・請求書の整理
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小口現金残高の確認
月次業務
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試算表の作成
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予算と実績の比較
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理事長や園長への収支報告
年次業務
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決算書類の作成(資金収支計算書・事業活動計算書・貸借対照表)
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公認会計士による監査対応
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所轄庁への報告書提出
よくある課題と解決策
帳簿が煩雑で時間がかかる
クラウド会計ソフトやExcelテンプレートを活用し、自動仕訳や銀行連携で効率化。
実費徴収の処理が曖昧
給食費や教材費は「補助金とは別枠」で帳簿化。保護者への説明責任を果たすためにも明細を残す。
監査で指摘されやすいポイント
出納帳と通帳残高の不一致、領収書の紛失。毎月突合・領収証ファイリングで対応。
効率的な帳簿管理のための工夫
クラウド会計ソフトの活用
社会福祉法人対応ソフト(例:PCA、OBCなど)で自動仕訳を導入。
本部と園の帳簿を統一
フォーマットを統一することで、決算時の集計がスムーズに。
自己点検チェックリスト
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「出納帳記録済みか」「領収書は保管済みか」など定期的に確認。
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職員が交代しても引き継ぎやすい。
まとめ
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社会福祉法人の認定こども園・保育園では、出納帳・仕訳帳・総勘定元帳・補助簿が必須帳簿。
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実務では「給食費・教材費」「補助金」「利用者負担金」「人件費」など園特有の帳簿が重要。
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帳簿管理は 日次→月次→年次 の流れを押さえ、効率化ツールや統一フォーマットで負担を軽減できる。
帳簿は単なる義務ではなく、園経営の“見える化ツール”。正確な記録は監査対応だけでなく、健全な運営と信頼につながります。